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桐谷健太、菅田将暉、池田エライザ……篠原誠に聞く、au「三太郎シリーズ」CM曲に俳優陣を起用した背景

2022年01月09日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

au「三太郎シリーズ」CM

 桃太郎や浦島太郎、金太郎など昔話の主人公をモチーフにしたau「三太郎シリーズ」。キャラクターたちの和やかな会話劇が印象的だが、アーティストのみならず時に俳優陣をも起用するCM曲にも毎回注目が集まっている。中でも桐谷健太扮する浦島太郎「海の声」は、2015年夏にオンエアされ、『第67回NHK紅白歌合戦』に出場するほどの人気に。そこでCMを手がけ、同曲や菅田将暉「見たこともない景色」、親指姫(池田エライザ)「みんなってエブリワン!」などの作詞も担当する篠原誠氏に、起用の背景や俳優陣ならではの歌の魅力などを聞いた。(編集部)


(関連:ボイストレーナーに聞く、俳優ならではの歌の魅力 菅田将暉、松下洸平らに見出す歌詞を重視した表現


■『紅白』出場も果たした「海の声」が生まれるまで


ーー2015年にスタートした「三太郎シリーズ」には松田翔太さん(桃太郎)、桐谷健太さん(浦島太郎) 、濱田岳さん(金太郎)をはじめ、そうそうたる俳優陣が出演していますが、キャスティングの際に意識していることはありますか?


篠原誠(以下、篠原):大前提として、“お芝居が上手い人”ということを大切にしています。昔話を既成概念と捉えるなら、「三太郎」シリーズでは、その既成概念を壊す、ずらすということでCMを企画しています。なので、みんなが思っている桃太郎よりはやんちゃな感じがいいな、浦島太郎はちょっと愚鈍な感じがいいな、金太郎は女々しいところがあったほうがいいななど、一般的なイメージとは違うキャラクター設定にしています。そのキャラクターを演じてもらうときに、誰が一番適任かというところで選んでいきました。


ーー篠原さんが思う“お芝居が上手い人”はどんな人でしょう。


篠原:1つは、その人が本当にいるように見えるかどうか。その人が何かを演じているように見えるというより、そういう人が本当に世の中に存在しているようにみえるかどうかかなと個人的には思っていて。かつ、悪役だろうが、とんでもないクズだろうが、そのキャラクターがどこかチャーミングに見える。そういう人にやっていただけたら嬉しいなと思って、キャスティングをお願いしています。広告なので、たくさんの人が見るし、必ずしも見たくて見るわけではなくて、急に遭遇したりするものなので、その時に「なんか嫌だな」と思われたくない。TVCMは、言ってしまうと勝手に人の家に上がって見せるみたいなメディアなので、どんなキャラクターであれ、最後は少しチャーミングに見えるというのが大事な部分かなと思います。


ーーキャラクターはもちろん、CM曲にも毎回注目が集まっていますが、2015年夏からオンエアされた「海の声」が最初だったかと思います。当時は演技のイメージが強かった桐谷さんに、歌をお願いしようと思ったのはなぜだったのでしょう?


篠原:「三太郎」CMは立ち上げ時からずっと会話劇だったんですね。そろそろ変化球を投げたいなと。ずっとアップテンポな曲をやっていたアーティストが、急にバラードを出すみたいな感じで、会話劇とは少し毛色の違うものがいいなと思っていたタイミングでした。その時のCMのテーマが、“ガラホ”というガラケーとスマホの間のような商品で、音声が良いということを訴求したかった。それなら歌と相性がいいな、と。歌を歌っているだけのシンプルなCMで音声が良いと訴求するのが、変化球としてもいいんじゃないかと思いました。さらにネットで検索していたら、桐谷さんが三線を弾いている動画があったんですね。これは運命だな、と。浦島太郎が浜辺で三線を弾きながら、乙姫への想いを歌うというのが一番いいんじゃないかと考えました。その時もう一つYouTubeで見たのが、桐谷さんが映画か何かの中で歌を歌っているシーンだったんです。もちろんうまいんですけど、それ以上にすごく気持ちが伝わってくる気がして。これはもう歌ってもらうべくして、“浦ちゃん”が桐谷さんだったんじゃないかと思うくらい、「これしかない」と感じました。プレゼンの時、普段は複数案を出すんですけど、その時は1案で「これしかない」という感じで提案しました。個人的にBEGINさんの「島人ぬ宝」という曲が好きで、三線で「島人ぬ宝」みたいな曲調で、ラブソングの歌詞を歌っているといいなと思っていたので、「島人ぬ宝」の替え歌ではじめは歌詞を考えました。なので実は「海の声」の歌詞は、1番くらいまでは「島人ぬ宝」のメロディでも歌えるんですよ。当時BEGINさんにもし作曲してもらえたら、こんなに幸せなことはないなと思って、ダメ元でお願いしたら、時間がない中だったんですが、なんと引き受けていただけて。そこから「海の声」が生まれました。


■菅田将暉や池田エライザの起用理由


――「海の声」もそうですが、菅田将暉さんの「見たこともない景色」、池田エライザさんの「みんなってエブリワン!」など、篠原さんの歌詞はCMのストーリーに寄り添いながらも、普遍的なものになっていると感じます。どういうところからインスピレーションを受けているのでしょうか?


篠原:「海の声」は、自分が浦島太郎だったら、どういう気持ちを乙姫に対して歌うだろうかということを想像して書きました。なので〈僕がおじいさんになっても〉という歌詞があったり、通信がなかった時代には人は自然の音の中に、相手の声を探したりしたんじゃないだろうかと思って歌詞を書きました。基本的には、毎回テーマを考えて、そのテーマをもとに、歌詞を考えています。ただ、僕は広告屋であって、作詞家ではないので、少し広告などの“コピー”に近いというか。何が違うかというと、わかる人にわかればいいというより、なるべくたくさんの人に理解されるよう、わかりやすく平易にしたり、あまり尖った言葉や、もしかしたら一部の人が傷つくかもしれないという言葉の使い方はなるべくしないようにしています。なので、基本的にポジティブな歌詞になります。あくまで広告なので、なるべくたくさんの人に、少しでも共感してもらえるものになればいいなと思って書いています。


――「海の声」は結果的に多くの人の共感を得ることになったかと思いますが、オンエア後に周囲からどのような反響がありましたか? ヒットした実感があったのはどのタイミングだったのでしょう。


篠原:コマーシャルで曲を書いたのが初めてだったので、こんなにヒットすることがあるんだと驚きました。でも、一番「ヒットしたんだな」と思ったのは、『紅白歌合戦』に出たことですね。「『紅白』に出るんです」と言われたときに、すごいな、こんなことあるんだなと。コマーシャル用に作った、一般に売り出すつもりでもなかったものが、CMとは関係なく、人に喜ばれたり聴かれたりするのは嬉しかったし、びっくりしましたね。


――桐谷さんの後には同じく俳優としても活動する菅田将暉さんや池田エライザさんもCM曲を担当していますが、お二人を起用しようとしたきっかけは?


篠原:年末のCMスタッフの打ち上げに菅田さんと桐谷さんが来てくれた時があって。その時に桐谷さんが歌って、菅田さんがギターを弾いてくれたんですね。それで「菅田さんってギターが好きなんだな」と思って。撮影現場でも「浦ちゃんいいな、俺もああいう曲歌いたいな」とおっしゃっていた記憶があって、だったら歌ってもらったほうがいいなと(笑)。エライザさんは、YouTubeとかを見ていてすごく歌がうまくて。せっかくだったら歌ってもらえないかということで、お正月バージョンで歌っていただきました。


――では最後に、桐谷さん、菅田さん、池田さんのように俳優としても活動する方々に共通する歌の魅力を教えてください。


篠原:お芝居をされる方が歌うと、歌詞への気持ちののせ方が心地良いということと、エモーショナルな感じがする気がして。逆に、CMの締めのナレーションを、そういう気持ちをのせるのが上手なアーティストの方にお願いするときがあるんですが、歌を歌う気持ちでナレーションを読んでもらうと、普通のものよりもエモーショナルになったりするんですね。同じように、俳優の方が歌うと歌が上手い/下手ではなくて、気持ちがより伝わること、共感されることがあるんじゃないかなと。歌を聴いていて、うまいんだけど、うまいな、と思うだけで終わっちゃう人もいるじゃないですか。反対に、めちゃくちゃうまいわけではないんだけど、何となく聞き入ってしまう人もいますよね。俳優業をされている方が歌うことによって、より気持ちが世の中の人に届く可能性があるんじゃないかなと思います。歌は歌でも、詞に若干近いというか。詞の朗読にメロディが乗っている感じ。じゃないかもしれませんが(笑)。(リアルサウンド編集部)