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『呪術廻戦』0巻ーー乙骨憂太の“先祖”が物語を動かす可能性 8つの仮説から考察

2022年01月01日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校』

※本稿には、『呪術廻戦』(芥見下々)0巻およびシリーズ本編の内容について触れている箇所がございます。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)


 現在公開中の映画、『劇場版 呪術廻戦 0』が話題を集めている。


 原作は、2017年、『東京都立呪術高等専門学校』のタイトルで、「週刊少年ジャンプ」増刊号(「ジャンプGIGA」)にて連載された、『呪術廻戦』本編の前日譚(全4話。2018年に単行本化された際に、『呪術廻戦 0 ―東京都立呪術高等専門学校―』というタイトルに改名された)。


 なお、単行本に掲載されている芥見下々の「あとがき」によると、もともと作者としては、この物語の週刊連載化(長編化)は想定していなかったそうだが、いま改めて読み返してみると、(もちろん独立した全4話の物語としてもよくまとまっているのだが)後に始まった『呪術廻戦』本編につながる、謎や伏線がいくつも散りばめられていることに驚かされる。逆にいえば、それだけ限られたページの中に、さまざまなアイデア(いくらでも作品世界を広げられる、おもしろい漫画の“種”)が詰め込まれていた、という見方もできるだろう。


 そこで本稿では、その0巻に出てくる、いくつかの「謎や伏線」の中でも最も気になる――そして、もしかしたら今後のシリーズ本編の展開を大きく左右しかねない“ある人物”について、考えてみたいと思う。


関連:『呪術廻戦(1)』表紙


■物語を大きく動かす“ある人物”とは?


 繰り返しになるが、『呪術廻戦 0 ―東京都立呪術高等専門学校―』は、『呪術廻戦』本編の前日譚である。主人公の名は、乙骨憂太。11歳で交通事故死し、「特級過呪怨霊」と化した幼なじみの少女・祈本里香に取り憑かれた少年だ(街ひとつ破壊しかねない恐ろしい“力”を持った祈本里香は、乙骨に危害を加えようとする相手を容赦なく痛めつける)。


 物語は、この乙骨が呪術高専に転入し、「呪術師だけの世界」を作ろうとする夏油傑との戦い(「百鬼夜行」事件)を経て、里香を「解呪」――ひとりの呪術師として大きく成長するまでが描かれる。


※再度注意。以下、いくつかのネタバレあり。


 ちなみにこの乙骨、物語の最後で、実は、里香に取り憑かれていたわけではなく、彼のほうから(無意識のうちに)彼女に呪いをかけていたのだということがわかる。さらには、彼が「日本三大怨霊の一人」にして「超大物呪術師」の子孫だったということも。


 そう、この、「日本三大怨霊の一人」にして「超大物呪術師」こそが、先ほど私が書いた、本稿で採り上げたい“ある人物”なのである。


 その人物の名は、菅原道真。平将門、崇徳天皇とともに日本三大怨霊の一人とされている平安時代の貴族だ。本来は学者・詩人である彼の華やかな政治活動(右大臣にまでのぼりつめる)は、敵を生むことにもなり、やがて失脚。太宰府の地に左遷された後、非業の死を遂げるが、彼の“祟り”としかいいようのない災厄が京で多発したため、“神”として祀られることに。


 なお、呪術高専の教師・五条悟もまた、その名字からもわかるように[注1]菅原道真の子孫という設定であり、つまり、乙骨と五条は、(遠縁の)親戚同士ということになる。


[注1]五条家の祖は菅原氏。


■菅原道真は恐ろしい祟り神か、頼れる味方か?


 さて、乙骨憂太も五条悟も、『呪術廻戦』本編における主役級[注2]の重要なキャラだといっていいが、それゆえ、このふたりの先祖である菅原道真が、のちのちなんらかの形で物語にからんでくる確率は高いと思われる。


[注2]『呪術廻戦』本編の連載開始にあたり、物語の主人公は、乙骨憂太から、「特級呪物」の両面宿儺を身の内に宿らせた少年・虎杖悠仁に変わっている。


 そこで、8つの仮説を立ててみた。おそらく、今後、菅原道真が物語にからんでくるとしたら、以下のいずれかの形になるのではないだろうか。


【1】 偽夏油傑/加茂憲倫/羂索=菅原道真?


 『呪術廻戦』本編はいま、「死滅回游」という呪術師たちのデスゲームめいた戦いに突入しているが、その首謀者の名を、加茂憲倫という。さまざまな人間の身体を乗っ取り、生き永らえている呪詛師だが(過去の逸話を見るに、かなり非人道的な男だといっていい)、いまは、「百鬼夜行」事件で死んだ夏油傑の肉体を操っている。


 そんな彼は、第134話で「加茂憲倫も数ある名の一つにすぎない」といっており、これはつまり、いま“中”にいるのが、夏油傑でも加茂憲倫でもないということを物語っている。さらには、第145話で、天元(=日本呪術界の中心的存在)が、それは「羂索」という術師だと“断言”している。


 もちろん天元の言葉を信じてもいいが、その羂索もまた別の何者かである、ということも充分考えられるだろう。だとしたら、おのずと“ある人物”の名が浮かんではこないだろうか。


 そう、最凶の呪詛師・菅原道真が、ラスボスとして、虎杖、五条、乙骨らの前に立ちはだかってくる可能性は高い――かもしれない。“彼”は、虎杖の中の宿儺に向かってこう囁く。「始まるよ 再び 呪術全盛 平安の世が…!!」(第136話より)


 また、加茂憲倫(羂索)には、「裏梅」という名の呪詛師がついており、ご存じの方も多いと思うが、「梅」というのは菅原道真と非常に関係の深い花である(ちなみにこの裏梅、1000年以上生きているという設定であり、両面宿儺とも深いつながりがあるようだ)。


【2】羂索と契約して呪物になった?


 「死滅回游」が始まる前――第136話で加茂憲倫(羂索)は、虎杖たちに向かって、「私が配った呪物は 千年前から私が コツコツ契約した 術師達の成れの果てだ」といっているのだが、こうした“契約者”たちの中に、約1100年前の人物である菅原道真がいた可能性もある。そしていま、誰かがその呪物と化した菅原道真を体内に取り込んでいる可能性も……。


【3】雷の呪霊として出現?


 むろん、羂索とはまったく関係のない別の形で、菅原道真がいきなり敵(ラスボス)として出現する可能性もないわけではない。その場合はおそらく、「超大物呪術師」としてではなく、荒ぶる「雷」の呪霊として現れるのではないだろうか(かつて菅原道真の怨霊は、落雷のかたちで京の都の貴族たちを震え上がらせたという)。


【4】両面宿儺=菅原道真?


 第116話および第117話で描かれている、両面宿儺と裏梅のやりとりを見るに、「宿儺=菅原道真」という可能性も、わずかだがあるかもしれない。ちなみに第3話で、もともとの宿儺は「1000年以上前に実在した人間」であったと説明されているが、前述のように菅原道真もまた、それとほぼ同時代(約1100年前)の人である。


【5】裏梅=菅原道真の分身?


 第116話で裏梅と久しぶりに“再会”した宿儺は、はじめ、それが裏梅だということに気がつかない。つまり、(約)1000年前といまとでは、裏梅の姿形はかなり変わっているものと思われる(“現在”の裏梅は、白髪・オカッパで中性的な風貌である)。


 また、「裏梅」という名前を深読みすれば、「菅原道真の裏の顔」――ひいてはその「分身」というような見方もできそうだ。特級呪物の両面宿儺が「20本の指」に形を変えていたように、菅原道真も「裏」と「表」に分かれているのかもしれない。


【6】来栖華と菅原氏の関係は?


 名前、という意味ではもうひとり、怪しい人物がいる。「死滅回游」に参加している「泳者(プレイヤー)」のひとり、来栖華である。そう、「菅原氏系来栖氏」――すなわち、「来栖」姓には、菅原氏にその名の由来を持つ家系があるのだ。


 なお、この来栖華もまた、1000年の時を超えて存在する術師であり、その術式は、「あらゆる術式を消滅させる」という最強クラスのもの。やはり菅原道真となんらかのつながりがあるかもしれない。


【7】鹿紫雲一の動向に注目


 裏梅や来栖華と同じく、いまのところまだ多くの謎に包まれているキャラクターだが、鹿紫雲一という「泳者」の名も挙げておこう。その言動から、おそらくは、少なくとも400年、場合によっては、1000年以上前の術師だと思われる。


 殺人をなんとも思わぬ冷酷な性格の持ち主だが、見た目はどことなく五条悟に似ており、もし彼が五条家と血のつながりのある人物ならば、必然的に菅原道真とも関係があるということになるだろう。


 また、この鹿紫雲一が敵を倒した後のカットをよく見てみると、彼の頭上に火花(?)が「パリッ」という音とともに描かれており、これなども“雷神・菅原道真”を連想させる描写である(そういえば、彼の目の下に描かれているラインもどことなくイナズマっぽい)。


 さらには仮説【2】との関連さえも頭をよぎる、なんとも興味深い“悪”のキャラである。


【8】味方として現れる?


 さて、最後になるが、個人的には、菅原道真には、主人公たちの味方として登場してほしいと思っている。その場合、呪術師として現れるのか、呪霊・呪物として現れるのかまではわからないが、おおむね、先祖(の霊)は子孫を護るものでもあるから、道真が乙骨や五条の側につくというのも、自然な流れといえば自然な流れだ(ただし、『呪術廻戦』は、ある意味では「家」や「血統」に抗う者たちの物語でもあり、そういう点ではなんともいえない)。


 いずれにせよ、物語は、(くだんの羂索がラスボスではないとしたら)両面宿儺と虎杖悠仁の戦いをもって幕を閉じることだろう。といっても、いまの時点では、虎杖が宿儺に勝てる確率はゼロだ。だが、菅原道真のような“超大物”が、メンター(師匠)として、虎杖を一から鍛え上げたとしたら? それはそれで、王道の少年漫画として、かなり盛り上がる展開だと思う。


 以上、勝手なことばかり書いたような気もするが(また、ファンの皆さんそれぞれにそれぞれの考えがあると思うが)、今後の『呪術廻戦』を読み解くうえでのなんらかの手助けになれば、幸いである。