トップへ

バイク乗りならわかる? マツダ「ロードスター」の新技術「KPC」とは

2022年02月17日 11:31  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
マツダがライトウェイトスポーツカー「ロードスター」の商品改良を実施した。目玉は世界初の新技術「キネマティック・ポスチャー・コントロール」(Kinematic Posture Control=KPC)の搭載だが、これってつまりはどういう技術なのか。「24時間、365日、クルマのダイナミクスのことを考えている」と話す開発者に、クルマのマニア以外でもわかるように解説してもらえないか頼んでみた。


○バイクの模型を使って解説!



“キネマティック”とは幾何学のこと。日本語では「運動学に基づいた車体姿勢の制御技術」と訳す事ができる。開発を担当したのは、マツダ操安(操縦安定)性能開発部の梅津大輔氏。ロードスター試乗後にオンラインで話を聞くことができたので、新技術を「誰にでもわかる形で」解説してくれるよう、お願いしてみた。



まずは「オートバイに乗られますか?」と梅津氏。「乗ります」と答えると、梅津氏は手元に置いてあったバイクの模型を手に、「バイクの後輪のスイングアームの支点は、車軸の位置より高い位置にとってありますよね。だから、ブレーキをかけた時にリアがリフトアップしないで、グリップ力が保たれます」と説明を始めた。確かに最新のバイクでも、ちょっと古い2002年製のホンダ「XL230」でも、スイングアームは斜め下向きに取り付けられている。


バイクとロードスターは、リアサスペンションの特性が似ている。梅津氏の解説だ。



「ロードスターのリアのマルチリンクサスペンションも(バイクと)同じ考え方で取り付けられていて、制動力が発生した時(つまりブレーキング時)にサスペンションの瞬間回転中心であるトレーリンク軸には下向きの力(アンチリフト力ともジャッキダウン力ともいう)が加わります。これが今までのロードスターの良さで、リアがグッと下がることでグリップ力を保っていました」



「しかし、高速度域での走行パターンが多い欧州、特にドイツのカントリーロードなどでは制限速度が100km/hと高く、しかもアップダウンのあるコーナーが連続する場所が多いので、そこでの走りについて、あと一歩性能を上げたいとの要求がありました。それで24時間、365日ずっと走りのことを考えていた私のアイデアを実行に移したのが、今回のKPCなんです」


KPCは具体的に、クルマの旋回状態をリア左右の車輪の回転速度差から検知し、旋回がキツくなるにつれてリア内輪側のブレーキにわずかな制動力を与え、車体の浮きを抑制することで自然で安定した旋回姿勢を保つという技術だ。横Gが0.3G以上で作動し、その時に与えるブレーキ制動力は、ペダルに足を乗せる程度のほんのわずかな力なのだそう。数値的には、半径30mのコーナーに55km/hで進入した時、KPCなしのものに比べて浮き上がりが3mm減少した、というデータがある。


○KPC装着でニュルのタイムが短縮?



開発はドイツの有名なサーキット「ニュルブルクリンク」で進めたという。



「2018年に開発がスタートし、ニュルブルクリンク北コースなどでテストを繰り返すことで熟成を進め、2019年には技術としてほぼ完成していました。実際にニュルを走ってみると、KPCなしのものに比べて5~10秒近くもタイムアップを果たすことができました。記録に幅があるのは、ニュルはさまざまなクルマが混走しているからで、クリーンな状態でのタイムアタックではないからです」



走行データからは、姿勢が乱れるようなアンジュレーションの強い路面でもフルスロットルでコーナーを立ち上がれるポイントがあることがわかり、車両姿勢の改善によりドライバーのアクセル修正操作が低減したことがタイム向上につながったという。姿勢変化が少ないことによる安心感はドライバーだけでなく助手席のパッセンジャーにもしっかりと伝わり、人馬一体感をさらに味わえることもわかったそうだ。



KPCのメリットは、新たにパーツを追加したわけではないので、導入による重量増加が1gもないところ。ブレーキの作動量がほんのわずかであるため、パッドの摩耗増加や温度上昇も起こらない。ブレーキパッドやローター、タイヤ、サスペンションなどを性能の高いものに変更しても、KPCの作動には影響がないそうだ。商品改良後のロードスターはソフトトップでもハードトップでも、全グレードにKPCが付いている。


余談だが、マツダは古いメルセデス・ベンツ「W124」(初代Eクラス)を研究用に所有している。同型車に日常ユースで乗っている筆者としては、KPCの開発でW124を参考にしたのかどうかが気になったので梅津氏に聞いてみると、「W124は革新的なマルチリンクサスペンションを搭載したクルマとして、今でも研究対象になっています。(マツダ所有車の)1台目は全てバラしてデータを取り、2台目を購入しました」とのこと。


確かにW124でのコーナリングは、そこそこのロール感を伴うもののリアが安定していて車両の状態がつかみやすく、どんな場面でも乗員の安心感が高い。「温故知新」でロードスターの性能と魅力を突き詰めていくマツダの姿勢には頭が下がる。


原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)