1980年代の喫煙状況を調べていくと、今とは隔世の感がある。電車内など、今ではとっくに禁煙となった場所で、人々がタバコを吸っている。
愛煙家は「職場」でも、派手にスパスパやっていた。1985年5月には、東京都人事委員会が、他の人の喫煙によって喉が痛くなるとして職場内での喫煙の制限を求めていた職員の申し立てを認め、是正措置を出していた。(文・昼間たかし)
実験室でも喫煙OK?
ちょっと驚くのは、この職場というのが「都立衛生研究所」だということ。現在の東京都健康安全研究センターで、ようは「東京都の保健衛生の拠点」なのである。そこの職場に、職員が喉を痛めるほどの副流煙が蔓延しているのだから、開いた口がふさがらない。
朝日新聞によると、「人事委は研究所内の浮遊粉じん量や炭酸ガスなどを調べ、多くの人がたばこを吸うと、労働省令で定める基準を上回ることを認めた」とのことで、つまり、職場に国の基準を超える範囲の紫煙が充満していたのである。
しかも、こんな状況下でやっと「実験室、図書閲覧室」が禁煙になったが、「事務室や研究室」は「換気を強化」すれば喫煙OKのまま放置された。
もはや異世界である。
職場で喫煙は当たり前だった
実際、1980年代「職場で煙草」は当たり前であった。1987年の調査では「従業員の喫煙を制限していない」企業が42.9%もあった。当時、オフィスを全面禁煙にしている企業はわずか17.1%。この頃「アメリカでは厳しい禁煙令が始まっている」というニュースがたびたび報じられていたが、あくまで遠い外国の話だったのである。
この後、企業では禁煙の風潮が伸長していくが、その理由はどうもOA化の進展にあったようだ。「煙草の煙でパソコンが壊れては大変」というわけである。人間よりパソコンだったのか?
それにしても、みんな煙草を吸いすぎだろう。今でいうと、ずっと喫煙室で生活するイメージだろうか……。さすがにご勘弁願いたい。