2022年02月13日 07:41 弁護士ドットコム
弁護人席に座る2人の男性。両名とも弁護人かと思いきや、傍聴席から見て手前の男性は保釈されていた被告人だった。そんな勘違いをしてしまうほど、いわゆる普通の社会人に見える。サラサラの髪の毛に紺色のマスク。長身にスーツがよく似合う。
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しかしそんな爽やかな雰囲気をまとう被告人から繰り出されるのは、全く爽やかではない、自分本位な、家族に対する横暴な振る舞いの数々だった。(ライター・高橋ユキ)
義理の娘・Bさんに対する傷害と監護者わいせつの罪で起訴されていた被告人の公判は、千葉地裁で2021年11月まで続いていた。子である被害者のプライバシーに影響が及ぶ恐れがあることから、監護者による性犯罪は、被告人の氏名や住所が明かされない。開廷表の被告人名は空欄となる。
被告人は2018年5月、当時中学1年生だったBさんに対して暴力を振るったという傷害罪と、翌年1月~2月、Bさんの部屋に忍び込んだ上、性的暴行を加えたとして、監護者わいせつ罪に問われていた。傷害罪については認め、監護者わいせつ罪については否認していた。
2021年の梅雨から夏にかけて行われた被告人質問によると、被告人は元妻との結婚後、2012年の3月にBさんと養子縁組をした。
ところがBさんが小学校3年生になってから、ゲンコツなどで叩くなどの体罰を加えるようになる。被告人によれば、Bさんが小学校6年生になるころには、彼女の生活態度に対して不満を抱いていたようだ。
「門限を守らなくなり、些細なことで嘘をつくようになった。遊びに行く場所も嘘をつく。Bの携帯電話にGPSをつけていた、それで分かったり、また私自身が、約束していた場所と違うところからBが帰ってくるのを見た」
この頃から、被告人はBさんに男友達ができたことを、非常に気にしており、それが原因で、Bさんの携帯電話を破壊した。
「小学校6年生の終わりごろ、私がBの携帯を確認して、メールを見ると、彼氏と不適切なやりとりをしていた。それに激怒……もう二度と連絡を取らないという約束で携帯電話を返したが、言うことを聞かず連絡を取り合っていたので目の前で携帯電話を折りました」
また同時期に、Bさんにはタブレット学習をさせていたが「やってなかった。お金を払ってるのに無駄にしてることに腹が立って、次のテストまではこういうことは許さんぞと、正座をさせて勉強を見ることがあった」ともいう。
マンツーマンの勉強は夜中の2時に及ぶこともあり、長時間の勉強に耐えられなくなるBさんをゲンコツで殴りながら、机に向かわせていた。
束縛にも近い監視と、暴力で支配していたのはBさんだけではない。元妻に対してもたびたび暴力を振るっており、元妻はBさんや、その下の弟を連れ、実家に避難し別居状態となることもあった。元妻への暴力は壮絶で、警察も複数回、出動する騒ぎに発展している。
「別居前には、まず怒鳴り散らして、首を絞めて持ち上げた。別居後にも電話で口論となり、妻に『ぶっ殺してやる』と大声で叫んだら、妻が警察に連絡して警察が私の自宅に来ました。精神病院に連れて行かれ、事情聴取をされて終わりました」
Bさんに対する傷害罪の内容も、こうした瞬間湯沸かし器のような被告人のパーソナリティが大いに影響していた。
別居から再び家族で暮らすようになったため、ゴールデンウィークに旅行に行こうと被告人が提案したのだ。ところが「『Bも行くからね』と伝えたら『大丈夫』と言っていたので計画したのに、前日になって『部活もあるし、宿題もしてない』と聞いて激昂……」したのだという。
「まず、リビングで私に言い訳し始めて、嘘をつく態度を取ってきたので大声で怒鳴りました。Bは2階の部屋に駆け上がったので私も後を追い、部屋で暴力を振るいました。正座しろと言ったのにしなかったので、髪の毛を引っ張りました。Bはどっちかというと黙ることが多かったです。意に沿わないことがあれば反抗的な態度……あと、嘘をつく」
こうして激昂した上でBさんに暴力を振るったことから、元妻は子どもたちを連れて、また実家に戻った。ただ、被告人はここまで激昂していたが、旅への出発前日にもかかわらず、旅先の宿の手配などしていなかった。Bさんが不参加を告げたのは、旅行の準備に大きく影響するようなタイミングではない。
それでも当時はBさんに対して気がおさまらなかったようだ。避難した家族を追いかけて元妻の実家まで赴いた上、外観を撮影し、こんなメッセージを元妻に送った。
〈このままだと、誘拐で警察に通報するよ〉
弁護人も、さすがに聞いた。
弁護人「え~、そんなことしたの? と思うんだけど。どうしてそれが正しいと思ってたの?」 被告人「………考え方が……」 弁護人「家族があなたの言うこと聞いてくれなかった?」 被告人「……そうですね……」
のちに家族らは被告の住む家に戻ってきたが、その後も「数えきれないほど」(被告人の弁)別居を重ねてきたという。
Bさんに対し監護者わいせつに及んだとされる時期の1ヶ月ほど前にも、警察沙汰となる激しい夫婦喧嘩を起こしていた。
被告人「Bの成績、交友関係、日々の生活態度、コントロールできない夫婦の苛立ちがありました。食事をしていたリビングで妻と激しい口論になり……そのときは、私は我慢というか、いけないことですが、水の入ったボトルを妻に投げつけ、それが原因で妻が出ていくと……」 弁護人「あなた自身、自制していたつもりなんだな?」 被告人「はい」 弁護人「その元妻はその後?」 被告人「Bと下の子を連れて車に乗った……まず、私が、妻の車が出れるように自分の車を動かしましたが、家族を行かせたくない気持ちになり、妻の車の屋根の上に乗り、ジャンプしてしまいました……」
妻子の乗る車の上に飛び乗りジャンプをするという、被告人の驚くべき行動により元妻が通報、警察が出動する騒ぎとなった。そして、これがきっかけで、児童相談所にも被告人の件が伝わることになる。元妻やBさんへの聞き取りが行われる中、被告人は児童相談所との面談を仕事を理由に拒否し続け、最終的に逮捕されるに至った。
ここまで聞けば、完全に被告人の自業自得のように思えるが、被告人からは、妻やBさんが児童相談所に報告したことを責めるかのような発言も。
「私の体罰……夜にベランダに出したり、正座させてゲンコツで殴ったり……そういうことをBは彼氏に相談してる。元妻がやるように、周りの人間から味方につけていくように(被告人のことを)言いふらして、私は悪くないというタイプなので……」
監護者わいせつの犯行時期は、児童相談所が被告人の家族に聞き取りを始めてからのこととなる。被告人は「全くそのようなことはありません」と完全に否認していた。
弁護人「一度もなかったとあなたは言うから、そうすれば、わいせつ行為は、Bさんの真っ赤な嘘ということ?」 被告人「そう思います」 弁護人「わいせつ行為は一度もしてないから、反省もしていないし、反省しようがない?」 被告人「……(声が小さくて聞こえない)」
判決では、この監護者わいせつ罪については事実だと認定された。「最後の被害が児童相談所に保護される前夜の出来事として供述しており信用できる」とBさんの証言が信用できる理由が挙げられ、一方で「謝罪も反省もしていない」として懲役2年6月の実刑判決が言い渡された。被告人は控訴している。
被告人は、かつて家族だった元妻やBさんらに再び危害を加えないよう「自分の両親の監視の目の届くところで生活する」とも語っていた。しかし、体力のある男性による、ここまでの粗暴な振る舞いを、高齢の両親は止めることができるのだろうか。また被告人はたびたびBさんを“嘘つき”だと断じていたが、被告人はこの法廷で嘘をついていないのだろうか。
【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)など。好きな食べ物は氷。