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横川良明×佐藤結衣が語る『最愛』と2021年のドラマ 現代が求める本当の“キュン”を探る

2022年01月10日 21:11  リアルサウンド

リアルサウンド

テレビ

 リアルサウンド映画部では2021年の年末特集として、ドラマ評論家・ライター陣による「年間ベストドラマ10」企画を実施した。そして今回、2021年のドラマを振り返りつつ、2022年新ドラマに向けてライターの横川良明氏と佐藤結衣氏のドラマ対談企画を行った。両氏がそれぞれPlusParavi、リアルサウンド映画部にて毎週コラム連載を担当してた2021年10月期TBS金曜ドラマ『最愛』の魅力を振り返りながら、2021年印象に残ったドラマ、そして2022年注目しているドラマについて語り合ってもらった。(編集部)


■『最愛』には「やられた!」の一言


ーー2021年の10月期ドラマでは2人とも『最愛』のコラムを担当されていましたが、終わってみていかがでしたか?


横川良明(以下、横川):楽しかったですね。満足度が非常に高いです。


佐藤結衣(以下、佐藤):毎話ラスト5分で一気に惹きつけられ、翻弄されっぱなしでした。


【写真】『最愛』最終話のハイライトシーン


横川:『最愛』制作チームの強みは、出し惜しみをしないところ。物語の展開がカードを早く切っているから、一度、第5話あたりで最終回かなくらいの盛り上がりができて、でも第6話以降でパワーダウンするわけではなく、きれいに第2章として次の展開に繋げていましたね。


ーー毎週、犯人の推理も話題になりました。


横川:みんなが犯人はこの人しかいないだろうと思いつつ、でもこの人じゃないほうがいいなと心のどこかでは思って、いろんな説で推理してみるんだけど、結局、彼になってしまって。何話もあると連ドラのミステリーって犯人の予想がついてしまうので難しいんですけど、『最愛』はいちばん妥当な犯人なのに、安易に「はいはいわかってたよ」とはならないところが強かった。


佐藤:たしかに私も「どうか彼が犯人じゃありませんように」という気持ちが強くて、目を曇らせていたところがあったように思います。横川さんも「犯人は藤井(岡山天音)ということで」と書かれていましたね(笑)(参考:https://plus.paravi.jp/entertainment/010432.html)。


横川:藤井じゃないことはわかっているんだけど、藤井だと傷つかないからよくない?  って(笑)。


佐藤:その藤井から最終回に、大輝(松下洸平)が問い詰められる展開になって「え!? 藤井、攻める側なんかい!」ってツッコまずにはいられませんでした(笑)。そしてストーリーそのものに引き込まれるのはもちろんなんですが、主題歌と物語の連続性というか統一された世界観もさすがの仕上がりでしたね。


横川:新井順子プロデューサー×塚原あゆ子監督チームの主題歌は、『アンナチュラル』(TBS系)の「Lemon」の頃から使い方に注目されてますよね。どのドラマもクライマックスに主題歌を流すのは定番ですけど、残り方が違う。


佐藤:新井Pへのインタビューで現場でも「テーマ曲を流している」と聞いたので、作品全体に染み込んでいるのかもしれませんね。それと、キャスティングについても絶妙でした。高橋文哉さんや田中みな実さんについては最初チャレンジングな起用だなと思っていましたが、結果的にお2人以外にはハマらなかった感じました。それくらいそれぞれのキャラクターに落とし込まれていたなと。


横川:メインキャストの松下洸平さんと井浦新さんの男性2人がしっかりとした人なので、サブにフレッシュな若手の俳優を起用する。そんなキャスティングの隙のなさを感じましたね。田中さんは、ご本人のパブリックイメージに近い役より、今回のしおりのような役の方が好きでした。


佐藤:正直、田中さんが演じたしおりを最初に見たとき、もともとの世間的に浸透しているイメージとの違いに無理をしているような印象を覚えたんですが、その違和感さえもむしろしおりの役柄とぴったりだったという……。「やられた!」の一言です。


横川:逆にパブリックイメージを再利用していたというか。女性として消費されている息苦しさを田中さんがなんとなく文脈として背負っていて、それが憎き渡辺康介(朝井大智)との背景に繋がっていた。途中からずっと悲しい顔をしていた田中さんが印象に残っています。表現の幅の広い人なのかなと、今後を期待したくなる姿を見せてくれました。


■『おかえりモネ』と『大豆田とわ子と三人の元夫』


ーー2人の2021年のお気に入りドラマは何でしたか?


横川:僕は『おかえりモネ』(NHK総合)がぶっちぎりの1位でした。朝ドラをあまり観ない僕が、ちゃんと毎話観ることができたのは後にも先にもこれだけだと思います。


佐藤:実は私、朝ドラについてはまだまだ未開拓者でして……。『おかえりモネ』を観ようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?


横川:坂口健太郎さんと脚本家の安達奈緒子先生が好きなのでチェックしておこうと思ったのがきっかけです。僕が朝ドラをあまり観ない理由が、そういう作品ばかりではないことはわかっているのですが、戦前から始まる女性の一代記に興味が持てないのとセットの作りが映像的にあまり引き込まれないなというのがあります。でも『おかえりモネ』は一代記ではなく現代の女性を描いている点で身近に感じましたし、特に前半を彩った登米の山々の映像がすごく綺麗だったんです。これは見ごたえがあるなと思ったのが始まりですね。どちらかというと深夜11時くらいにやっているような作風のドラマでしたが、それが僕の好みにすごく合いました。


佐藤:確かに、これまでの実績から番組の枠でドラマのイメージが確立されているところはありますよね。では、『おかえりモネ』は「朝ドラだから」というよりも作品として興味があったということですか。


横川:そうですね、たまたま『おかえりモネ』が朝ドラだっただけで。でも、既存の朝ドラっぽいものを求めていた人には賛否が起きていました。主人公が何かに挑戦して、成長して、故郷に帰るというような、メリハリのあるストーリーを求める人からすると、百音(清原果耶)が故郷で何をやりたいのか共感しづらかったし、気象予報士として最後に何か成し得たわけではないので物足りなかったというのは分からなくはないです。僕は一足飛びで人って成長しないと思うし、必ず全員が何かを成し得るわけではない、そして成し得なければ人生として充実していないわけではないと思ってるタイプだから、気にならなかった。結局は好みだと思いますが、主人公の百音が、自分の心の傷とどう向き合って一歩踏み出していくかが全て描けていたので、素晴らしい作品だったと思います。


佐藤:そう言われると、今からでもアーカイブで見返したくなります!


横川:それと安達先生は、丁寧な心情描写も良いですが、ラブコメを描くのがすごくうまい。「#俺たちの菅波」がネット上で話題になりましたが、『G線上のあなたと私』(TBS系)もラブコメ描写がすごく良かった。もともと月9枠の作品を書かれていたこともあり、爽やかでじれったいキュンの描ける作家だと思います。


ーー佐藤さんの2021年のお気に入りドラマは何でしょう?


佐藤:私は『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)が一番好きでした。坂元裕二さんが描かれる世界観が好きで、ずっと観ていたいなと思ってしまうんですよね。これまでも坂元作品は多くの魅力的な俳優さんが演じられてきましたが、なかでも松たか子さんが出てくるとやっぱり締まるなぁと。


横川:とわ子(松たか子)が本当に素敵な女性なんですよね。最後に松田龍平さんが「大豆田とわ子は最高だ」って言った時に、「最高だ」ってみんなが思ったと思う(笑)。


佐藤:そうなんです(笑)。もちろん3人の元夫の個性が強くて、その部分を面白おかしく見るシーンは多いけど、前提として、とわ子が魅力的じゃないと、あの3人は集まらないよねと。3人が結託するほどの求心力が、とわ子にあるから成立する世界観というか。“くっついた”、“離れた”というような男女の愛を描く作品よりも、もっとゆるくつながっていく集合体としての愛情を描く流れが、時代の空気ともマッチしているのかなとも思います。


横川:僕がすごいなと思ったのが「大豆田とわ子ってどんな人?」って言われると、説明できないんですよ。“勝ち気”とか“強気”とかでもないし、“自分にすごい自信のない”でもない、“立ち向かっていくヒロイン”……? でもないじゃないですか。説明できないから10話全部観てと(笑)。


佐藤:普通の人と言えば普通の人という言い方になりますよね。尖った特徴があるというわけでもないですし、事なかれ主義なところもある。共感性もあるんですけど、確実に魅力はあって。普通の人=つまらない人ではなく、むしろ視聴者の興味を抱くように描き出すのがさすがだなと思います。


横川:とわ子のようなヒロインはなかなか描けないですよね。もしかしたら、野木亜紀子さんの作品にも多い、ヒロインをスーパーウーマンにしないという流れの中の1つなのかもしれないですね。自分にも他者に対してもすごく誠実なヒロインだなと思います。


佐藤:確かに。しっかり者でもありますけど、穴に落ちちゃうし、わかりやすくキュンと心を動かされているシーンもありました。難しいんですよね、あの魅力を一言で表現するのは。でも、それがリアルに人間が誰かを好きになるときの感情に近いようにも思います。ここがこうだから好き、という一言がないところに本当の好きがあるというか。


横川:だからこそ、みんなが好きになるし、ちょっとずつ自分に似ているところを感じられたのかもしれないです。そんな登場人物を描ける台詞の巧さはもちろん、やっぱり坂元さんはすごい作家だなと……でも、坂元さんの作品が分かりにくいと聞くこともあって、何が分かりにくいんだろうなって。どういうドラマなのかと言われると、よくわからないというのはわかる。


佐藤:オンエア中に「どう楽しんでいいかわからない」という声は見かけましたね。確かに日曜劇場のようなスカッとする分かりやすさではない、というのはありますけど(笑)。主人公が何かとてつもなく努力して苦難を乗り越えてという感じではないし、言ってみれば「そんなに何も変わりませんでした」みたいな話ですからね。でも、そこが愛しいっていうか。例えるならのどごしの爽快感とは違う、ずっと口の中で咀嚼して飲み込みたくないな、という美味しさ。それはもう好みではありますよね。好みといえば最近、Netflixで韓国ドラマを見ていて、日本のドラマって割とすぐ立ちはだかる壁が解決されるような印象を持ったんですよね。韓国ドラマを観ていると生き死にがかかるくらいとことん追い詰められるけど、最近の日本のドラマだと敵対していた人もそこまで闇落ちせずに理解を示してくれるというか。基本的に1時間×10話でストーリーのスピードを重視しているからかもしれませんが、この混乱したご時世だからこそ人と人との絆を信じたいという願いがあるのでしょうか。


横川:『TOKYO MER』(TBS系)など最後はみんな良い人なんだなというのが好まれるんでしょうね。


佐藤:どうしようもない悪が最近出てこないですよね。悪人じゃないようにしておこうという風潮があるのかもしれないな、なんて。


横川:たぶん悪人に対して視聴者がストレスを感じやすくなっているんだと思います。あと、これは穿った見方かもしれませんが、SNSの盛り上がりを作ろうとすると、「悪い人だと思ってたけどやっぱりいい人やった! うぉー!」のような反響とかは話題になりやすいのかなって。起爆剤になりやすいからという背景もあるんでしょうかね。


佐藤:あ、でもそれでいうと『最愛』の昭さん(酒向芳)は最後まで悪でしたね。


横川:むしろ、最終回で1番悪くなった。


佐藤:あのしつこさにも「息子を愛するがゆえにね」って、「この人にも“最愛”があるからだね」って、温情があったのに。最終回であんなこと言ったから「はい、それはもう悪です!」ってなりました(笑)。


横川:殺してもしょうがないと思わせる、加瀬さんを同情させるためだったのかな。しおりはかわいそうじゃない? って思いますもんね。故意ではなかったけど、しおりに関しては、加瀬さんにはちょっと大いに反省してほしい。


佐藤:そうですね。愛ゆえに正義感や社会的な責任感が揺らいでしまうというのが、この作品のキーではありましたが、傍観者としては「なんで最初の事件のときに」と悔やんでしまうというか。引き返しポイントがいくつもあったよ、と。


横川:達雄さん(光石研)が1番ダメじゃない? って思いましたね。親の愛って歪むんだなと。


佐藤:それこそこの『最愛』の物語を、ネット記事のタイトルだけのように表面的に見たら「子供に責任を問わせないどうしようもない親父が2人いたんだな」みたいな感じにはなりますね。


横川:康介は最初から最後まで、きれいに悪だったので良かったです。みんなが、康介に石をぶつけられるから。


佐藤:きっと康介の背景まで描いてしまうとまた別の見方になっちゃうのかもしれないですね。一人ひとりの背景を描きながらも、物語の執着まで視聴者の向く先を誘導していくのは本当に緻密なんだろうなと。新井P自身はインタビューで「あまり誘導しすぎるのもドラマの楽しみ方としては良くないだろう」と言っていたのが印象的でした。観る者を迷わせないストーリーの進め方と、どこからが説明過多なのかという視聴者目線を持っているのって強いですよね。


横川:塚原監督も、3カ月という時間をかけて視聴者と関係性を育むドラマの特性をよくわかって演出されている。お2人はすごくテレビドラマというフォーマットに誇りを持っているというのは感じますね。


佐藤:そもそもドラマ好きな人が作るドラマだから、やっぱりドラマファンに刺さるんでしょうね。「見たいものを作る」の言葉は、作り手として最強だと思います。


■火曜10時枠ドラマ復活への期待


ーーTBSの火曜10時枠のドラマは『婚姻届に判を捺しただけですが』(以下、『ハンオシ』)をはじめどうでしたか?


横川:『ハンオシ』への感想は難しいです。ラブコメはある程度、推しが出ると追加点が5点ぐらい入るので(笑)。でも、火曜10時枠ドラマの限界説はどんどん顕著になってきた気がしますね。


佐藤:最近はどんな「◯◯キュン」でいくか、みたいなところがありますね(笑)。「キュン」って作ろうとするほど難しいというか、不意にくるから「キュン」なのでは、というところも。


横川:梨央(吉高由里子)と大輝(松下洸平)の方がキュンとしますからね。


佐藤:個人的には「キュンさせるぞー」っていう計算が見えてしまうと、ダサピンク現象にも近いお腹いっぱい感が(笑)。


横川:2022年1月クールの岡田惠和さんの『ファイトソング』が、火曜10時の今の流れを断ち切ってくれるか否かに期待しています。『着飾る恋には理由があって』(以下、『着飾る』)もいいドラマだったんですけど、新井Pと塚原監督の割にはわかりやすく接触を入れたり、「キュン」の呪縛が拭いきれなかったところもあるなと思っていて。『義母と娘のブルース』をスペシャルドラマ放送の前に観直していたら本当に面白くて泣けました。竹野内豊さんと綾瀬はるかさんの夫婦模様がすごく良かったので、そのくらいのテンションに戻して、もう少し前の火曜10時枠っぽい雰囲気を復活させてほしい。


佐藤:一時期「壁ドン」とか「顎クイ」とか話題になりすぎたのか、いわゆる少女漫画的なシーンが消費され尽くした感はちょっとありますよね。


横川:そこは私たちメディア側にも反省が必要なところ。〇〇キスとか、1つ1つ名前をつけていく、あの現象はもういらない気がしますよね。


佐藤:これはもう本当に趣味の話になってしまうんですけど、キスできるシチュエーションなのにキスしないみたいな、直接的な愛情表現を避けた間接的に愛しさを感じさせるシーンのほうがキュンとしちゃうところがあって(笑)。『着飾る』のときに葉山(向井理)が泣いている真柴(川口春奈)を人目につかないように壁になってあげた場面が、すごく素敵でした。そういうさりげなさに「そうそうこれがキュンだよ」って画面の前で頷きました。


横川:『着飾る』はそのシーンが一番キュンとしましたね。まあでも、TBSの火曜10時でラブコメをやろうとすると、ある程度わかりやすい「キュン」は求められるのかな。


佐藤:『最愛』でいえば梨央と大輝の手が重なったシーンも、キスがなくて正解でした。


横川:あのシーンは非常に正解でしたね。もともとはキスする予定だったけど、新井Pがキスさせないほうがいいと言ったそうですね。じれったいのが逆にいい、今の世の中の空気感の侘び寂びを新井Pは非常によくお分かりになっていらっしゃる。「こういうのがキュンとするんだろ?」みたいな展開を持ってこられると鼻白んでしまうのが、今のラブコメに感じる個人的な課題。最近の火曜10時は、ピュアという意味ではなく、チープな意味での “『りぼん』感”が拭えないので、もう少し世代感を上げてほしいなと。いつまで『りぼん』をやってんねん! みたいな(笑)。


佐藤:そうですね(笑)。夜10時からのドラマですし、キュンの先を期待しちゃいます。


横川:近年だと俳優さんのファンは楽しめるけど、それ以外は途中離脱する枠になってきてしまっている気がするんです。今や恋愛ドラマはSNS上のいわゆる視聴熱を盛り上げるカンフル剤。各局、世帯視聴率ではなく、コア視聴率と視聴熱を狙って恋愛ドラマを作り続けているんだと思うんですけど。そんな中で10月クールは『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』(日本テレビ系)の方がピュアな意味での“『りぼん』感”があった。作品の完成度も高く、最終回はTwitterで世界トレンド1位も記録しました。『ハンオシ』は視聴率では勝っていましたが、一番得意としていた恋愛ドラマというゾーンで、視聴者を盛り上げるという点で後塵を拝したのはちょっと反省材料なのかなと。


佐藤:なるほど。ただ視聴率は勝っていることを鑑みると「◯◯キュン」を楽しみにしている視聴者もやはりいるということでもあるんですよね。物語が面白ければ演出は気にしない人もいれば、キャストが良ければ物語の展開は気にならない人もいますし。その枠で期待されたドラマが見られるということ。それもまた多様化したテレビドラマの行き着く先ということなのかもしれないですね。


■2022年の現代はドラマでどう描かれる?


ーー1月ドラマは何か気になっているものはありますか?


横川:阿部寛さん主演の日曜劇場『DCU』は観ようかなと思っています。製作費が桁違いな気がしますし、単純に最もゴージャスに作っているからハズレないだろうと。『TOKYO MER』もしっかりできていましたし、TBSは日曜劇場の作品を成功に導くフォーマットを確立できているなと思います。


佐藤:私は『恋せぬふたり』(NHK総合)と『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)が気になっています。『ミステリと言う勿れ』は原作が好きなので、あの世界観をどのように実写化されるのかが楽しみで。そう考えると一時期に比べると、漫画原作は少なくなった気がしますね。


横川:2021年の傾向として『大豆田とわ子と三人の元夫』や『コントが始まる』(日本テレビ系)など、オリジナル作品が好評だった風向きがあったので、もっと作っていこうというノリはあるのかもしれないですね。


佐藤:それと、ファンとして野木さん脚本のドラマがそろそろ観たいところです(笑)。


横川:そうですね。1年以上空いているので。


佐藤:これまで、特に『MIU404』の時にもリアルタイムで時勢ネタを取り入れていたので、今の状況をどう思っているのかオリジナル作品で観たいですね。元の世界には戻らないと思うからそこで何を描くのかと。正義を問うのか、恋愛を描くのか、気になります。


横川:コロナで明らかに現代の人たちの価値観を変容したので、その影響受けて何を作っていくかというのを、この1年は色々な作り手が考えていたんだと思うんです。2021年はその中でも『大豆田とわ子と三人の元夫』がコロナ禍に対するアンサーをドラマで伝えていく、一つのお手本のような作品だったと思います。コロナ禍を通して孤独がすごく打ち出されたからこそ、改めて“1人”というのをどう描いていくか。作品の芯にはコロナがあるけど、世界観としてはコロナは描かずにというのが、テレビドラマの最適解として作られているのを感じました。


佐藤:そうですね。コロナ禍を取り入れていたら『#家族募集します』(TBS系)は成立しないドラマだったですし。ドラマを観る時間くらいは、辛い現実と少しだけ距離を置きたいと感じる人も多いと思います。


横川:あくまで日常の中にある非日常としてドラマを楽しむという意味では、映さなくていい空気感がありますよね。渡辺あやさんの『今ここにある危機とぼくの好感度について』(NHK総合)でもマスクは出てきませんが、コロナ禍以降の世相を映していて非常に面白かったです。作家さんとしては『心の傷を癒すということ』を描かれた桑原亮子さんがとても良い作家になると思うので、民放ドラマを描いて民放を早く変えて欲しいなと期待しています。作品数はまだ少ないですけど、朝ドラ『舞いあがれ!』でNHKの看板を任されていて、NHKが育てる気満々の作家さんなのが伝わります。桑原さんは、非常に社会に密接した作品を描かれる方なので、ぜひ名前を覚えておいて欲しい。


佐藤:現代社会への問題提起が色濃く描かれたドラマだと『アノニマス~警視庁”指殺人”対策室~』(テレビ東京系)が、あのタイミングでSNSによる指殺人を描いたのは、チャレンジングだなと感じました。ただ最近は、もうSNSの炎上やYouTuberによる過熱取材のようなシーンは、むしろすでにSNSのステレオタイプのように見えているような気もしていて。もちろん、いまだに酷い誹謗中傷はあるけど、SNSの世界だってアップデートされている部分もあるのでは? とも思っていて……。


横川:『着飾る』でも特に前半はSNS=ネガティブなものという描き方が強くて、そこは少し古く感じました。今ってもっとみんなナチュラルにSNSを生活に取り入れている気がするので。


佐藤:コロナ禍を反映しない世界だとしても、以前の世界を踏襲しているだけになってしまったら意味がないし、どこまで現実とドラマとを組み合わせていくのかがこれからのドラマ作りの難しいところな気がします。新しい生活様式をどうドラマに反映するのか、そのあたりを野木さんに先頭切ってもらって……って、「安易に言うな」って言われちゃいますかね(笑)。


横川:そうですね。野木さんに背負わせ過ぎてしまうのも……(笑)。すでに野木さんはこういうのをどう描くかみたいなオーダーがたくさん来てそうなので、楽しみに待ちましょう。


(取材・文=大和田茉椰)