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『花束みたいな恋をした』から1年 有村架純、主演作『前科者』で時代の先頭に

2022年01月31日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『前科者』(c)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

 大きな話題を集めた映画『花束みたいな恋をした』(2021年)の“絹ちゃん”役で、時代の代弁者ともいえる存在となった有村架純。あれからちょうど1年の時を経て公開された『前科者』で演じる“阿川さん”役にて、彼女は間違いなく自身をアップデートさせている。この2022年を生きる私たちの、前を歩く存在のように思うのだ。


【写真】有村架純撮り下ろしカット


 2021年は、有村が日本のエンターテインメント界のトップランナーであることを完全に証明した1年だった。先に挙げた『花束みたいな恋をした』では菅田将暉とともに“どこにでもいるカップル”に扮し、理想と現実、恋と愛のはざまで揺れる等身大のラブストーリーを展開。坂元裕二によって編み出された物語は多くの観客の共感を呼び、絹や、菅田演じる麦の口にする固有名詞の数々は同世代の者たちにとって馴染み深く、まさに“いま”を感じさせるものだった。同作の公開からしばらくして放送が開始された『コントが始まる』(日本テレビ系)でも有村と菅田は共演。足元がおぼつかない現在と、期待と不安とが入り交じる未来に向かって歩を進める若者たちの群像劇を展開し、厳しい環境下で生きる私たちとの重なりを感じさせたものである。


 有村がエンタメ界のトップランナーだといえる根拠は、これだけではない。およそ10年にも及ぶ『るろうに剣心』シリーズの完結編となった『The Final』に初登場し、続く『The Beginning』でヒロインを務めたというのが非常に大きい。特に後者は、シリーズを通して展開してきた物語の“すべてのはじまり”を描いたもの。かつては人斬りであった主人公の剣心が、“不殺の誓い”を立てた経緯がここで明かされた。シリーズを貫く、“剣心が剣心である理由”ーーそれが有村演じる巴の存在だったのだ。さまざまな観点から、この巴という大役に相応しい俳優はかぎられたものだと分かるが、有村は見事に自身の巴像を作り上げてみせた。同作は当初2020年に公開される予定だったものの延期され、これが2021年の有村の存在をさらに強調することとなったのである。そして、第二次大戦下を舞台に若者たちの青春模様を描いた『太陽の子』では、過酷な環境下にありながらも未来を見据える女性を演じ、またも彼女は現在の私たちとシンクロしたように思う。


 さて、有村の主演最新作である『前科者』は、昨年11月に放送された『WOWOWオリジナルドラマ 前科者 -新米保護司・阿川佳代-』(WOWOW)の続編にあたるもの。有村演じる保護司・阿川の数年後の姿が描かれている。何かしらの罪を犯して日陰者として生きる人々を、阿川は照らすような存在だ。それも、春の陽光のような真っ直ぐな温かさを感じさせる。これを有村は全身全霊をかけて演じていると思う。阿川の放つ光は、決して柔らかなものばかりではない。保護観察対象者によっては、厳しい言動で立ち向かうことだってある。彼女は、堕ちてしまった人間の“その先”を、身をもって知っているのだ。阿川自身、他者には言えない暗い過去を引きずって生きている人間なのである。


 阿川は保護司の仕事に全力な、ハツラツとした女性に思えるが、やがて彼女が浮かべる笑顔の裏にある哀しみが露呈していくことになる。優しさと厳しさを持つ阿川。明るい現在と暗い過去を持つ阿川。彼女の持つ性質を、有村は絶妙なバランス感で演じていると思う。阿川はつねに前を向き、未来に向かって生きている人物だ。彼女が保護司という職を選んだ理由は過去にあり、ときおりのぞかせる厳しさも過去のできごとに起因しているが、道を踏み外してしまった者たちの更生をサポートするというのは、いまこの瞬間を生き、未来を見据えている証。いくら過去に辛い経験をしている人物だとはいえ、ここで“暗さ”を押し出してしまっては、阿川のキャラクターは成立しない。つまり、有村の演技の“明暗”のさじ加減が絶妙なのである。


 先行きが不透明なこの時代、暗い気持ちにならざるを得ない瞬間は誰しもあることだろう。しかしその根本の原因は一人ひとり違うはずだ。有村演じる阿川は、自らが苦しみながらも、自分以外の苦しむ者にそっと手を差し出す人間だ。いまの時代の先頭を有村架純が歩いているなら大丈夫ーーそうとさえ思ってしまう好演ぶりである。ちなみに本作は、『ひよっこ』(2017年/NHK総合)で有村とともに夫婦役に扮した磯村勇斗との掛け合いも必見(ネタバレ抵触防止のため詳細は控える)。磯村の演技があってこそ、有村=阿川の放つ光はより際立っている。


(折田侑駿)