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同棲中の彼氏の浮気現場を目撃! 相手の既婚女性から慰謝料もらえないの?

2022年01月22日 10:11  弁護士ドットコム

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同棲中の恋人が既婚者と職場不倫していた。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられています。


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相談者は女性です。ある日、自宅前の駐車場で、同棲中の彼氏が女性と浮気しているところを目撃しました。相手の女性は、彼氏の職場の人で既婚者でした。



問い詰めたところ、彼氏は浮気をしたことを認めたそうです。後日、「彼氏、相手女性、彼氏の上司で、直接話し合うことになりました。以前から、社内や取引先まわりで2人のことが噂にあったそうです」。



彼氏とは和解したものの、「彼氏は遠方の出張が著しく増えて、(会社からの)制裁が始まっている」といいます。また、相手の女性からは謝罪もなく、不満を感じています。



結婚はしていないものの、同棲中であることから真剣交際といえます。このような場合、相手女性から慰謝料をもらえないのでしょうか。櫻町直樹弁護士に聞きました。



●相手女性から慰謝料をもらうことはできない

――今回のように結婚していない場合、相手から慰謝料をもらうことはできないのでしょうか?



今回のケースにおいて、相手女性に対して慰謝料(損害賠償)の支払いを求めるためには、相手女性の行為が「不法行為」(民法709条)にあたる必要があります。



民法709条:故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。



相手女性が交際相手と性的関係を結んだことによって、相談者の「権利又は法律上保護される利益を侵害」されたといえるかどうかが問題となるわけです。



現在の裁判実務を前提とすれば、この相談者の「権利又は法律上保護される利益」は侵害されていない、したがって、相手女性に対して慰謝料の支払いを求めることはできないという結論になります。



たとえば、東京地裁令和元年6月28日判決(公刊集未登載)は、「原告と被告との交際については、婚姻関係にある男女の関係と同視することができない以上、仮に、被告が原告との交際期間中に別の女性であるDと男女関係を有していたとしても、そのことが当然に原告に対する不法行為に当たるということはできない」と判示しています。



また、いわゆる「婚約」(婚姻の予約)関係であった場合についても、東京高裁平成29年12月7日判決(公刊集未登載)は次のように判示して、婚約者と肉体関係をもった第三者への損害賠償請求を否定しています。



「婚姻予約によりその一方当事者が有する権利ないし法的利益は、他方当事者に対して正当な理由なく婚姻を破棄しないこと、婚姻予約を履行することを求めることができるというにすぎず、第三者が婚約関係にある他方当事者と肉体関係を持ったというだけでは、婚姻予約の相手方の権利又は法的利益を侵害したということはできないと解される」



――交際や婚約では慰謝料はもらえないということですね。



ただし、いわゆる「内縁関係」に至っていた場合には、法律上の婚姻関係に準じた法的保護が認められるとされています。



先ほどの東京高裁判決でも、下記のように「内縁関係たる婚姻共同生活の平和」が法律上保護される利益に該当するとして、損害賠償を認めています。



「平成25年4月7日には、第一審原告は、Aと結婚式を挙げており、前記認定した婚約に至るまでの交際の経緯、婚約後の準備状況、挙式の規模や内容そして、同年6月25日には入籍に至っていることに鑑みるならば、同日以降、第一審原告とAは、入籍はしていないもののこれに準ずる法的保護に値する婚姻共同関係(内縁関係)に入ったと解するのが相当」



「結婚式当日の夜、結婚式に出席した第一審被告がAと2人でホテルに宿泊した行為は、その際に性交渉を持ったか否かに関わらず、第一審原告との関係において、内縁関係たる婚姻共同生活の平和を侵害する行為に該当し、また、その後・・・Aと継続的に肉体関係を持った行為は、同年6月25日の入籍の前後を通じて、全体として、第一審原告に対して婚姻共同生活の平和を侵害する不法行為となる」



●相手女性の夫にバレた場合、逆に慰謝料を求められる

――相手女性は既婚者でした。もし、彼女の夫にバレたら、彼氏のほうが慰謝料を求められてしまうのでしょうか?



相手女性の夫は、自分の妻と不貞をおこなった相手(相談者の彼氏)に対して慰謝料の支払いを求めることができます。



たとえば、最高裁昭和54年3月30日判決(民集33巻2号303頁)は、「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被つた精神上の苦痛を慰藉すべき義務があるというべき」と判示しています。



●相手女性の夫に「告げ口」することにも法的リスクがある

――もし相談者が、相手女性の夫に事情を告げ口したら、そのことが法的に問題となるのでしょうか?



相手女性の夫に「配偶者の不貞」を伝える行為は、相手女性の夫に対する不法行為にあたると判断される可能性があります。



東京地裁平成29年3月24日判決(公刊集未登載)は、既婚女性と不倫関係にあった男性が、(自分の妻を装った体裁のメールを作成・送信して)当該女性の夫に対し不貞の事実を伝えた行為について、「原告が知らなくても良い事実をあえて告知し、原告に対して無用な精神的苦痛を与えるとともに、原告にAに対する復讐心をあおり、原告をしてAに対する損害賠償請求に及ばせようと仕向けたものであり、その行為は本件不貞行為とは別個の不法行為を構成するものと解される」と判示しています。



この裁判例を前提にすると、相談者が相手女性の夫に「告げ口」をする動機・意図などによっては、不法行為責任を問われる可能性があると言えるでしょう。



次に、「不貞をしている」という事実は、他人に知られれば、当事者の社会的評価が低下するものであり、また、私生活に関する事項としてプライバシーにあたります。したがって、相手女性の夫に伝える行為は、交際相手及び相手女性との関係で、名誉毀損またはプライバシー侵害の成否が問題となりえます。



まず、名誉毀損については、「不特定または多数」に対して情報が伝えられること(公然性)が前提となります。そうすると、「相手女性の夫」という、「特定かつ少数」の者に対して伝えるだけであれば、そこからさらに伝播していく蓋然性が認められない限りは、公然性がなく名誉毀損は成立しないとなるでしょう。



次に、プライバシー侵害については、東京地裁平成25年3月27日判決(公刊集未登載)が、「革マル派」「内ゲバで殺人事件を起こしたと言われ、新聞にも掲載された」といった記載のあるリストを報道機関9社の記者に配布した行為について、プライバシー侵害を認めています。



「プライバシーの侵害行為は、プライバシー情報として不法行為法上保護に値する私人の情報が当該私人とは無関係の第三者に開示・伝達されることで完了するというべきであるから、名誉毀損行為とは異なり、公然と行われることを要しないと解するのが相当」



こうした裁判例を前提にすると、「相談者の交際相手が不貞をしている」という事実を相手女性の夫に伝える行為については、交際相手及び相手女性のプライバシーを侵害すると判断される可能性が高いといえるでしょう。




【取材協力弁護士】
櫻町 直樹(さくらまち・なおき)弁護士
石川県金沢市出身。企業法務から一般民事事件まで幅広い分野・領域の事件を手がける。力を入れている分野は、ネット上の紛争解決(誹謗中傷、プライバシーを侵害する記事の削除、投稿者の特定)。
事務所名:パロス法律事務所
事務所URL:http://www.pharos-law.com/