2022年01月19日 10:21 弁護士ドットコム
他人のツイートのスクリーンショットを投稿することは、著作権侵害に当たる――。
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そんな判決が昨年12月、東京地裁(中島基至裁判長)で下されました。ツイッターでよく見かける引用ツイートの手法だけに、多くのユーザーに影響があると考えられます。
この判断は、原告であるX氏が、NTTドコモを相手取り、ツイッター上で著作権侵害があったとして、ユーザー2人(A氏とB氏)について発信者情報の開示請求をおこなった裁判の中で示されました。
A氏とB氏は昨年3月、X氏のツイートのスクリーンショットを添付したツイート(スクショツイート)をおこなっていました。
一体、どのような判断だったのでしょうか。判決をひもときながら、著作権法にくわしい澤田将史弁護士にそのポイントを聞きました。
判決によると、注目すべき争点は2つあります。1つ目は、「X氏のツイートに著作物性があるか」、2つ目は、「X氏のツイートのスクリーンショットを添付したツイートは、著作権法上で許されている引用に当たるか」です。
X氏は4つのツイートについて、「自分が有する思想と感想を創作的に表現したものであり、文芸の範囲に属する言語の著作物に当たる」などと主張しました。
これに対し、被告側はこれらのツイートについて、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)に該当するかどうかは疑義がある」と反論していました。
判決では、X氏のツイートについて、いずれも「原告の思想又は感情を創作的に表現したもの」と認め、著作権法10条1号が定める「小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物」であると結論づけました。
たとえば、X氏がC氏という別のユーザーに宛てた、次のツイートではどう判断されたのでしょうか。
裁判所はこう述べています。
X氏のツイートが著作物であると認定したうえで、次に、X氏のツイートの画像が添付されたA氏やB氏のツイートが「引用に当たるか」という点については、どう判断されたのでしょうか。
B氏のツイートの一つを紹介すると、先ほど紹介したツイートを含む3つのX氏のツイートのスクリーンショット画像を添付し、「絡んだ時間順に並べてみました。暴言はいてます?」と投稿するものでした。
この投稿について裁判所は、「他のユーザーに対し、ツイッター上で原告との間でおこなわれた過去のやり取りを示した上で、その中に客観的にみて原告に対する暴言があったかどうか意見を求めるものである」と評価しています。
引用については、著作権法32条1項で次のように定められています。
被告側はこれに基づき、「X氏の意見に対して批評を加えるためにツイートを引用する形でおこなわれている」と反論しました。また、被告側は画像から出どころは明らかであるとして、引用の要件を満たしているとしました。
一方、X氏は「画像自体から明らかであるのは、原告のツイッターアカウントにすぎない。そして、原告各投稿は、いずれも既に削除されており、URLが明示されていない限り、決して原典には到達できないことからすれば、原告のツイッターアカウントの表示だけでは出所が明示されたことにはならない」と主張して、真っ向から対立していました。
裁判所は以下のとおり判断しました。
そのうえで、A氏やB氏のツイートは、X氏のツイートのスクリーンショットと比べ、「スクリーンショット画像が量的にも質的にも、明らかに主たる部分を構成するといえるから、これを引用することが、引用の目的上正当な範囲内であると認めることもできない」として、引用であることを認めませんでした。
裁判所はこうした判断から、NTTドコモに対して、発信者情報を開示するよう命じました。
「この裁判所の判断の中で最も重要なのは、他者の投稿のスクリーンショットを掲載して当該投稿に言及するツイート(スクショツイート)がツイッターの規約に違反することのみを理由として、当該ツイートは『公正な慣行』に合致せず、著作権法上の引用は成立しないと判断した点です」
判決のポイントを、澤田弁護士はこう説明します。
「この判断を字面どおり捉えると、スクショツイートについては、他の要件を満たしていても常に著作権法上の引用が成立する余地はなく、他に適法となる理由がない限り、著作権侵害になってしまいます」
さらに、澤田弁護士は次のように指摘します。
「そもそも、『公正な慣行』要件は、とても抽象的ですが、『世の中で著作物の引用行為として実態的に行われており、かつ、社会感覚として妥当なケースと認められるもの』がこれに合致すると解されています(加戸守行著『著作権法逐条講義 七訂新版』/著作権情報センター/2021年/302頁)。
このような理解からすると、利用実態と社会通念が重要であって、(利用規約に従った行為が公正な慣行に合致するという判断をするならまだしも)利用規約に違反したからといって直ちに公正な慣行に合致しないとはいうことはできないと考えます。
少なくともツイッター上で、他者の投稿に言及するツイートが実際にどのようになされているかの実態等を踏まえなければ、公正な慣行に合致するかどうかの判断を適切におこなうことができないでしょう。
スクショツイートは、投稿が削除された場合やブロックされた場合でも内容が理解できるようにするといった目的でおこなわれることも多いようであり、このような実態には目を向ける必要があるのではないでしょうか。
被告側から『公正な慣行』に関する具体的な主張立証がなかったために今回の判断に繋がったのだと思われますが、それを踏まえても規約違反から直ちに『公正な慣行』に合致しないと判断したことには疑問があります」
また、規約違反の問題と著作権法上の引用についての問題は別の問題であると、澤田弁護士は説明します。
「ウェブサイト上の情報を転載しないという利用規約に同意をしていたが、それに違反して転載をしたというケースでも、規約(契約)違反の問題と著作権法上の引用に当たるかという問題は別問題で、引用の成立が一律に否定されるわけではないという解釈が一般的です。
しかし、今回の裁判所の判断は、規約違反のみを理由にして一律に引用の成立を排除しているに等しく、このような一般的な解釈とも整合しないように思われます。
さらに、投稿が削除された場合やブロックされた場合などのように、そもそも引用リツイートが不可能な場合でも、スクショツイートが規約違反であることは変わらないと思われます。
今回の裁判所の判断によれば、こういった場合にツイッター上で他者の投稿を引きながら言及する方法がなくなってしまうことにもなりかねません。このような帰結は、表現の自由という憲法上の価値にも関わる著作権法上の引用規定の趣旨にもそぐわないのではないかという疑問があります。
このように、今回のケースの裁判所の判断には、著作権法上の引用の解釈に関して、さまざまな点で疑問があります」
澤田弁護士が裁判所に確認したところ、NTTドコモが控訴しているそうです。
「控訴審では被告側から『公正な慣行』に関する具体的な主張立証がなされると思われますので、知財高裁で地裁とは異なる判断がされる可能性はあります。
また、発信者情報開示請求訴訟と、その後に提起される可能性のあるX氏のA氏・B氏に対する著作権侵害を理由とする損害賠償請求訴訟とは別の手続ですので、A氏・B氏の主張立証を踏まえて、上記の点について異なる判断がなされる可能性はあります。
ただし、実務に携わっている立場からすると、『公正な慣行』要件の問題とするかはさておいて、『正規に用意された方法があるのだから、それを使えばよい(それ以外の方法を使う必要がない)』という判断をする裁判官は多いだろうという感覚はあります」
では、一般ユーザーは今後、どうしたら良いのでしょうか。
「上記のとおり、この裁判所の判断を前提とすると、スクショツイートについては、常に引用は成立せず、他に適法となる理由がない限り、著作権侵害になってしまいます。
スクショツイートは一般ユーザーの間で広くおこなわれていると思いますが、スクショツイートが引用以外の理由で適法となる可能性は低いため、著作権侵害となる可能性が高いです。そのため、今回の判決を前提とすると、他者の投稿に言及する際には、ツイッターが用意している引用リツイートの方法を用いるのが安全です。
なお、仮に、スクショツイートが『公正な慣行』に合致するとしても、著作権侵害とならないためには、引用の他の要件を満たす必要があります。そのため、自らの言及(自らのツイート部分)が主といえる程度の質・量がないと、今回のケースのように、引用の目的上正当な範囲内でないなどと判断されて、引用が成立しない可能性があるという点には注意しましょう」
【取材協力弁護士】
澤田 将史(さわだ・まさし)弁護士
2011年、早稲田大学大学院法務研究科修了。2012年、長島・大野・常松法律事務所入所。2016年には文化庁著作権課に著作権調査官として出向。2020年から三村小松山縣法律事務所パートナー弁護士。著作権法をはじめ、特許法、商標法、不正競争防止法など知的財産法に関する案件やデータ・AIに関する案件を中心に取り扱っている。著作権法に関する著作や講演の実績多数。
事務所名:三村小松山縣法律事務所
事務所URL:https://mktlaw.jp/