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どうしてそんなことを!? 『ガラスの仮面』桜小路優の予想を超えた行動3選

2022年01月03日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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※本稿は『ガラスの仮面』の内容に触れている箇所がございます。未読の方はご注意ください。


 『ガラスの仮面』(美内すずえ/白泉社)の主人公・北島マヤはモテる。今までマヤのことを好きになった男性は四人、全員美形だ。その中でも全編に渡ってマヤを想い続けているのが、「紫のバラの人」こと速水真澄、そして若手俳優の桜小路優である。『ガラスの仮面』後半の見どころのひとつはこの三人の三角関係だ。


 速水真澄がよくマヤの行動や言動に衝撃を受けて白目になるのは知られているが、桜小路も負けてはいない。序盤はマヤのさわやかなボーイフレンドだったが、時が経つにつれてマヤへの恋心が押さえきれなくなり、予想外の行動をとるのである。


参考:エピソードが収録されたコミックの表紙一覧


■「ぼくはヒースクリフなんかじゃない!」(7巻)


 本作の前半、マヤと桜小路の関係を表すためによく出てきたのが「ボーイフレンド」という言葉だ。これはマヤにとっては、親しい男友達という意味しか持っていなかった。しかし、桜小路は出会ったときから恋愛対象としてマヤを見ていた。


 二つ年上の俳優で、マヤが悩んだときはやさしく励ましてくれる桜小路。彼はどの異性よりもマヤに近い存在だった。


 ところが成長するにつれて彼も変化する。


 舞台『嵐が丘』で少女時代のキャサリンにキャスティングされたマヤは、稽古のために桜小路に相手役・ヒースクリフの台詞を読んでもらう。いつものようにキャサリンに憑依し、真剣に相手役を見つめるマヤ。桜小路はショックを受けて「ぼくはヒースクリフなんかじゃない!」と逃げ出す。


 桜小路はこのあたりから情緒不安定になっていくのだが、おかしな点がある。


 彼は演劇に携わっていない一般人ではなく、俳優だ。マヤの恋する姿が演技にすぎないことはわかっていて当然である。それなのになぜそのような行動に出たのだろうか。


 稽古につきあってくれていると思っていたのに、急に逃げ出されたら、マヤでなくても戸惑ってしまうだろう。


■マヤの初恋の相手・里美茂に怒る(21巻)


 マヤがテレビドラマで一躍有名になったとき、初恋宣言をした相手がいた。青春スターの里美茂である。


 だが二人の交際は長く続かない。マヤを陥れようとする少女の陰謀によってマヤが芸能界を追放された後、自然消滅する。


 月日が経ってから、あるパーティーで桜小路は里美と偶然会う。マヤとの別れ以来、明るさを失った里美茂に、突然桜小路は話しかける。二人が会話をするのは初めてだ。


 前提として思い出して欲しいのが、このときの桜小路は、だいぶ前にマヤに告白して失恋し、マヤから離れていることだ。麻生舞という彼女もいる。


 声をかけられて「きみは?」といぶかしむ里美に桜小路はマヤとのことを聞く。里美が失礼だと怒るのも当然である。


 そのうえ桜小路は、マヤに会わせてもらえないまま外国での仕事が入り、帰った頃には行方すらわからなくなっていた、諦めるしかなかったと嘆く里美を「ぼくがあなたならそんなことで諦めたりはしなかった」と責める。


 両想いではなかったとはいえ、桜小路も一度マヤから離れている。それを踏まえると客観性に欠けた言い草である。桜小路は続ける。


“ぼくはいつかあなた以上の役者になりたいと思っています!
あなたの2倍も3倍も大きな役者に…!”


 言いたいことだけ言って背を向ける。向かう先には彼女の舞がいた。


 いきなり役者の話になるのも、里美からするとわけがわからないだろう。何より里美は悪役ではなく、むしろ被害者側の人間だ。


 物語の展開としては、里美をこの後登場させず、「マヤを想い、速水真澄の恋のライバルになれるのは桜小路だけだ」と読者に思ってもらうためのワンシーンだとわかる。


 だが里美にとっては初対面の人間にそこまで言われる筋合いはない。


■マヤを連れ出しお揃いのペンダントを買う(42巻)


 ところで桜小路の彼女・麻生舞は、この後も長く本作に登場する。マヤに初めて会ったときから彼女を敵視し、わがままな妹キャラで、舞のことが苦手な『ガラスの仮面』ファンも多い。


 だが桜小路が「恋人」として舞を扱っている場面はそんなになく、むしろ『忘れられた荒野』でマヤの相手役にキャスティングされてからは、心が完全にマヤに戻り、舞のことを忘れ去っている場面も多々ある。


 きわめつけが『紅天女』試演に向けての稽古の頃のエピソードだ。桜小路は、あることで落ち込んでいるマヤを遊園地に連れ出し、イルカのペンダントをプレゼントし、ペアのペンダントがあると聞いて自分で買う。


 有頂天になる桜小路に、マヤは「舞さんに悪いから」とペンダントを返そうとする。そこでようやく桜小路は舞の存在を思い出すのである。だが、それは桜小路の気持ちは「もうマヤしか見えない」状態である。


 舞という存在は、桜小路のマヤへの想いの強さを測る存在として機能している。彼女は桜小路本人よりも敏感にそれを感じ取る。


 いったん思い出したものの、舞のことはすぐに桜小路の頭から消える。うまくマヤを言いくるめてペンダントをつけてもらうことに成功し、直後に、『ガラスの仮面』ファンの中では有名な「ガラケーの画面に映るマヤの写真にキス事件」も発生する。


 速水だけではなく、桜小路もマヤによってどんどんと常軌を逸していくのだ。


■天然の小悪魔・マヤに振り回される桜小路優


 マヤは、自然に発した言葉や行動で、無意識のうちに男を翻弄する小悪魔タイプの女性だ。


 序盤の桜小路優はさわやかで明るい少年だった。だがマヤに出会い運命が変わる。速水と同様に、マヤを想うあまり、時に予想外の行動をする男になってしまったのだ。


 現在、桜小路は舞と別れ、マヤに対して「待つ男」状態である。


 最後にマヤが結ばれるのは速水か桜小路か、それともどちらとも結ばれないのか…その結末を早く見たいと願うばかりである。