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完治しない持病は夢を叶えるヒントだった ~「サイボーグ」を名乗る女性モデルの人生逆転劇~

2022年02月04日 09:01  おたくま経済新聞

おたくま経済新聞

完治しない持病は夢を叶えるヒントだった ~「サイボーグ」を名乗る女性モデルの人生逆転劇~

 オリジナルサイボーグキャラ「サイボーグYuki」として表現活動を行っている斎藤ゆきえさん(以下、斎藤さん)。


 サイバーパンクを意識して作られたコスチュームに、世界観にマッチした空間。その中に身を置くことで、自身も一体となった独自の世界観を写真で表現しています。作品を発表する場は主に、“電脳世界”の一つともいえるSNS。


【その他の画像・さらに詳しい元の記事はこちら】


 最近話題になったのは「紫・電・一・閃」というタイトルで、ライトセイバーのような形状の剣を二刀流で構えた「サイボーグYuki」。


 青を基調とした背景は、どうやら電子世界をイメージしているようです。足元に浮かび上がる「紫電一閃」の文字も、電極や雷のデザインが取り入れられ、SF感マシマシ。


 「紫電一閃」というのは、刀を振り下りした際に発生する「一瞬の光」といった意味合いを有した言葉ですが、じっとどこかを見つめる「サイボーグYuki」は、そんな「一瞬」を表現したものとなっています。


 「今回着用したコスプレ造形が、『電力で駆動するサイボーグ』という設定なんです。なので、『電の文字を含めたかっこいい四字熟語をイメージした画を撮りたい』という希望からこうなりました」


 斎藤さんは、今回紹介した作品の他にも、様々な作品をSNS上で紹介しています。しかしながら、その内容は多種多様。共通しているのは「サイボーグYuki」という存在だけです。


 例えば「情報を解析」と題したものだと、ゆったとした体勢からそのままデータ解析を行う「サイボーグYuki」の姿。その“バリエーション”として、「情報収集」している様子も。インストール中でしょうか?


 なお、今回のように「四字熟語」を用いる表現は過去にも「両刃之剣」などで行われています。


 一方、一仕事終えた「サイボーグYuki」と、パートナーらしきサイボーグとのツーショット風景をイメージした「私達にとっては随分楽な仕事(ヤマ)だったわね」という作品も。ちょっとコミカルさが伝わるものとなっています。


 自身と同じ「サイボーグキャラ」のコスチュームを着用したコスプレイヤーたちとユニットを組んだり、企業のイベントモデルとして“出展”したりと、活動範囲は多岐にわたる「サイボーグ女子」斎藤さんですが、ここに至るまでは紆余曲折がありました。


■ 吃音症のち斜視 次々と襲い掛かる異変

 元々斎藤さんは、特撮関連の役者を志望していました。幼少期に見た仮面ライダーの「等身大で敵に立ち向かう姿」に、大きな影響を受けたのが要因だったそうです。


 そんな斎藤さんに立ちふさがったのが、「吃音症」という先天性の言語障害。会話の途中で言葉に詰まったり、第一声が上手く発せないといった症状を抱えていたため、夢を断念することに。得意の絵を生かして美大に進学し、卒業後は漫画家のアシスタントを勤めていました。


 そんなある日、当時の同僚から「最近どもらないで話せているね」という言葉をかけられたそうです。その一言で、自身の吃音症が改善していることに気づきます。


 すると「特撮に出演する」という夢が再燃。半年間専門のレッスンを受けた後に挑戦することを決意したのでした。


 しかし現実は残酷。様々なオーディションに応募するも、落ちる日々が続きます。


 とはいえ、そう簡単に夢を諦められない斎藤さん。オーディションがダメならと、動画サイトにアカウントを開設し、独学で習得した編集スキルを駆使して配信活動を行うことになりました。結果、とある番組のTV出演も決定します。


 そんな矢先、斎藤さんの身体に別の異変が生じます。よく人とぶつかるようになり、何かにつまずくことも増えていたのです。


 当初は疲労程度に考えていましたが、症状は治まらず医師の診察を受けることに。そこで宣告されたのは「斜視」の診断。


 「斜視」というのは、片方の目がもう片方の目と違った方向に向いてしまう症状。そのため正確な距離感がつかめなくなってしまいます。


 手術などの治療法が存在しますが、斎藤さんが斜視になるのは実はこれで3度目。過去2度は手術をうけ改善したものの、3度目の手術は、医師から「あまりにもリスクが高い」ということで断念。その際、「この顔と一生付き合わなければいけない」との宣告を受けます。


 光が見えてきた矢先の暗黒。大幅に活動を縮小せざるを得なくなった斎藤さんは、TV番組の仕事も間もなく降板。さらに不幸は続き、バイトの休憩中の散歩で手に大けがを負ってしまいます。


■ 「子供の頃のヒーロー」が「人生の救世主」に

 絶望のどん底に突き落とされてしまった斎藤さん。しばらくは無気力な日々を過ごしていたそうですが、友人からある日こんな連絡を受けました。


 そこには、「興味深いネタ」とともに送られた「異色肌ギャル」の画像。モデルのmiyako氏が発祥とされる、「自然界では本来存在しないはずの肌色」にメイクをした女性たちの写真でした。


 「異色」という文字通り、そのインパクトは絶大。斎藤さんは、ある仮説を立てます。


 「他の部位を目立たせれば、私(斜視)に目がいかないのでは?『みんなと違う』斜視なら、みんなと違うことができるはず」


 そこで、ふと思いつきで「左右非対称 かっこいい」という言葉を検索してみることに。結果、巡り会えたのが、「仮面ライダー」。


 当時放映されていた「仮面ライダービルド」だったといいます。ビルドは、左右非対称のデザインが特徴です。


 「異色肌ギャル」と「仮面ライダービルド」。2つを目にした時、斎藤さんは「私しかできない表現方法」を思いつきます。


 この時大いに役立ったのが、自身が「美大出身」であるということ。実は斎藤さんは手先がかなり器用な方。現在のコスプレ活動においても、造形の大半を自作しています。


 そんな「三本の矢」が揃って生み出されたのが、斜視である左半身に特殊メイクを施し、「体の半身がメカ」という設定にしたオリジナルキャラクター「サイボーグYuki」。


 「左右の目が合っている『普通の人』より、私のような斜視の人間がやる方が『非人間感』が出るのです」


 時に陰口をたたかれることもあったものの、積極的な活動の結果、SNSで注目されることも増えていきました。


 その結果、ある企業のイベントガールで抜擢され、各種メディアも注目していきます。こうして「人間・斎藤ゆきえ」は、その動向が注目される「サイバー女子・サイボーグYuki」へと華麗な変貌を遂げたのです。


■ 「コンプレックス持ち」にもできることはある

 現在は、様々なイベント出演依頼の絶えない人気モデルとなった斎藤さん。TV番組で特集されたこともありました。


 そんな中で、自身は新たな挑戦をされています。それは、「体に何らかのコンプレックスを持つ方へ自身の活動を共有していく」ということ。


 「私は斜視を乗り越えましたが、容姿の面から夢を閉ざされてしまう子供たちはまだ多く存在します」


 「そんな子たちにとって、『ハンデがあっても華やかに上がることができる』という体験を伝え、もっと身近なものになればいいなと思います」



<記事化協力>
斎藤ゆきえ@サイボーグYukiさん(Twitter:@cyborgyukky/note:@cyborgyuki001)


(向山純平)