2022年01月26日 10:21 弁護士ドットコム
俳優の東出昌大さん(33)が1月末で、所属事務所のユマニテを退所するとFLASH(1月18日)で報じられて、話題になっている。
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FLASHによると、女優・唐田えりかさんとの不倫騒動後も、交際中の女性を映画の撮影ロケ地に呼ぶなどの行動が問題視され、「事実上の”クビ”」(事務所関係者)だという。
今後、東出さんは「マネージャーもつけず、すべて一人でやる予定」だというが、芸能人が独立した場合、どんなトラブルや問題に直面することになるのか。芸能法務に詳しい河西邦剛弁護士に聞いた。
あくまで一般論ですが、まず直面するのが税務処理です。タレントも独立前から個人事業主として確定申告しています。ただ事務所に所属していれば、事務所側が確定申告に必要なサポートをします。具体的には、領収書の管理方法や確定申告書面の作成や提出、ときに税理士の紹介などのサポートですね。
しかし、独立後は全て自分で確定申告をする必要があります。その結果、期限までに確定申告が間に合わない、申告漏れがある、そもそも確定申告しないということにすらなってしまいます。
次に、仕事(現場)を決めてくることの大変さに直面します。
所属時代は事務所が仕事を決めて、タレントは「決まった現場に行く」という流れになります。撮影などの現場では出演者やスタッフと接することもありますが、タレントがその前段階の出演交渉や契約交渉をすることはありません。金額面含め交渉は事務所のスタッフが行いますし、タレント本人がギャラ交渉することはまず考えられません。
しかし、独立後は出演に向け自分で交渉していくことになります。交渉のプロではないので、交渉方法に悩みますし、タレント本人からすると誰が信頼できるのか判断が難しい。結果、出演料や条件なども取引相手の言い値になりがちです。営業には営業の、交渉には交渉のプロがいるということです。
ビジネスにおいては、取引相手の重要度によって優先順位を変えているのが現実です。例えば、重要な取引相手に対しては信頼関係を維持するために、連絡報告も怠りませんし、支払遅延なども起きにくく、トラブルが発生しても柔軟に対応してもらえます。わかりやすく言うと取引において大事にされます。
そして取引先の認識は、タレント個人だけでなく、その所属事務所と取引しているという認識です。例えば、タレントとトラブルになればその所属する事務所全体との取引に影響するので慎重になりますし、タレント本人やひいてはその背後にいる芸能事務所を大切にします。
老舗芸能事務所ほど、メディアや広告代理店などの取引相手と長年の取引から生じる信頼関係を構築しており、所属時代は事務所が築き上げた長年の取引関係のうえで仕事が決まっていくのです。
しかしフリーになってからは、タレント単位の取引になりますし、各クライアントにとっては優先順位が下がり、扱いが変わるということがあり得ます。今までのようにスムーズには仕事が決まっていかなくなるわけです。
もちろん独立したとしてもタレントの演技やパフォーマンスが落ちるということはないでしょう。しかし、演技やパフォーマンスだけでなく、取引自体の安定性が、仕事が決まるか否かに影響するのも事実です。
こういったケースでは、独立後にタレントが事務所の大切さに気が付くというケースもすくなくないようなイメージです。このように現場を決めてくるまでに様々な課題に直面します。そしてこの延長にあるのが次にあるのが反社会勢力との関わり合いです
反社の手口は「したたか」です。最初から脅すということはまずなく、始めは言葉巧みに信頼させ、ときに弱みを握り、信頼から徐々にゆすりや支配に変えていくのがやり口です。このように反社に取り込まれるまでいかなくとも、高額な金銭で広告をオファーされ、詐欺まがいの商品の広告塔になってしまうというケースもあります。 一度ブレイクし、もう自分ひとりでやれるとなり独立したケースではここまでの課題に直面しがちです。世の中には芸能事務所のネガティブな部分を強調した意見もありますが、そうではありません。
確かに、私が今まで担当した事件でもタレントが事務所側から犯罪被害を受けた、違法な取扱いを受けたという事件は実際あります。しかしあくまでそれは一部の事務所にすぎないということです。最終的には事務所次第であり、芸能事務所の役割は大きいといえます。
【取材協力弁護士】
河西 邦剛(かさい・くにたか)弁護士
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活 ~推しから愛される術(東京法令出版)」著者。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/