2022年01月05日 12:11 弁護士ドットコム
一流シェフがコンビニの人気商品をジャッジするという正月のテレビ番組で、審査員だったシェフのひとりが、ファミリーマートの「和風ツナマヨおにぎり」の見た目を酷評し、試食拒否したことがネットで批判を浴びている。
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このシェフの店のレビューが荒らされるだけでなく、同姓の別のシェフにも中傷コメントが寄せられ、番組が迷惑行為をやめるよう呼びかけるなど、波紋が広がっている。
番組を盛り上げるための演出などの可能性もある中、テレビ局ではなく、出演者本人、あまつさえ名前が似ているだけの他人に、怒りの言葉を直接投げつけることに問題はないのだろうか。
物議を醸しているのは、1月1日に放送されたTBS系「ジョブチューン ~アノ職業のヒミツぶっちゃけます!」のスペシャル番組だ。
シェフのひとりがファミマの「直巻 和風ツナマヨネーズ」について、「(ビジュアルが)食べたいなって気にさせない」などと発言して試食を拒否。最終的には一口食べたものの「不合格」をつけた。全体では合格が1票、不合格が2票だった。
ファミマの開発担当者が涙ぐむ姿が映し出されたこともあり、放送直後からこのシェフの店のレビューやYouTubeのコメント欄などが荒れ模様となった。
事態はそれだけにとどまらず、同姓の別のシェフの店にもレビューの低評価などの被害が出ているという。
「炎上」したときに、まったく無関係の人に電話などをかけてしまう「誤爆」は度々問題になっている。
たとえば、2021年5月に殺人事件の被疑者として埼玉県三郷市の男性が逮捕されたとき、社長が被疑者と同姓である同じ市内の建設会社が、誹謗中傷の被害にあっていることをHPで公表した。実際には無関係なのに、ネットでは親戚であるとの情報が流れていた。
また、同年6月に千葉県八街市で起きた小学生5人が死傷する事故でも、トラック運転手の勤務先と「一文字違い」の会社にクレーム電話が殺到している。
抗議の電話やレビューの低評価、特にそれが誤った相手であるときは、法的にどのように評価できるのだろうか。ネット中傷にくわしい清水陽平弁護士に聞いた。
――そもそも店のレビュー欄に、味などとは関係ない批判コメントを書いても良いのでしょうか?
「レビューの使い方は本来的には店などの評価になるのでしょうが、それだけしか書けないというわけではないことは多いです。そのため、サイト側の定める基準に沿っていないといったことで削除されることはあるかもしれませんが、店の評価以外のことが書かれているからといって、それだけで直ちに問題になるわけではありません。
もっとも、単なる中傷といえるものや人格攻撃にわたるような投稿については、名誉毀損や名誉感情侵害、侮辱などと評価されることはあり得ます。
何が違法になるかは実際の投稿内容次第であり、これが書いてあれば違法、といったものではないので個別判断になってきます」
――抗議電話はどうでしょうか?
「抗議電話をかけるようなことは、一人が複数回の電話をしているケースであれば業務妨害といえるケースが出てくると思いますが、一回だけかけるようなものであれば、それをもって業務妨害罪としていくことは実務上難しいといえます」
――最近では「誤爆」が相次いでいます
「『誤爆』だった場合、誤って攻撃された側は、問題行動をとった者だと認識されてしまうことになります。
そのため、名誉毀損や業務妨害といえる場合が多いであろうと思われます。実際に違法と言えるかどうかは内容次第ではあるものの、刑事告訴をしたり、投稿者の特定ができれば民事責任(損害賠償)を請求するなどできます」
「しかしそもそも、自分が不満に思ったからといって、それを直接的に攻撃していく風潮自体が問題であると思います。
『テラスハウス』では、それが原因で死者まで出たわけで、その直後は『誹謗中傷はけしからん』といった空気が醸成されていましたが、少し時間が経った今、その空気はすっかり消えてしまいました。
世間が過去の問題から何も学んでいないということが非常に残念に思います」
【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省が主催する「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の構成員となっている。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第3版(弘文堂)」などがある。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp