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傘置き場のビニール傘「みんな似てるから同じ」と適当にチョイス…法的問題は?

2022年01月28日 10:41  弁護士ドットコム

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雨が降った日に多くの人が使う「ビニール傘」。デザインやサイズに多少違いはありますが、基本的にはどれも似たような外観で、コンビニでも購入できる傘として広く使われています。


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しかし、誰もが使っているが故に、人の出入りが激しい店舗や施設にある傘置き場では同じようなビニール傘がたくさん置かれていて、間違って持っていかれてしまうことや、自分の傘がどれかわからなくなってしまうことがあります。



都内に住む会社員Mさん(40代)は、「自分の傘がどれかわからなくなった際、同じタイプのビニール傘を持って帰ったことがある」と自身の経験を語ります。



ビニール傘に名前が書いてあることもまずないので、置いてあった傘を1本持っていったそうです。



「僕は誰かの傘を持っていきますけど、そのかわり、誰かが僕の傘を持っていっても文句を言いません。シェアリングエコノミーだと思って使っていますから」



もっとも、Mさんがそう思っていても、傘を持っていかれた人からすれば、自分の傘がなければ困ってしまうでしょうし、雨ざらしは避けたい気持ちから、さらに別の人の傘を持っていってしまうなど被害が連鎖するおそれもありそうです。



Mさんの行為にはどのような法的リスクがあるのでしょうか。田村ゆかり弁護士に聞きました。



●誰のものかわからない傘を持っていった場合

  ——自分の傘を置いた傘立てから、誰のものかわからない傘を持っていった場合、どのような法的責任が発生しますか。



まずは(1)「傘立てから誰のものかわからないと思いながら他人の傘を持っていった場合」を考えます。



場所を仮にコンビニだと想定すると、コンビニの傘立てに傘を置いて店内に入った人は、当然出る時にはその傘を使うつもりで置いています。



そのため、刑事上の責任を考えると「他人の財物を窃取した」として、窃盗罪に該当しえます。法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金です(刑法235条)。



民事上の責任を考えると、「故意又は過失によって他人の権利…を侵害した」として、これによって生じた損害を賠償する責任、いわゆる不法行為責任を負います(民法709条)。損害賠償額としては基本的には持って行った傘の時価相当額です。



次に、(2)「他人の傘を持っていったが、その傘は持ち主が忘れていったものだった場合」についても考えてみます。



コンビニの傘立てに傘を置いて店内に入ったが、店を出た時には雨は降っておらずそのまま忘れていった、ということはあると思います。



持ち主が忘れていった傘を持ち去った場合には、「遺失物…その他占有を離れた他人の物を横領した」として、遺失物等横領罪に該当しえます。法定刑は1年以下の懲役又は10万円以下の罰金もしくは科料です(刑法254条)。民事上の責任は同じです。



——持っていった傘がたまたま自分のものだった場合はどうでしょうか。



(3)「傘立てから誰のものかわからないと持ち去った傘が自分のものであった場合」は、前述の刑事責任及び民事責任は負いません。



内心で誰のものかわからないと思っていたとしても、客観的には自分の傘を持っていっただけですので、刑法の構成要件に該当しませんし、誰の権利も侵害せず民事上の責任も発生しないからです。



●自分の傘だと思って他人の傘を持っていった場合

——自分の傘だと思って他人の傘を持っていった場合はどうでしょうか。



この場合、他人の傘を持ち去ったという行為そのものは(1)・(2)のケースと同じです。ただ、自分の傘だと思っていたという内心が(1)・(2)のケースとは異なります。



刑事上の責任を考えると、窃盗罪も遺失物等横領罪も故意があることが構成要件ですが、「自分の傘だと思っていた」場合は故意が認められません。たとえ過失があったとしても、両罪とも過失だけでは成立しませんので、刑事上の責任は負いません。



これに対して、民事上の責任については、「過失によって他人の権利…を侵害した」ときも損害賠償責任を負うこととなります。



このように見ていくと、他人の傘だとわかって持ち去った場合はもちろん、傘が忘れものだった場合や間違って他人の傘を持って行った場合でも、何らかの法的責任を負う可能性があるということになります。思わぬ事態に陥らないようご注意いただきたいと思います。




【取材協力弁護士】
田村 ゆかり(たむら・ゆかり)弁護士
経営革新等支援機関。沖縄弁護士会破産・民事再生等に関する特別委員会委員。
事務所名:でいご法律事務所
事務所URL:http://www.deigo-law.com/