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300万前後の国産スポーツカー対決! マツダ「ロードスター」とトヨタ「GR86」

2022年02月09日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
日産自動車は2022年1月、新型「フェアレディZ」の日本仕様を初公開した。第1弾として2022年6月に発売予定の特別仕様車「プロトスペック」は、700万円近い価格となる。身近(アフォーダブル)なスポーツカーとして誕生したZも、新型はそれなりの値段になった。一方、その半額以下で手に入れられるスポーツカーが、日本にはある。マツダ「ロードスター」(本稿ではソフトトップ=幌のついたモデルを取り上げる)とトヨタ自動車/スバルの「GR86/BRZ」だ。


○個性的な2台、どちらを選ぶ?



ロードスターはベーシックモデルの「S」(6速MT)が262.35万円、GR86のエントリーモデルである「RC」(6速MT)は279.9万円で、ともに300万円を切っている。それぞれの最上級グレードはロードスター「RS」(ソフトトップで最も高価なモデル)が335.61万円、GR86「RZ」(6速AT)が351.2万円だが、それでもZの半分ほどの予算で手に入る。



もちろんエンジン性能や装備などに違いはあるが、基本的に2人乗りのスポーツカーで運転を楽しみたいなら、この2台が身近な選択肢となるはず。ちなみに、近年人気の高いSUVと価格を比べるならば、マツダ「CX-30」が239.25万円から、トヨタ「カローラクロス」が199.9万円からという相場観だ。


同じような価格帯のロードスターとGR86だが、主要諸元を比較すると同じスポーツカーとはいえ性格が違う。



車体寸法は近いのだが、ロードスターは全長が4mを切り、車幅も1.7mを超える程度で若干小柄だ。GR86は全長が4,260mm、車幅も1,775mmあるので、対面するとそれなりの存在感がある。


車両重量はロードスターが990~1,020kg、GR86は1,260~1,290kgで、ロードスターの軽量ぶりが目立つ。床下と路面との隙間である最低地上高はロードスターが140mm、GR86が130mm。GR86がより低重心を目指したことがうかがえる。


エンジンはどちらも自然吸気のガソリンエンジンで、排気量はロードスターが1.5リッター、GR86が2.4リッター。最高出力はロードスターが132馬力であるのに対し、GR86は235馬力と1.8倍近い。



車体寸法がやや大きめのGR86は、より高性能なスポーツカーを志向したことが主要諸元の比較からうかがえる。GR86の先代モデルは排気量が2.0リッターで、最高出力は200馬力だった。つまり新型は、さらに速く走ることを目指したといえる。


○スポーツカーに何を求める?

クルマがどれほどの加速性能を発揮できるかを示す指標として「パワー・ウェイト・レシオ」がある。車両の重量を馬力で割った数値だ。1馬力でどれくらいの重さを走らせているかを判断できる。



ロードスターの車両重量はGR86に比べ200kgほど軽い一方、エンジン排気量は小さく出力も低いので、パワー・ウェイト・レシオは7.5kg/馬力となる。つまり、1馬力で7.5kgの重さを動かすという意味だ。



対するGR86は5.36kg/馬力と計算できるので、1馬力で動かす重さが5.36kgでしかないことになる。同じ馬力でより軽いものを動かすのだから、加速がよく、最高速度まで素早く到達できることになる。例えば高速道路の合流などで、時速100kmに達するまでの時間はより短くなる。



ほぼ同じ価格帯の2車とはいえ、スポーツカーの動力性能という面ではGR86のほうが高性能車といえる。そこに価値を求める消費者にはGR86やBRZがオススメだ。


ところで、スポーツドライビングの視点では速さも重要だが、どこに楽しさや嬉しさを感じるかは人それぞれだ。自らの運転技量はもちろん、住んでいる場所の道路条件などもスポーツカー選びにとって大事な基準となる。



ロードスターはGR86に比べ速さ(加速の鋭さ)では劣るものの、オープンカーであることが独特の価値となっている。速度の絶対値は低くても、走行状況に応じ、「風との対話」とでもいうような快さを感じることができる。山間の屈曲路をたとえ時速40キロ程度の速度で走っていても、清浄な空気を感じ、走ることによって生じる風の流れで速度感覚を味わうことができるのだ。これも運転の喜びのひとつだろう。


ロードスターの車両重量がGR86に比べ200kg、つまり大人3人の体重分くらい軽いことも見逃せない。カーブなど、ハンドルを操作する場面で動きの身軽さが実感できるはずだ。



1989年にロードスターが誕生した際も、数値化された性能諸元より軽やかな運転感覚が評判を得た。そこが、ライトウェイトスポーツカーの本質だ。基本的な身軽さは継承しながら、より洗練された操縦感覚を獲得したのが現行のロードスターである。瞬発力という威力では物足りなさを覚えることがあるかもしれないが、たとえ市街地での日々の運転においても、身軽な動きというのは感じられる。それこそがロードスターを選ぶ価値といえるだろう。



ところで、ロードスターには「RF」(リトラクタブルハードトップ)という選択肢がある。こちらは屋根が幌ではなく、車体と同じ鋼板でできている。金属製の屋根は、スイッチ操作により自動で開閉可能だ。幌だと駐車中に傷つけられないかとか、露天の駐車場では耐候性がどうなのかといった不安を覚える消費者がいると思うが、RFは通常のクルマ同様に鋼板の屋根を持つので安心感がある。


鋼板製の屋根(と自動開閉機構)を装着していることにより、RFは車両重量が1,100~1,130kgとソフトトップより重くなる。しかしエンジンは排気量が2.0リッターとなり、最高出力は184馬力に高まるので、パワー・ウェイト・レシオは5.94kg/馬力に向上し、GR86の5.36に近づく。したがってロードスターRFは、加速性能の面でよりGR86に近いクルマだといえる。



ただし、RFの車両価格は346.17~392.26万円となり、GR86と比べて割高だ。それでも300万円台で手に入れられるので、ロードスターとGR86の両方の持ち味を手に入れられると思えば、価値を見出せるのではないか。


ロードスター、ロードスターRF、GR86、BRZ。300万円台で手に入る国産スポーツカーにはこれだけの選択肢がある。GR86とBRZも主要諸元は一緒だが、乗り味は異なる。これら4台を試乗しながら好みに合う1台を探せるのは、現代のクルマ好きに許された特権といえるのではないだろうか。



御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)