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祖母が遺した昭和の「記念硬貨」 売っても額面割れ、両替もできず…思わぬ事態に

2022年02月03日 11:01  弁護士ドットコム

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「ママ、宝物見つけたよ!」


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もう何年も前に実家の家族が送りつけてきた段ボールから、子どもが古いお菓子の箱を掘り出してきた。子どもの嗅覚はすごい。ガラクタの中から、なぜ開けたら絶対に面倒なものを的確に見つけられるのか。



古いお菓子の空き箱には、高い確率で地雷が詰まっている。「親の若い頃の水着写真」や「親族の誰が使っていたかわからない謎の数珠」など、捨てるに捨てられず、どう扱ってよいのかわからないものばかりだ。



できればずっと閉まったままでいたい。持続可能性を実現して、そのまま次世代に引き継ぎたい。そんな親のささやかな願いを子どもは踏みにじり、容赦なく空き箱を開ける。



「ママ、お金がたくさん入ってる!」



え、まさかの大金が?と期待したのも束の間。見ればそこには、いろいろな時代の記念硬貨が詰まっていた。たしかに「お金」ではあるが、一般に使われているのは見たことがない。かといって、コレクターではないのでこのまま所持していても意味がない。「両替?いや換金? とにかく、今使えるお金に換えよう!」



しかし、そう決意してから、実際に使えるお金にするまで容易ではなかった。五輪や万博など、国家的行事のたびに発行される記念硬貨。その「あとしまつ」である。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)



●お菓子の空き箱が宝の山に?

お菓子の空き箱は、亡くなった祖母が遺したものだった。おそらく海外のお土産にもらったチョコレートの空き箱で、中には記念硬貨が剥き出しのまま、じゃらじゃらと入っていた。1枚だけケースに入っていたが、「なぜその1枚?」と首を傾げざるを得ない。さすが我が祖母。その大雑把な性格に自分のルーツを再確認する。



記念硬貨は合計23枚。最も古いものは1985年の「つくば万博(国際科学技術博覧会)記念」、最も新しいものは1994年の「関西国際空港開港記念」だった。いずれも額は500円や100円だったが、5000円硬貨も2枚あった。1990年の「国際花と緑の博覧会記念」のものらしい。



とりあえず、ネットで「記念硬貨 換金」というワードで検索する。すると、珍しい記念硬貨はプレミアがつき、高額で買い取ってもらえる、とあちこちに書いてあった。開けてはいけないお菓子の空き箱は、本当は宝箱だったのか。



さっそく、近所で評判のよさそうな買取業者に箱を持ち込んだ。店員さんの前でお菓子の空き箱を出すのは恥ずかしかったが、プロはそんなことに動じてはいなかった。



「お菓子の箱って、記念硬貨を保管するのにちょうどよい大きさですよね」



さりげないフォローをいただき、談笑しながらも店員さんの記念硬貨の「鑑定」は続く。これは、プレミアがつくパターンか。高まる期待。果たして、驚きの鑑定結果は?



「……残念ですが、プレミアがつくものはありませんでした」





●驚きの鑑定結果に絶句

驚きの鑑定結果に、絶句してしまう。店員さんが素人にもわかるように説明してくれた。



「記念硬貨は発行数が少ないものが人気で、さらにケースがあるものだと価値が高まります」



我が家の記念硬貨は発行数が多いうえに、ケースはない。落ち込む私に店員さんが声をかけた。



「ただ、硬貨としての価値はありますから、500円だったら500円での買取は可能です。ここで買取させていただければ、銀行に持ち込んで両替する手間は省けるかと思います」



しかし、売買なので多少の手数料は取られるという。つまり、500円の記念硬貨を450円で買い取ってもらう、ようなことになるのだ。宝の山のはずが、まさかのマイナスである。



だったら、銀行に持ち込んで額面通りの金額で両替してもらったほうがいい。店を後にして、銀行へ行くことにした。





●1億枚を超えて発行された記念硬貨も

その前に、記念硬貨について調べてみた。まず、このまま使うのはやはり難しいようだ。財務省のホームページに、次のような質疑応答が掲載されている。



「過去に発行された記念貨幣は、現在でもお金として使えますか」

「記念貨幣は、昭和39年に発行された『東京オリンピック記念千円銀貨幣』以降、たくさん発行されていますが、これ以前のものはありません。記念貨幣は、『通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律』において、貨幣として定められているため、全て通常の貨幣と同じように使用することができます。

ただし、記念貨幣は、いろいろな素材で作られていたり、大きさが異なったりするため、自動販売機などでは使えないことがあります。使用する場合には、お手数ですが、銀行などの金融機関の窓口で通常の貨幣と引き換えて下さい」

ちなみに、造幣局のホームページの「貨幣に関するデータ」をみると、これまでにどのような種類の記念硬貨が何枚発行されたか、一覧できる。



データによると、東京五輪に始まり、大阪万博、札幌五輪、つくば万博あたりまで、最少でも1500万枚(東京五輪)、最多では1億2000万枚(沖縄国際海洋博覧会)という大量の記念硬貨が発行されていたことがわかる。



記念硬貨は、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」で「国家的な記念事業として閣議の決定を経て発行する」と定められている」(5条第2項)。昭和から平成にかけては、国家的行事に国民が熱狂していた時代だったのだろう。



そうした歴史のかけらが、我が家のお菓子の空き箱にも詰まっていたわけだ。





●減少する記念硬貨

さて、銀行である。窓口に記念硬貨を持ち込み、両替は可能か聞いてみたところ、「当店ではおこなっていません」とのことだった。ほかの銀行ではおこなっている可能性はあるが、ここでは取り扱いできないという。その代わり、自分の口座に入金ができるというので、お願いしてみた。



銀行によって異なるが、私が行った銀行では硬貨100枚を超えると入金にも手数料がかかるそう。ゆうちょ銀行でも、窓口で硬貨の預け入れをする場合は、51枚以上になると手数料がかかってくるから、もし大量に記念硬貨を入金したい方がいたら、要注意である。



入金の手続きは淡々と終わり、通帳には入金額として「20100円」が印字された。あれだけ後始末に困った記念硬貨だが、最後はあっけないものだった。祖母がコツコツと、国家行事のたびに集めてきた記念硬貨。お茶の間でお菓子の空き箱を開いて眺めたこともあったのかもしれない。



しかし、あれだけの枚数を誇った記念硬貨は、今も国家的行事のたびに発行されているが、その枚数は減少傾向にある。



移ろう時代に思いを馳せていたら、子どもがまた何かを掘り出してきた。



「ママー!この切手すごいよ!」



手には、祖母が遺した記念切手のシートの束。新たな旅が始まろうとしていた。