2022年01月22日 10:01 弁護士ドットコム
日本一の歓楽街とされる東京・歌舞伎町。昨春から、ここで自称「平和テロリスト集団」が活動している。と言っても、やっていることは清掃活動や炊き出しなど、テロとは真逆でとっても平和。メンバー170人を抱える、その「歌舞伎町卍會」なるグループの総会長に、目線を合わせた「地べた取材」を試みた。(ジャーナリスト・富岡悠希)
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1月中旬の週末、活動名、ハウル・カラシニコフさん(年齢非公表)と待ち合わせた。指定され場所は「歌舞伎町シネシティ広場」(通称・広場)。通りを挟んだ向かいには、歌舞伎町のランドマークになっている「新宿東宝ビル」がある。
午後8時半過ぎ、広場に到着すると、南側の地べたに座っている男性が片手を上げた。黒いキャップから紫色の髪をのぞかせたハウルさんだった。
外の気温は4度。取材場所の希望を聞くと、「ここで」。寒かったが、筆者も腰をおろし、地べた取材を決めた。
やにわにハウルさんが、リュックからタッパーを取り出す。中には、6、7個の手作りのおにぎりが。すると右手でたむろしていた女の子たちを呼んで分け与えた。
「めっちゃうれしい。今日の一食目です」。そう言いながらほおばる彼女たちは、昨年来メディアを賑わせている「トー横キッズ」だった。
――トー横キッズたちとは、いつから接点を?
俺が卍會の活動につながる、ここでの清掃活動に参加するようになったのは昨年の春からです。ずっと前からやっている方がいて、手伝うようになりました。
そのときは「なんか子どもたちがいっぱいいるな」と感じたぐらいです。今の広場ではなくて、路上にいましたけど。
その後、清掃を続けるうちに、キッズたちが「家に居場所がない」「虐待を受けている」などとわかってきました。
炊き出しをしたときに食べ物をあげるなどして、徐々に顔見知りになっていった。今では、いろいろな相談にも乗っています。
――ハウルさんは1月に入って、「歌舞伎町広場で個人で援助交際してて金取られた人間、あるいは取られてる方は私に連絡ください」とツイートしています。これもトー横キッズですか?
キッズかどうかは言えませんが、この広場で直接聞いた話です。
たしかに援助交際は、ほめられたことではない。しかし、援助交際でしかお金を稼げない、そうでないと生活できないから、仕方なくやっています。
そうした女の子から、「ここで援交するなら、売上の3割寄こせ」と迫った奴がいる。そんなのが許せますか?
歌舞伎町の平和のために活動するのが、歌舞伎町卍會です。彼女たちを守りたいのでツイートしました。
――昨春、歌舞伎町での清掃活動に参加するようになったきっかけは?
新型コロナウイルスの影響で、世の中がギスギスしていた時期でした。俺の感覚では、「もう、世間が終わっていた」。だからこそ、何か世の中をいい方向に変えられることをしたかった。
歌舞伎町には、たまに来るぐらいだったけど、試しに清掃活動を手伝ってみた。ものすごいゴミが集まった。その分、ちょっといいことをやったと手ごたえがありました。
次第に路上飲みをしている人にも声をかけていった。すると、飲食店の方々も協力してくれた。そして、どんどん参加者が増えました。
せっかくならば、何らかのグループにしようと考えた。けど、名前は何でもよかった。当時、漫画の『東京卍リベンジャーズ』にハマっていたから、そこの「東京卍會」をもじりました。
――現メンバーの170人ぐらいまでは、すぐに増えた?
夏ごろには220人ぐらいになりました。しかし、どんどん増やしたことで問題が生じました。
残念なことに、メンバー間で盗みを起こすとか、トー横キッズにちょっかいを出すとか。そうしたメンバーには、もちろん抜けてもらいました。
それで残っているのが、きちんと活動できる170人です。
――活動を具体的に教えてもらえれば。
今日はオミクロン株の流行で活動を控えていますが、普段は、金土日の夜に集会を開きます。
だいたい午後8時半ごろに集合。トー横キッズやホームレスに食事を出します。さっき渡した、おにぎりのようなものですね。
親がいなかった僕は以前、野良犬のような生活をしていました。その日暮らしで、行き先がない。食事を取ったとしてもコンビニとかスーパーです。
そのとき、友人の家に呼んでもらって家庭料理を食べられるとすごくうれしかった。キッズたちにも、少しはそんな気分を味わってもらいたくて。コロナ禍なので、もちろん衛生面には最大限に気を遣っています。
今は冬場で人が少ないけど、秋まではゴミもあった。ゴミ袋を手に、夜から明け方近くまで、歌舞伎町一帯を掃除していました。
――昨春来、歌舞伎町で何か変化がありましたか?
ゼロにはなっていないけど、秋の時点でもゴミは少なくなりました。綺麗になっていると、ポイ捨てをしにくい。ゴミを持ち帰ってくれる。少しはそんな好循環になった気がします。
過去を全部明かすつもりはないけど、俺は若いころに、大阪の「西成」(「ドヤ」と呼ばれる簡易宿が並ぶ「三大ドヤ街」の一つ)にいました。
その西成と歌舞伎町に通じるものを感じています。来る人を選ばない、気持ちだけで繋がっていける共通点がある。
東京では異質な街だけど、東京らしい冷たさがない。この街の素晴らしさに気付くようになりました。
――歌舞伎町卍會の今後は?
今までは全部、メンバーの手弁当でやってきました。さっきのおにぎりも、もちろん僕の自腹です。
HPを整備して、寄付を募っていきたい。また、NPOなど何らかの法人化も考えています。
俺は物欲がないです。そのため本業の彫り師の仕事も、こうした活動ができるように調整しています。
壁のない、ほっとできるコミュニティを作れれば、それで満足です。
ハウルさんは、この日、トー横キッズたちに人形も配った。大小さまざまで、全部、最近手に入れたものだという。たしかに真新しかった。
「これがいい」「私はこっち」。広場で人形を選んでいる女の子たちを、ハウルさんは優しい瞳で見つめていた。
お腹を満たして人形をもらったキッズたちは、しばらくすると数メートル先の元居た場所に帰った。
これまでの取材経験から判断するに、多くのキッズたちは大人に警戒感や不信感を抱いている。一番信頼できるのは同世代なのだ。
ハウルさんは「野良犬のような生活」を送ったことがあるだけに、彼らの心情をわかっている。だから、ベタベタし過ぎない。
人との距離感がわかっていることは、歌舞伎町卍會のトップとしてメンバーを率いるのに大いにプラスになるに違いない。
卍會の活動を筆者も、少し離れた場所から見守るつもりでいる。