2022年02月13日 07:51 弁護士ドットコム
アイドルなど、自分の大好きな「推し」を応援する「推し活」をしていれば、「推しの公演を見に行きたい」と思うことは日常茶飯事。SNSやチケットサイトで、定価よりも高い値段でチケットが転売されているのを見たことがあったり、あるいは使ったことがあったりする人もいるでしょう。
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一方で、「チケット不正転売禁止法」が2019年6月14日に施行されています。チケットの不正転売をめぐる法律問題について、河西邦剛弁護士、松下真由美弁護士の新著「清く楽しく美しい推し活 推しから愛される術」(東京法令出版)から一部抜粋してお届けします(編集部が一部修正、再構成)。
国民的アイドルグループの公演をどうしてもいい席で見たい...そう思ったファンが、いくつかの公演のチケットを転売により複数入手。いい席のチケットは自分で使うため、チケット記載の名前の身分証を偽造して入場。余ったチケットは次のコンサートの軍資金のために、他の人に定価を大きく超える価格で転売。しかし、ある日警察がやってきて、裁判にかけられてしまうことに...!?
実際に起きたこの事例では、「特定興行入場券」に当たる公演チケットを定価以上の価格で転売した行為が、チケット不正転売禁止法に違反しているとされました。次のコンサートの軍資金に充てるためという理由からは、反復継続してチケットの転売を繰り返す意思があったことが読み取れます。また、身分を偽るために身分証を偽造し、それを提示して入場した行為が、私文書偽造、同行使罪に当たるとされました。
転売して得た利益、28万8000円を吐き出す形で、本人には罰金30万円と、執行猶予付きで懲役1年6月の刑 が科されました。
チケット不正転売禁止法が禁止しているのは、次の2つの行為です。
(1)特定興行入場券を不正に転売する行為(第3条)
(2)特定興行入場券の不正転売を目的として、特定興行入場券を譲り受ける行為(第4条)
そして、これに違反した人に対しては、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はその両方の罰が科されることになっています(第9条第1項)。
罰金刑はもちろん軽くはないですが、懲役刑、つまり刑務所に入る可能性もあるわけで、チケットの不正転売等に関しては、なかなか重い刑罰が定められているといえるでしょう。
では、チケットはすべて、人に転売してはいけないのでしょうか。実は、この法律はあらゆるチケットの不正転売を禁止する法律ではありません。法律が定めた「特定興行入場券」の不正転売がNGなのです。
「特定興行入場券」とは、日本で行われるアイドルやアーティストのライブ、スポーツといったイベント(興行)に、それを提示することで入場できるチケットであって、不特定又は多数の人に販売されていることが前提です。これには電子チケットも含まれます。
新幹線の乗車券などは、興行ではないのでこれに含まれず、招待券なども、不特定多数に対して販売されていないので、これに含まれません。
なおかつ、
①イベントの主催者がチケットを販売するときに、同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、その旨がチケットの券面等に表示されている
②イベントが行われる特定の日時、場所、入場資格者又は座席が指定されている
③イベント主催者がチケットを販売するときに、入場資格者又は購入者の氏名、連絡先(電話番号、メールアドレス)を確認する措置を講じ、その旨がチケットの券面等に表示されている
という要件を満たすチケットが、「特定興行入場券」に該当し、不正転売が禁止されています。
罰金刑や懲役刑となる可能性がある「不正転売」とは、特定興行入場券を、①イベント主催者の事前の同意を得ずに、②定価を超える金額で、③反復継続する意思をもって販売することです。
定価を超える金額での販売はNGです。しかし、大人気のアーティストやアイドルのライブで、しかもいい座席のチケットが、定価の何倍もの金額で転売されることは、残念ながら珍しくありません。ファンの弱みに付け込んで、繰り返し高額で転売し、利益を得ようとする不届き者に対しては、罰金や懲役又はその両方が科されるのです。
イベント主催者側の多くは、チケットに転売禁止の文言を記載し、不正転売を禁じています。さらに、チケットの不正転売を防止するために、入場の際に入場者の身分を確認する措置を講じています。
そうなると、不正転売のチケットを購入した人は焦ります。身分確認をされたら、チケット記載の入場資格者と自分が別人であることがバレて、せっかく高額を支払ってチケットを手に入れても入場させてもらえないかもしれません。そこで、安易に身分を偽ろうとする人がいます。
しかし、入場だけバレなければいいやと、軽い気持ちで身分証を偽造して係員に提示した場合、それは公文書偽造罪や私文書偽造罪・同行使罪等の立派な犯罪になってしまうのです。
刑罰は、公文書偽造罪は1年以上10年以下の懲役、私文書偽造罪は3月以上5年以下の懲役であり、罰金刑のない重い犯罪です。チケットの転売から、どんどん罪を重ねることになります。そうならないためにも、不正転売には手を出さず、情報に慎重になることが必要です。
【取材協力弁護士】
松下 真由美(まつした・まゆみ)弁護士
第一東京弁護士会所属。企業・金融法務、著作権等の知的財産分野、YouTuber・インフルエンサーの代理人としての訴訟活動や契約交渉等を取り扱う。
事務所名:真和総合法律事務所
事務所URL:http://www.shinwa-law.jp/