2022年F1には新技術レギュレーションが導入され、新世代F1マシンが登場する。どのような変更があり、どのような影響が予想されるのか。formula1.comでの解説でもお馴染みのF1ジャーナリスト、サム・コリンズが、2022年F1にまつわる10の疑問に答える(全2回)。
前編(【新時代F1にまつわる10の疑問/前編】追い越しは増える? 新燃料、18インチタイヤで何が変わる? )に続く後編では、「どのマシンも似た外観になってしまわないのか」「ドライビングは難しくなる?」「規則の抜け穴を見つけるチームが出てくる?」「コストキャップの影響は?」「どのチームが飛躍しそう?」の5つの問いに対して、コリンズ氏が答えてくれた。
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Q6)どのマシンも似た外観になってしまわないのか
A6)2022年最大の変更のひとつが、ルールの書き方だ。以前は文言からすべてを考案することができたが、今年は、何が許されて何が許されないのかを知るのにCAD図面が必要になる。これはレギュレーションがどれだけ厳格な制限を行おうとしているかのひとつの例と言える。それでも、バルセロナで各チームのニューマシンがコースを走り出す時、ノーズ形状、フロントサスペンション、リヤパッケージといったものはそれぞれかなり異なるものになることが予想されている。
一方で、2023年あるいは2024年には、すべてのマシンが同じ外観になっていくだろうと、多くの関係者が見ている。ただ、F1とFIAの関係者のなかには、そうなることを防ぐため、ルールのいくつかのエリアを開放する可能性があると言う者もいる。
Q7)ドライビングは難しくなる?
A7)今のところ、ドライバーたちからは、ニューマシンが昨年よりもドライブしづらくなるという話は出ていない。ただ、誰もがドライビングスタイルをかなり変えなければならないと認めている。
フェルナンド・アロンソ、カルロス・サインツを含む大勢のドライバーたちが、ニューマシンによって、これまでとは全く異なるドライビングスタイルを採る必要があると述べている。そうなると、そのスタイルがぴったりくるドライバーと、そうでもないドライバーが出てくるかもしれない。
フロントタイヤの管理は最大のチャレンジのひとつになりそうだ。ただ、こういった予想は、ドライバーたちが不完全なシミュレーションデータと18インチタイヤテストから得た知見に基づいて述べているにすぎない。
Q8)規則の抜け穴を見つけるチームは出てくるか
A8)いくつかのチームはルールの抜け穴を見つけているはずだ。実際、一部チームが、ルールのなかに何らかのアドバンテージを発見したとほのめかしている。
2021年イギリスGPで2022年ショーカーが初披露された際に、F1のチーフテクニカルオフィサーを務めるパット・シモンズは、少なくとも2チームがルールのなかに、ライバルたちが見つけられなかった何かを見つけ出し、それによって有利な立場に立つと予想した。また、いくつかのチームがルールへの適応に失敗してパフォーマンスを引き出せず、苦しいシーズンを送ることになると予想する者たちもいる。
■レギュレーション変更における最大の勝者はフェラーリか
Q9)コストキャップの影響は?
A9)コストキャップとその計算方法は、2022年の序列に大きな影響を及ぼすだろう。昨年、2021年型マシンの開発に膨大な時間と労力、そして予算を費やしたチームは、非常に不利になる。だが、昨年初めから2022年向けの開発作業に集中してきたウイリアムズ、ハース、アルファロメオは有利になるだろう。
2021年の時点で、コストキャップの問題は大きな議論を引き起こしていた。レッドブルは、イギリスGPとハンガリーGPでクラッシュにより多額の損害を被った後、このルールを公然と批判した。
シーズン終盤になるとどのチームもスペアパーツの数がかなり制限されるようになり、トップチームも、以前はパーツが壊れた際には新しいものに交換していたが、昨年は修理して使うようになった。未使用のスペアパーツはコストキャップにカウントされないためだ。
2022年にもコストキャップについて議論が持ち上がるのは間違いないだろう。今年は、一部メカニカルパーツの開発制限は解除されるが、どのチームも、少しでもアドバンテージを稼ぐために必死だからだ。
コストキャップはカレンダー自体にも重大な影響を及ぼしつつある。F1は2022年にはスプリント予選を6戦で導入したい考えを示してきた。しかしレッドブルなど一部チームは、スプリント予選を導入する場合、コストキャップの制限額を引き上げるよう要求している。まだこの点について合意に達しておらず、このままではスプリント予選が全く実施されない可能性もある。
Q10)どのチームが飛躍すると予想する?
A10)規則が新しくなることでチーム間の序列はどうなるか。基本的には、2021年の勢力図は忘れた方がいい。パワーユニット以外のすべての要素が完全にリセットされるのだ。
膨大な予算と充実した設備を持つチームは、どんな状況でも有利だ。だが2021年にシーズン中の戦いに集中せざるを得なかったチームもある。
メルセデスは当初は、2021年シーズンのかなり早い段階で、2022年型マシンに開発リソースをスイッチする計画だった。だが、レッドブルが速さを見せつけたことで、メルセデスはある程度の期間、リソースを2021年型マシンに戻さざるを得なかった。それによって、2022年型マシンの開発作業に遅れが生じただろう。とはいえ、大部分の人たちは、メルセデスは今年、かなりの強さを発揮するものと予想している。
一方のレッドブルは、2021年型マシンの開発に膨大な時間とエネルギーを費やし続けた。その結果、2022年の開発が犠牲になり、彼らは今年、序列を下げることになってもおかしくない。
今年のルール変更における最大の勝者は、フェラーリかもしれない。彼らはかなり早い段階で2022年の作業にシフトすることができたし、パワーユニットを刷新して戦いに挑む。新ルールを最大に活用する方法を理解できたなら、フェラーリはドライバーズおよびコンストラクターズの両世界選手権に挑戦することが可能になるだろう。F1界のエキスパートの多くがそう予想している。
アルピーヌも大幅に進歩するはずだ。長い間、古いシャシーデザインを使い続けた彼らは、ようやく新しいマシンに切り替え、新しいパワーユニットコンセプトも取り入れる。フェラーリ同様、アルピーヌも、ルールにうまく適応する術を見つけ出せたなら、毎戦上位争いに絡めるようになるだろう。
グリッド後方に目を向ければ、特にアルファロメオとハースは、昨年より大幅に競争力を上げて、常にポイント争いができるようになると思われる。彼らはかなり早い段階で2022年の開発に焦点を移したからだ。ただ、アルファロメオとハースは、提携するフェラーリが、優れたパワーユニット、トランスミッション、リヤサスペンションのコンセプトを持ち込めるかどうかに左右される。フェラーリが失敗すれば、彼らも苦しむことになるだろう。