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樹脂でクルマは作れる? 850kgの超軽量EV「ItoP」を作った会社に聞く

2022年02月02日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
自動車業界を取材していると、「軽さが命」という言葉を耳にすることがある。クルマをいかに軽く作るかは各メーカーが知恵を絞っているところだが、重いバッテリーを積む電気自動車(EV)の時代を前に、各社の開発者は頭を抱えているはず。そんな中、たったの車重850kgという超軽量EVを発見したので、作った会社に話を聞いてみた。


○CFRPを多用してクルマを軽量化



超軽量のコンセプトEV「ItoP」を製作したのは、東レ・カーボンマジックという会社だ。HPによると事業内容は「炭素繊維複合材料を使ったカーボンコンポジット製品の設計・解析を含む試作と製造」となっている。



ItoPには新素材「しなやかなタフポリマー」を使用。クルマのオール樹脂化を目指したとのことだが、実用性はどうなのだろうか。東京オートサロンの会場で担当者に聞いてみた。


ItoPは内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する「革新的研究開発推進プログラム」(ImPACT)のひとつ「超薄膜化・強靭化『しなやかなタフポリマー』の実現」の一環として誕生したEVだ。



大きな特徴は、フレームやホイールなど車両のいたるところに「CFRP」(炭素繊維強化プラスチック)パーツを採用し、大幅な軽量化を図っているところ。例えば、外板ボディを兼ねた一体成型モノコック構造のフレームは、部品をモノコックに固定することで部品総数を削減し、一般的な金属製モノコックボディとの比較で50%以上減の重量140kgを実現している。こうしたパーツのモジュール化は、炭素繊維をはじめとする複合材料の強みといえる。



レーシングカー製作にも用いられるCFRPは高い強度剛性を売りとする一方、降伏点に達した際にいきなり壊れるという弱点があった。しかし、東京大学の伊藤耕三教授が開発した「しなやかなタフポリマー」は靭性(粘り強さ)が高く、サスペンションのコイルバネのように樹脂化が難しいパーツもCFRP化することができるという。

連続する曲面からなる面構成や独立したフロントフェンダー、カバーされたリアホイールなどが目を引くスタイリングは、未来感を醸し出すと同時に、省エネルギー化に貢献する空力性能を獲得している。


車内ではインテリアパネルの大半をCFRP化し、モノコックフレームやドア構造の一部とすることで、効率的な車体剛性の確保と軽量化を図った。


ItoPはおかやま次世代自動車技術研究開発センター(OVEC)製のインホイールモーターを使った後輪駆動。定格出力は15kW、最大トルクは570Nmだ。バッテリーは定格出力24kW、最大出力45kWのリチウムイオン二次電池で、最高速度は150km/h以上。フル充電で130km程度走行できるという。



ItoPが発表となったのは2018年9月のこと。すでに3年以上が経過しているが、その後、しなやかなタフポリマーの実用化などの続報を耳にしていない。現在はどのような状況なのだろうか。



東レ・カーボンマジック営業部門長の福井昌弘さんに聞いたところ、「極限の領域で戦うレーシングカーも今や全てがモノコックカーボンになっているように、CFRP化しても安全性に関しては全く問題ありません。ただ、ネックになっているのがコストです。単純に金属から置き換えるだけでは、数倍のコストがかかってしまいます。そのため、モジュール化するなど、形になった時に極力コストを下げるというところに今は取り組んでいるところです」とのだった。


安藤康之 あんどうやすゆき フリーライター/フォトグラファー。編集プロダクション、出版社勤務を経て2018年よりフリーでの活動を開始。クルマやバイク、競馬やグルメなどジャンルを問わず活動中。twitter:@andYSYK。 この著者の記事一覧はこちら(安藤康之)