2022年01月05日 10:21 弁護士ドットコム
夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。
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「結婚した夫婦が絶対にやってはいけないこと」連載の第3回は「ローンのボーナス払い」です。中村弁護士は「ボーナスは、決して支払いが保証されているものではありません。いつ下げられてもおかしくないものです」と警鐘をならします。
前回と前々回、「結婚した夫婦が絶対にやってはいけないこと」として、「義父母の土地の上に家を建てる」「不動産を共有で買う」というのをご紹介しました。今回は、その第3弾です。
結婚した夫婦が絶対にやってはいけないことその3として、「ローンのボーナス払い」があります。
ボーナス払いは、ボーナス時に多めにローンの返済をすることによって、月々の支払いを軽減させることができます。そのため、月々の支払いを抑えて、ある程度高額なものを買うことができます。住宅ローンや自動車ローンのほか、ある程度高額な商品を購入する場合に、オプションとして設定することができることがあります。
一見、月々の支払いを抑えて高額なものが買えるということで、いいことのように思えます。しかし、これを行うことによって、後々身動きが取れなくなってしまう可能性があるのです。
ボーナス(賞与)は、支給されるところでは、年に2~3回支払われることが多いと思います。ボーナスは、月額給与とは別に支払われ、しかも、給与の数カ月分ということもあるため、まとまったお金が入り、気が大きくなりがちです。
しかし、ボーナスは、決して支払いが保証されているものではありません。いつ下げられても、場合によっては支給されないことがあってもおかしくないものです。
会社として、毎月支払う給与(賃金)を下げることは法律上かなりハードルが高く、下げられるケースは多くはありませんし、下がったとしても大幅な金額を下げられること(例えば、半減するなど)はほとんどありません。
ところが、ボーナスは、業績と連動する、成績評価により大幅に変動するという制度を取っている会社が多く、前年から半減したということが時々あるのです。
最近では、新型コロナウイルスが感染拡大したことにより、極度に業績が悪化した会社が続出しました。その結果、ボーナスが大幅に削減されたり、支給されなかったりする人が多数出てしまったのです。
ボーナスが支給されなかったとしても、ボーナス払いが免除されるわけではありません。特に、今までボーナスがかなり多額だった人ほど、高額なボーナス払いを設定しており、そのために支払いができなくなるケースがたくさん発生しました。
「新型コロナウイルスの感染拡大のようなことなんて、そうそう起きるものじゃない」とお考えの方もいるかもしれません。
しかし、ここ20年ほどを見ても、アメリカ同時多発テロ(2001年)、リーマンショック(2008年)、東日本大震災(2011年)、新型コロナウイルス感染拡大(2020年)と、数年に1度の割合で、信じられないような出来事が起きています。
1~2年程度の短期間の支払いならともかく、5年、10年、30年といった、長期の分割払いで、何も起きないとどうしていえましょうか。その他、自身の勤務先の業績悪化なども含めたら、ボーナスが激減する可能性は結構高いと考えた方がいいと思います。
さらに、仮に夫婦関係が悪化して別居してしまった場合、収入が多い方は少ない方に対し、「婚姻費用」という生活費を支払う必要があります。
この婚姻費用の算定は、裁判所が出している「養育費・婚姻費用算定表」を用いて計算されるケースがほとんどですが、この算定表は、「年収」をベースに計算することになっています。すなわち、月額給与の額ではなく、ボーナスも含めた年収ベースで算定されるのです。
例えば、一方が年収(給与収入)800万円、他方が年収(給与収入)200万円、14歳未満の子どもが2人という設定で考えてみましょう。このときの上記算定表から算出される婚姻費用は16~18万円(離婚した後の養育費は10~12万円)になります。これだけ見ると払えそうに見えるでしょう。
しかし、実際には、月額給与はかなり減っていることも少なくありません。例えば、年収800万円のうち、月額給与は50万円×12か月、ボーナスが夏・冬各2か月分の100万円ずつ(計200万円)というケースで考えてみましょう。
月額給与が50万円の場合、税金や社会保険料等が差し引かれた後の手取り金額は、様々な条件により変わるものの、おおむね40万円前後になってしまいます。その上、住宅ローンで月10万円、自動車ローンで月5万円を支払うと、残りは25万円になります。
その中から婚姻費用として16~18万円を払うと、残りは7~9万円しかありません。自分が住宅ローンを支払っている家に住んでいるのであればまだいいですが、自分が家を出て賃貸マンションなどを借りた場合は、全く生活費として足りなくなります。
自分が住宅ローンを負担している家に相手が住んでいる場合は、若干婚姻費用の額は下がりますが、住宅ローン支払分が全て婚姻費用に充当されるわけではないので、実質的に「二重払い」に近い状況になります。
このような赤字を補填するのがボーナスなのです。年収のうちボーナスが占める割合が高い人ほど、毎月は赤字になり、ボーナスで赤字を補填しているのが現状です。しかし、ボーナス払いが設定されていると、この補填もできなくなってしまいます。そのような状況に陥って、家計が火の車になっている方をたくさん見てきました。
その上、子どもが私立学校などに通っていると、さらに婚姻費用が増額されてしまう可能性もあります。そうなると、最悪子どもが学校を辞めざるを得ない状況に追い込まれるかもしれません。
上記のような状況を解消するため、自宅や自動車などを売却してローンをなくしてしまう方法も考えられます。しかし、これができるのは、基本的に自宅や自動車を売却した際の価値が、ローン残額を上回っている場合のみです。
戸建住宅の場合は、少なくとも建物価格は下落していくことが多いですし、自動車も新車から中古になれば価値はガクッと落ちます。そのため、いわゆるオーバーローンになっているケースも少なくありません。
そうなると、売却してもローンを完済することもできず、上記のような赤字の生活が続くことになってしまうのです。
ボーナス払いは、月々の支払額が減るので、支払いが楽になったように見えますが、ボーナスが大幅に下がったときに一気に苦しくなります。ボーナス払いを設定しないと月々支払えないというようなものは、そもそも自分の支払能力を超えていることが多く、本当にそれを買うべきか否かを改めて考え直した方がいいと思います。
「ボーナスはもらえたらラッキー」くらいの気持ちで、ローンの返済の計画に組み込むことはやめ、余裕を持った返済計画を立てて下さい。
(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)
【取材協力弁護士】
中村 剛(なかむら・たけし)弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URL:https://naka-lo.com/