2022年02月09日 10:21 弁護士ドットコム
芸人の宮川大輔さんが、「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ)でとった行動が、インターネット上で物議をかもした。
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大食い企画で、大量の湯豆腐を土鍋に吐いてしまい、「汚い」「店に失礼」などと批判を集めているのだ。法的に問題はなかったのだろうか。
また、協力店への「風評被害」を避けるため、制作サイドにはどのような配慮が必要とされるのか。
問題となったのは、京都の老舗料理店でひらかれた「ゆどうふ食べくらべ大会」に宮川さんが挑戦する企画(1月30日放送)。
対戦形式で、10分の制限時間内に湯豆腐を食べる量を競い合うのだが、食べ過ぎて限界を迎えた宮川さんは残り15秒で、食べていたものをすべて吐いてしまった。
映像では、嘔吐物に「キラキラ」の加工をかけているのだが、「キラキラ」は湯豆腐を入れていた土鍋の中にすべて吐き出されていった。対戦中の実況まで「宮川、土壇場でキラキラ!」とあおっていた。
これを見た視聴者からは、番組公式ツイッターの投稿に「いくら洗うとは言え、あの土鍋は他のお客さんにも使われてるんですよね…気持ち悪い」「吐いた土鍋で湯豆腐が出て来ると思うと気持ち悪い」とリプライが寄せられることになった。
宮川さんが大食いで吐くことは、番組恒例となっているようだ。そのため、演出の可能性もあるのだが、少なくとも良い子に真似してほしい行為ではない。土鍋に嘔吐した場合、器物損壊など法的問題はないのだろうか。坂口靖弁護士に聞いた。
——演出の可能性もありますが、店の土鍋に嘔吐することは、器物損壊罪などに問われないのでしょうか?
器物損壊罪は、「他人の物」を「故意に」「損壊」した場合であり、「違法」と評価できると成立します。
ここでの損壊とは「食器に放尿する」等の「物の効用を失わせる」ことも含むと考えられているため、土鍋への嘔吐も、土鍋の効用を失わせるものとして「損壊」にあたる可能性は十分に認められると思われます。
この点、宮川さんが、「演出を含めてわざと嘔吐」した場合には、故意や違法性が認められ、器物損壊罪が成立するものと考えられます。
もっとも、宮川さんが、「不可避的に反射的に嘔吐してしまった」という場合には、「故意」が認められないでしょう。また、テーブルや床等への被害発生を避けるために土鍋内に嘔吐せざるを得なかったとも評価されうる場合(緊急避難等の成立)もあり、違法性が阻却されるとも評価しうるものといえ、器物損壊罪は成立しないものと考えられます。
なお、器物損壊罪は親告罪です。テレビ番組での宮川さんの行為は、被害店舗側が告訴をすることは通常想定しがたく、そもそも宮川さんが器物損壊罪の責任を追及される可能性は皆無に近いものと思われます。
——番組を見た人からは「この店で食べたくない」という意見があります。制作サイドに必要な配慮は?
お店側と打ち合わせ等をし、そのようなリスクについて了承を得たうえで、放送したと思われますが、リスク回避を一番に考えるのであれば、そもそも嘔吐シーンは放送しないという対応が考えられます。
それでも、番組として、嘔吐シーンが笑いのポイントとしてどうしても外せないのであれば、バケツを準備しておくことや、「この土鍋は買い取りさせていただきました」などのテロップを入れるのがよかったかもしれません。
【取材協力弁護士】
坂口 靖(さかぐち・やすし)弁護士
大学を卒業後、東京FM「やまだひさしのラジアンリミテッド」等のラジオ番組制作業務に従事。その後、28歳の時に突如弁護士を志し、全くの初学者から3年の期間を経て旧司法試験に合格。弁護士となった後、1年目から年間100件を超える刑事事件の弁護を担当。以後弁護士としての数多くの刑事事件に携わり、現在に至る。YouTube「弁護士坂口靖ちゃんねる」<https://youtube.owacon.moe/channel/UC0Bjqcnpn5ANmDlijqmxYBA>も更新中。
事務所名:プロスペクト法律事務所
事務所URL:http://prospect-japan.law/