2022年01月09日 07:51 弁護士ドットコム
2021年に約2兆3300億円という、過去最高の売り上げを記録した「ボートレース(競艇)」。全国に24カ所ある競艇場の多くが、所在地の自治体中心の施行(主催)で開催される中、東京3場の競艇場(平和島、多摩川、江戸川)と、大阪の住之江競艇場だけは、なぜか地元自治体が施行者に名を連ねていない(県が施行者のびわこ競艇はのぞく)。
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たとえば、多摩川競艇場は府中市にあるが、施行するのは青梅市など。一方、府中市は域内に多摩川競艇場があるのに、23区内にある平和島競艇場(大田区)の施行者となっている。
競艇ファンに限らず、それを知れば誰もが不思議に思う、「地元自治体が施行者に入っていない珍現象」を、競艇の歴史とともに振り返ってみた。(執筆家・山田準)
公営競技(競馬、競艇、競輪、オートレース)の中でも、馬と人気を二分する競艇。今の若い人にはボートレースと言ったほうがピンとくるかもしれない。
1951年(昭和26年)に成立した「モーターボート競走法」に基づいて実施されている競艇の売り上げが、昨2021年に過去最高を記録した。
今年元旦に日本モーターボート競走会が発表した2021年次(令和3年1月1日~12月31日)の売上額はなんと2兆3301億8782万3700円(前年比122・5%)。過去最高だった1991年(平成3年)の約2兆2200億円を抜く、競艇史上最高額だ。
最大の要因はコロナ禍によるネット投票の躍進だが、ナイターレースの活況(8大会あるSGレースの売り上げベスト3がナイター開催)、女子戦の人気(5大会あるプレミアムG1の1、2位が女子戦)など、主催者側の自助努力も見逃せない。
ちなみに、JRA(中央競馬)の2021年の売り上げは3兆911億1202万5800円で、競艇は競馬と並ぶ人気公営ギャンブルに定着している。
競艇場は、北は群馬県の桐生から、南は長崎県の大村まで、全国に24場あるが、地元自治体が施行(主催)に絡んでいないレアケースは4場ある。東京都にある平和島競艇、多摩川競艇、江戸川競艇と、大阪府の住之江競艇で、構成市町村は以下の通りになっている(全国モーターボート競走施行者協議会HPより)。
◆平和島競艇(@東京都大田区)
・「府中市」
◆多摩川競艇(@同府中市)
・「青梅市」
・「東京都四市競艇事業組合」(小平市、日野市、東村山市、国分寺市)
◆江戸川競艇(@同江戸川区)
・「東京都六市競艇事業組合」(八王子市、武蔵野市、調布市、昭島市、町田市、小金井市)
・「東京都三市収益事業組合」(多摩市、稲城市、あきる野市)
◆住之江競艇(@大阪市住之江区)
・「大阪府都市競艇企業団」(堺市、岸和田市など16市)
・「箕面市」
全国24の競艇場は、県(びわこ競艇場のみ)、市、特別地方公共団体など、計35の施行者で構成されているが、上記4場は、開催自治体が施行に絡んでいない(日本モーターボート競走会HPより)。
もう70年近くも前の話で、詳細な経緯は不明だが、関係者への取材、及び関係団体のHPなどを見ると、おおまかな経緯は以下のようになる。
1954年6月に初開催された多摩川競艇の場合は、府中市の前身である一部自治体の反対運動もあり、地元は施行者に名乗りを上げなかったという。地元の東京府中ロータリークラブのOBは「地元でやるのはどうかという声があって、結局、地元は(施行者に)手を上げなかった」と振り返る。
その結果、青梅市が施行者となり、1976年には東京都四市競艇事業組合も加わり、2施行者制(開催ごとに交互に施行を交替)で現在に至っている。
一方、「都営」として1954年にスタートした大森競艇(現・平和島競艇)は、売り上げ不振のため、約1年で都が撤退。地元の多摩川競艇の施行は断念した現・府中市が、財政確保の声も追い風に、今度は平和島の施行に名乗りを上げ(一部に都側が府中市に依頼したという説もあり)、1955年9月に初開催にこぎつけた。
一時、1960年~2004年までは、相模湖モーターボート競走組合との2施行者制で開催してきたが、2004年に同組合が撤退以降は、府中市が“東のメッカ”と言われる平和島競艇を単独で開催している。
江戸川競艇は、大森競艇から撤退した都が、初開催の1955年8月から施行者として主催。美濃部都政による都の公営ギャンブルからの撤退以降は、東京都六市競艇事業組合の単独開催となり、1973年には東京都三市収益事業組合も施行に加わり、2施行者制で現在に至っている。
また、“西のメッカ”と呼ばれる住之江競艇は、競艇草創期の政治的な事情で、開催地の大阪市ではなく、大阪府都市競艇企業団(1952年~)と箕面市(1956年~)が施行者に。大阪市は今もって施行者に名を連ねていない。
このように、競艇の草創期だった1950年代は、時代背景や複雑な政治的事情も相まって、一部競艇場では、開催地の自治体が施行に入らないという珍現象が起こったと言える。
公営競技はギャンブルという一面がある以上、賛否両論が出るのは仕方ないことだが、各業界の努力もあって、草創期に比べ、飛躍的にイメージや認知度は向上している。そして何より、公営競技の収益金が、社会福祉や公共事業に貢献してきた事実は否定できない。
施行者の収益金は、舟券の総売り上げの25%(75%は払戻金)から、「法定交納付金」と「開催経費」を差し引いた残額で、総売り上げの10%前後が施行者の収益となる。
競艇で言えば、1952年4月に長崎県の大村競艇で初開催されて以来、2020年度までの累計拠出額をみると、施行者の一般会計分は約4兆381億円になる。
各施行者の一般会計に組み込まれた競艇収益は、土木費、教育費、保健衛生費、公営住宅費などに使われ、また売上金の約2・7%が交付される日本財団(累計分配額は約2兆2262億円)も、ハンセン病の撲滅など社会福祉、慈善事業に寄与していることはよく知られるところだろう。
ほかにも、日本万博、愛知万博などの各万博への協賛拠出や、阪神・淡路大震災、東日本大震災での支援など、競艇の収益金は社会に役立つ形で還元されている。
たとえば、地元にある多摩川競艇でなく、30キロ以上も離れた大田区の平和島競艇の施行者になっている府中市でも、競艇の収益金は貴重な財源となっている。
府中市が1955年9月に平和島競艇を初開催して以降、令和2年度末現在の競艇事業の累計収益は約2884億円。ピークはバブル期の平成2年度で、168億円もの実収入があったという(府中市のHPより)。
現在の実収入は30~40億円のようだが、いずれにしても、市営住宅や下水道の建設をはじめ、近年では芸術劇場や生涯学習センターなどの建設にも競艇収益が寄与しており、府中市にもたらした財政的メリットは大きい。
府中市内で商店を営む80代男性は「府中市内に多くの建物が建つなど、平和島の競艇収益が財政的に大きく貢献しているのは事実。多摩川競艇に代わる形で、平和島競艇の施行権を得たことは、個人的には正解だったと思っています」と話していた。