ザトウクジラは、尾びれ腹側の模様や形状をもとに個体識別ができると言われています。これまでザトウクジラの研究者らは、尾びれの写真などを目視して個体識別作業を行ってきましたが、これには多大な時間と労力がかかっていました。
そんななか、株式会社Diagence(以下、Diagence)・大阪大学サイバーメディアセンター・慶應義塾大学・一般財団法人沖縄美ら島財団(以下、沖縄美ら島財団)の4者は、ザトウクジラの尾びれの写真から個体を識別するAIおよび自動識別システムを開発。個体識別作業の効率化とザトウクジラの生態解明に期待が寄せられています。
尾びれ先端のギザギザを識別対象に同AIは、研究者の個体識別に関する知見を落とし込むとともに、沖縄美ら島財団が有する約1万枚の尾びれ写真を活用して誕生しました。
開発時の課題として、尾びれの形状が複雑なため見る角度や動きによって模様の見え方が異なることや、そもそも模様がない尾びれ(真っ黒や真っ白)を持つ個体が35%もいることなどがあったようです。そこで、尾びれ先端のギザギザ形状を主な識別対象として、規則性のない凹凸の解析に有効なWavelet変換を用いてギザギザ形状の特徴をベクトル化しました。
こうして誕生した同AIに尾びれの写真を入力すると、登録されている1850頭のクジラの尾びれから特徴が近い尾びれを有するクジラをランキング形式でリストアップ。絶対値ではなくランキングで表示するのは、写真によるばらつきが大きいためだといいます。
実際に、過去に登録があるクジラの写真323枚を入力したところ、約89%がランキング上位30位までに正しいクジラをリストアップ。また、約76%は正解のクジラを1位にリストアップしたとのことです。
保全と観光資源の両立のため生態把握が重要ザトウクジラは、かつて捕鯨により個体数が激減したため、現在は保全と観光資源の両立を目的とした基礎的な生態把握が重要視されています。そのため研究者らは、撮影された尾びれ写真をもとに個体識別作業を進め、ザトウクジラの回避経路や集団構造などを分析してきました。
しかし、その作業は多大な時間と労力がかかります。研究者らの間では、コンピュータによる自動化へのニーズがあり、有名なデータ分析コンペティションのKaggleでも題材として取り上げられるほどでしたが、実際に用いられることはなかったようです。
そんななか誕生した同AIシステムは、自動で多くの写真を一挙に扱うことができるため、ザトウクジラの回避経路や集団構造の解明を効率化し、生態解明に貢献するものとなるでしょう。
沖縄美ら島財団は今後、国内外の研究機関と協力し、季節によって北太平洋を広く回遊するザトウクジラの集団構造や回避経路を解明したいとのこと。
またDiagenceは、世界の研究施設に同AIシステムを普及させ、自然科学研究の進展に貢献したいとしています。さらに、写真区別・識別作業が行われている医療・スポーツ・報道などの分野における応用も視野に入れているようです。
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(文・Higuchi)