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家での食事から考える、心豊かな人生を送るヒント 土井善晴『一汁一菜でよいという提案』評

2022年02月01日 10:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)

 普段から土井善晴先生の著書や番組を楽しみにしているファンの一人です。料理一家に育ち、品のある柔らかな語り口調とシンプルなレシピは、味が一発で決まる信頼感があります。


「ハレ」と「ケ」の後者を充実させることが大切


 結婚当初などに料理本にお世話になった方も多いのでは? これまでたくさんのおいしいお料理を作られてきた土井先生が意外にも『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)。大御所なのに「提案」というタイトルにやさしさがにじみ出ています。


 冒頭にこうあります。


“一番大切なのは、一生懸命生きること。
一生懸命したことは、一番純粋なことであり、
純粋であることは、もっとも美しく、尊いことです。”


 SNSなどで作りこまれることが多い時代に一石を投じる言葉です。皆さん忙しいこの時代に、おしゃれで素敵な生活を目指して毎日の食事作りがストレスになっている方が多いような気がします。


 そんな中、後ろめたさを感じたりストレスになったりするくらいなら、いっそのこと伝統的な食文化と感性に基づいて、一汁一菜にすることで心身ともに心地よく整うのでは?
贅と慎ましさ、「ハレ」と「ケ」の後者を充実させることが大切という提案です。


 実践のページでは普段食べているみそ汁の写真が紹介されています。本当に自由自在に食材を組み合わせています。ベーコンやハム、キュウリやブロッコリーなど、我が家では入れたことがない具材ばかり。


 考えてみるとオーソドックスな味噌汁しか作ったことがないから、バリエーションが乏しく具沢山ではないので、結果あれこれおかずを作ってしまうという流れです。もっと楽しんで良いんだなーと思いました。


 そして、出汁は要だと思っていたら濃すぎると味噌の風味を消してしまうそう。ほかのおかずがある場合はシンプルな味噌汁がバランスが良いこと等、勉強になりました。


“家では「あるもの」を食べるということでよいのです。
いろいろな日があるわけで、それでよいのです。”


 とハードルを下げる言葉もたくさんあり、読んでいて肩の荷がどんどん軽くなっていきます。まわりを見渡しても、きちんと食べている人は大らかで平穏な方が多いです。きっと情緒がととのっているんでしょうね。


 「基準を持つこと」のページでは、


“もの喜びするとは、感動できること、幸せになることです。
人の愛情や親切に気づくことができるのです。”


 これは食に限らず、人付き合いや物の考え方にも必要なこと。五感を澄まして、ありがたみのわかる人間でありたいなと思います。


 私自身が子供頃の夕方の風景は、子供たちが近所で遊び、お豆腐屋さんがラッパをふいて売りにきて、薪でお風呂を焚くお宅もありました。どこからともなく晩御飯の良い香りがして、「○○ちゃんちはカレーだね」なんて当てっこしていました。その時代は今でいう生活習慣病はそんなになく、贅沢はせずに慎ましく暮らし、旬のものをほどよく楽しんでいただく心豊かな食卓を皆していました。接種過剰栄養過多な今の時代、当時を思い起こし、改めて暮らしを見直すきっかけになりそうな1冊です。