2022年01月05日 15:01 弁護士ドットコム
コロナ禍で2度目の年越しとなった2021年12月31日の大晦日夜。感染対策に気を配りながら、各地でイベントが開かれた。性的少数者や女装愛好家らが集まる東京・新宿二丁目も、コロナ前は賑わった場所の一つ。「みんなの実家」をうたう女装サロンバーを訪問して、「自分を出せる場所」を求める人たちの話を聞いた。(ジャーナリスト・富岡悠希)
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午後10時半過ぎ、地下鉄の新宿三丁目駅で下車して、北東の出口に向かう。地上にあがると、そこはもう二丁目エリアだ。冷気がマスク上の目元にぶつかってくる。手元のスマホを見ると、気温1度だった。
花園通りを東に歩くと、歓声が聞こえてきた。バー前に数十人の人だかりがある。「2022 HAPPY NEW YEAR」とある飾りつけの前で、全身金色姿と赤髪の2人がダンスを披露していた。
少し先の蕎麦屋前には、年越しそばを求めて十数人ほどが行列を作っていた。
二丁目エリアの大部分をグルグルと歩いてみたが、店先まで人があふれていたのは、先のバーと蕎麦屋の2カ所のみ。
外から覗ける1階店舗には客がいるが、カウンターやテーブルでおさまっている。
筆者はコロナ前にも、二丁目の年越しを取材に来たことがある。そのときは、アルコールを手にした客が多数、店から外にあふれ出ていた。コロナ前のため皆マスクなし。真冬の寒さをものともせず、笑顔で歓談する姿が記憶にある。
コロナ禍の年越しを実感しながら、午後11時前に目的の雑居ビルについた。エレベーターボタンを押して、4階に向かう。
「いらっしゃいませ~」
到着してドアを開けたとたん、元気な声が飛んできた。取材予定の女装サロンバー「女の子クラブ」のスタッフだ。親しみやすい笑顔で迎えてくれた。
店内に入ると、ピンクのソファが配置された奥には、紅白の垂れ幕がある。お正月気分が演出された中で、マスク姿の客たちがお酒や談笑を楽しんでいた。
女の子クラブは、2012年に開業。誰でも女装用の服に着替えて酒が飲める店で、コスプレ衣装やメイク道具も完備している。「女装のアイコン」的な店舗だ。
関西地方から来店したマヤさん(仮名・30代)も、「女装していても気にならない場所」を求めてやって来た。この日は、黒いブーツにスカート姿。実家暮らしのため、普段はトランクルームに女装用の衣装を隠してある。
コロナが流行る直前に一度足を運んで気に入ったが、この2年は自粛していた。12月下旬に再訪し、改めて居心地の良さを感じた。
「普通のバーだと偏見の目に晒されるけど、ここはそうじゃないのがいい」
同じくコロナ前から通う朝〆レバ子さん(仮名・50歳)も、「女の子クラブ」に居心地の良さを感じている。ウイッグ風の銀色に染めた髪の毛と、スラっとした長身で、店内で目立っていた。
4年ほど前、店のスタッフと偶然知り合い、それを契機として5、6年ほど封印していた女装を復活させて、常連客となった。
「スタッフ、お客さん同士がすごく社交的。『バケモノ枠』のこんな私でも、温かく迎え入れてくれる」
店が臨時休業中は、海外サイトで女装用の洋服を購入して気を紛らわせていたが、やはり来店できるのはうれしいという。今は一人暮らしをしており、今回はここでの年越しを選んだ。
コロナの流行は、ほかの飲食店同様に、女の子クラブの経営にも大きな影響を与えた。女の子クラブには、姉妹店として、同じ雑居ビル2階にジェンダーフリーバー「フリーメゾン」がある。
飲食店への休業要請などの影響を受けた2020年春、クラウドファンディングで、2店舗への支援を募った。「いつでも帰れるみんなの実家 女の子クラブを守ろうプロジェクト」は、243人の支援者から総額約244万円を集めた。
クラファンサイトには、「また時間みつけてパワーもらいに行きますね」など、支援者のコメントが残っている。いかにお店が愛されているかわかる。
マヤさんと朝〆さんに話を聞いていると、2021年が残り10分になった。
店から振舞われた乾杯用のシャンパンが客に配られ始めた。準備が終わると、テレビ画面の表示に合わせて、カウントダウンが始まる。「サン、ニイ、イチ」に続き、「おめでとう!」の声が響いて、客たちが乾杯し合った。
その後、すかさず日本酒の鏡開きに移る。スタッフが木槌を持って、たる酒に「せーの」と振り下ろすと、周囲に派手に日本酒が飛び散った。「キャー」という悲鳴がおさまると、薫り高い日本酒が振舞われた。
店内のボルテージが最高潮に達する中、アキさん(仮名・22歳・大学生)に話を聞いた。
アキさんは戸籍上は男性だが、性別に違和感を抱き、女性への性別変更を考えている。女性ホルモンの摂取はすでに始めており、将来は手術も視野に入れる。
女の子クラブには2カ月ほど前に初来店し、すっかり気に入ったという。
「みんなが自分自身をきちんと見てくれるから、自分を出せる場所にできる」
大学では共用トイレを使用。就職活動では、性的少数者に理解ある職場を探している最中だ。
外では理解を得られている部分がある一方、性別変更の話は両親には打ち明けていない。
「自分はこういうものだと受けいれられつつあるので、自分のスピードで進めていけばいいかなと」
こう打ち明けた口調には、強い覚悟が感じられた。
同じく性自認に迷いを抱えている会社員のヤスさん(24歳)も取材に応じた。来店は3回目。関西方面にある実家への帰省でなく、二丁目で年末を過ごすと決めた。
口紅、アイシャドーを施したヤスさんの姿は、かなり中性的。ヤスさん自身の認識は「体は男性だけど、心は男性と女性との真ん中ぐらい」。恋愛では、男女どちらも対象になる。
アキさんと同じく、自分のアイデンティティーを家族には、はっきりと打ち明けていない。
その分なのだろうか。女の子クラブは「居心地がよく、実家みたいな感じ」だと語った。
1月1日午前1時半、店のスタッフと客25人ほどが初詣に向かった。目的地は歩いて10分ほどの所にある「花園神社」だ。
気温はさらに低下して、零度ぴったりに。「寒い、寒い」とつぶやく一行は肩を寄せ合うようにして歩いた。
入口に着くと、みんなで記念写真におさまる。その姿は実に和気あいあい、ほのぼのした様子だった。
新宿二丁目全体では、集まった人の数はコロナ前に比べると、かなり少ないに違いない。
それでも、その年越しには、コロナ前と変わらぬ連帯感があった。