2022年01月24日 12:01 リアルサウンド
乃木坂46から生田絵梨花が居なくなってしまったなんて……。昨年末にグループを卒業してから、もうすぐで1ヶ月が経とうとしているのに、いまだにどこか実感を持ちきれていない自分がいる。
ピュアな性格、清楚な佇まい、太陽のような存在感。何をもって”乃木坂らしさ”と言うか、そこに定義はないが、ザ・アイドルな弾ける楽曲もあれば、繊細なメロディに乗せて深みのある歌詞を聞かせる”響く楽曲”も多い乃木坂46において、生田絵梨花は、まさに乃木坂46・1期生のなかで最も”乃木坂らしい”人物だったと思う。ミュージカル女優として活躍しているだけあって、ユニゾンのなかでも彼女の声は、一際、耳に届きやすかった。それだけに、生田絵梨花のいない乃木坂46も、乃木坂46のメンバーでない生田絵梨花も、まだちょっぴり違和感が拭えない。
しかし、卒業に先駆けて発売された『生田絵梨花 乃木坂46卒業記念メモリアルブック カノン』(講談社)を読み返していると、生田絵梨花は、どこに居ても生田絵梨花なんだと、不思議な安心感に包まれた。冠がどう変化しようと、活動の拠点がどこに移ろうと、彼女自身は変わらない。そう感じたとき、改めて、生田絵梨花の存在そのものが好きなんだということに気が付いた。
本作は、2016年に発売された1st写真集『転調』(集英社)でもカメラマンを務めた細居幸次郎氏による、「卒業旅行」と「DEPARTURE(出発)」をテーマにした撮り下ろしや、デビューから卒業までの写真を並べたビジュアルヒストリー、「いく撮」(週刊誌)『FRIDAY』(講談社)で連載中の乃木坂46のメンバー同士が撮影しあったプライベート写真「乃木撮」の生田絵梨花ソロ版)などのほか、生田絵梨花のロングインタビュー、秋元真夏、齋藤飛鳥との対談、関係者、後輩たちが語る生田絵梨花の魅力、そして乃木坂46メンバーからのメッセージといった読み物までもが充実した内容となっている。
全体を通して見えてきたのは、生田絵梨花の“エネルギッシュな愛され力”。才能に溢れながらも、たゆまぬ努力を続け、常に明るい笑顔でいる彼女の姿は、特に、身近な後輩たちからかなり慕われているようだ。しかしロングインタビューでは、乃木坂46に加入する前にドラマやミュージカルのオーディションに落ち続けた経験があり「自分はすごいとか、才能があるなんて思えない」、「私も悩みごとがあると、ネガティブ思考に陥ってなかなか抜け出せない」と自らを語るシーンもある。
幼い頃からクラシックバレエやピアノを習い、10年間、アイドル人生を駆け抜けながら、ミュージカルの舞台にも立ち続けた。人一倍、他者の才能に触れる機会の多かった彼女からすれば、自分におごるなんてあり得ないだろうし、人知れず涙を飲む場面も多々あったはずだ。それでも、憧れのミュージカル女優として評価を受け、身近な人たちからも「アイドルもミュージカルも完璧に仕上げる真面目さ、ストイックさがすごい」と言わしめるほどの安定感を見せ、いつもファンに明るい笑顔を届けてくれたのが生田絵梨花だ。これまで彼女が見てきた景色を、ヨハン・パッヘルベルの「カノン」とともに想像してみると、彼女のピュアな感性までもが浮かび上がってくる。同時に、それら全ての経験が、舞台上での繊細な表現力に活きていると大変納得した。
どこに居ても、どんなときでも、つい追いたくなってしまう表情。存在に触れるだけで、エネルギーが伝わってくる。“才能” という言葉を言い換えるとしたら、彼女の場合“パワー”となりそうだ。元気でも、ポジティブでもなく、“パワー”。パワーに溢れた人だからこそ、彼女の笑顔には信頼感と安心感があり、多くの人から愛されるのだろう。そのパワーは、生まれ持った素質に加えて、10年もの歳月をかけて彼女自身が積み上げた、大きな宝物だ。
写真集に見る生田絵梨花の良さは、表情にあると感じている。楽しむときは思いっきり楽しむ。嘘のない眼差しは、いつもまっすぐ輝いている。それは、13年ぶりに訪れた故郷のドイツ・デュッセルドルフで撮影された1st写真集『転調』と、ミュージカルの本場であるアメリカ・ニューヨークで撮影された2nd写真集『インターミッション』(講談社)も同様で、どちらの写真集でも、時期的な心情と目の前に広がる情景をありありと重ねた表情を見せてくれていた。
本作では、「卒業旅行」のシーンで、箱根の温泉旅館でくつろぐ姿が見られる。(時期的な状況もあってだろうが)1st、2nd写真集とは違い、日本の風景に生田絵梨花が馴染んでいる。乃木坂46を旅立ったあとも、変わらず近い距離で笑いかけてくれるんだろうと、ホッとしたワンシーンだ。
「DEPARTURE」パートにある、移動車のなかで撮られた純白ドレス姿には、恐らく多くの人が、”娘が結婚するときの親の気持ち”を体感したのではないだろうか。生田絵梨花の表情もまた、慣れ親しんだホームから新しい環境に旅立つ寂しさと覚悟を実感しているように見え、めでたさと切なさが入り混じる。
けれど、ラストシーンで見せている笑顔は、デビューしたばかりの初々しさの残るあの笑顔と同じ形をしている。もちろん、顔つきは凛々しくなったし、あの頃よりも大人びた目元をしているが、やっぱり生田絵梨花は、どこに居ても“生田絵梨花”そのままなんだ。幼き頃に憧れたミュージカル女優の夢を叶え、今後、さらなるステージへ駆け上がっていったとしても、生田絵梨花のピュアさはずっと健在だ。このメモリアルブックが、そう教えてくれている気がした。
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