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風船が生みだす幻獣たちの世界 谷川雄馬さんのバルーンアート

2022年02月16日 15:01  おたくま経済新聞

おたくま経済新聞

風船が生みだす幻獣たちの世界 谷川雄馬さんのバルーンアート

 風船を使った「バルーンアート」という言葉を聞いて、皆さんはどのようなものを想像するでしょうか。風船は膨らませるもの、という意識からだと、膨らませた風船を加工する作品が目に浮かぶかもしれません。


 しかし、風船を「膜状のゴム」だと考えると、素材としての可能性は広がります。バルーンアーティストの谷川雄馬さんは、風船という「ゴム膜素材」を使い、ファンタジー世界に登場するような数々の幻獣たちを作り続けています。


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 谷川さんが現在のようなバルーンアートを本格的に手掛けたのは、2019年5月ごろのこと。ご自身の結婚式に際し、ウェディングブーケを風船で作ってほしい、と新婦から提案されたことがきっかけだったといいます。


 この手法は古くからあり、谷川さんもご存知だったとのこと。「それまではほとんどやることはなかったのですが『昔作った白い花のブーケを作ってほしい』という言葉が、世に出すきっかけとなりました」と振り返ってくれました。


 その際、担当のウエディング業者さんから「長年やってますが今まで見たことない」と言われたこと、そして同じ時期に開催された手作りアートの祭典「デザインフェスタ」で、類似したものがなかったこともあり、可能性を感じて取り組むようになったそうです。


 谷川さんの手法は、針金と適度な大きさの風船を素材としたもの。まずは針金をU字型に曲げ、そこに風船をかぶせます。


 風船を伸ばして任意の場所で固定。この際、針金は風船の口を巻き込むようにねじってしまいます。


 さらに風船が外れないよう、保護用のフローラテープ(フラワーアレンジメントやプリザーブドフラワー作りに使われる粘着テープ)で根本部分を巻き、しっかりと固定。これで下準備の完成です。


 出来上がった「針金の入ったゴム膜(風船)」を、任意の形に整えていきます。これは作品を構成するパーツであり、色々な形のものを組み合わせ、作品が出来上がっているのだそう。「花一輪を作るのに約15分程度かかります」と谷川さん。


 制作にかかる時間は大きさや形状によっても変わります。「幻獣の制作には1か月~3か月かかっています。特に時間がかかるのは顔の部分で、ここの表現や大きさで体のバランスやディティール表現の細かさが決まってくるので、時間がかかっている気がします」


 もともとこの技法は、花を作るために編み出された技法なんだそうですが、谷川さんはファンタジーや、そういった作品世界のRPGがお好きで「そこに出てくるような生き物や花を作ったら面白いかも、と思って制作しています」とのこと。


 一番のお気に入りについてうかがうと、鹿をモチーフにした「神鹿 -春雷-」という作品を挙げてくださいました。「去年制作した作品で、現代アートの大会にも入選した思い出深い作品」だそうで、この作品が幻獣作りの起点となったようなものなんだとか。


 残念ながら、この作品は展示の際に破損してしまったとのこと。膨らませてはいないものの、ゴムの薄膜でできているため、ケースで保護していないと傷つき、素材が裂けてしまうことがあるんだそうです。


 谷川さんの作品はシャープなようでいて、自在な曲線でフォルムが作られているのも大きな特徴。様々な角度から見てほしいそうで「曲線や動きのある部分、全体のバランスを感じてもらえたら」との気持ちも教えてくださいました。


 また「作品を通じて『全員自分の内の世界や願望を持っていて、それを表に出して表現してほしい』と思っています。僕はたまたまバルーンアートでしたが、本来は誰だってその人に合う方法で表現ができると考えています」とも語り、作品を見て少しでもワクワクしてくれたら、とても嬉しいとのことでした。


 谷川さんのファンタジー世界は、まだまだ広がっていきます。「今後は龍や霊孤、シーラカンス、マンタなど制作したいモチーフはいっぱいあります」との言葉を耳にすると、次の作品が待ち遠しくなってしまいますね。


 谷川さんのバルーンアート作品は、随時ご自身のSNSで画像がアップされるほか、展覧会にも出品されています。2022年2月18日~3月6日には、東京・下目黒にあるmaruseでの合同展「自在展参」に、また3月19日~3月21日に大阪南港ATCホールで開催される「OSAKAアート&てづくりバザール vol.39」にも、「Caravan」という名義でそれぞれ参加されるとのことです。



<記事化協力>
谷川雄馬さん(@balloon_yuma)


(咲村珠樹)