2022年01月01日 09:41 弁護士ドットコム
男女の合格最低点に大差が出ることもあるとして、東京都立高校の「男女別定員」が見直される。定期的に問題視されてきたが、ジェンダー問題への関心の高まりもあり、2020年ごろから報道とSNSで批判が加熱した。
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高校入試をめぐるジェンダー問題としては、公立高校の「男女別学」も昔から議論されてきた。「公立」なのに性別を理由に受験・入学の資格を与えないことは問題だというものだ。
全国的に見れば、公立の別学高校は1%程度だが、埼玉・栃木・群馬に限っては、別学の県立進学校が多い。浦和・宇都宮・前橋の各校は東大合格者の多さで知られる男子校で、宇都宮女子は1875年創設の日本最古の公立女子高校だ。
近年では、2003年度に福島県、2010年度に宮城県ですべての県立校が共学化しており、北関東の3県についても度々話題にはなっている。
宮城県の共学化推進団体が発行した冊子『宮城県立高校の男女共学はどのように実現したのか わたしたちの活動記録』(2021年)から共学化の推進にあたって起こりうる論点をいくつか紹介したい。
宮城県は1999年に浅野史郎知事(当時)が、すべての県立高校の共学化を発表した。
しかし、宮城には、校名に数字が入った伝統校、いわゆる「ナンバースクール」が多く、共学化には男子校だけでなく、女子校の同窓会からの反発もあったという。
別学には「差別的」との意見もあるが、むしろ地域の女子教育の歴史が深いからこそ、別学が存続しているという側面もあるようだ。女子の旧帝大入学を初めて認めたのも東北大学(1913年)だったとされる。
こうした中、出てきたのが、在学生も巻き込んだ「一律共学化反対運動」だった。共学化する学校があっても良いが、一律の対応は反対というもの。言い換えれば、「共学には共学、別学には別学の良さがある」という意見だ。
別学・共学の議論ではよく見られるもので、たとえば埼玉県の「21世紀いきいきハイスクール構想」にも、次のような記述がある。
「男女共学は、教育の機会均等等の趣旨から意義のあることであり、新設の高校では、いずれも男女共学としてきた。一方、男女別学の高校は、長い歴史と伝統をもち、地域社会に親しまれ、別学ならではの特色を生かしてきた」
しかし、冊子では「別学と共学の共存」についてバッサリと切り捨てている。
「『伝統あるナンバースクールまで共学化するのは許せないが、その他の高校の共学化は認めてもよい。』という考え方で、エリート意識が見え隠れするものであった」
実際、宮城では、県下トップとされる仙台第二高校(当時は男子校)で、入試の前年に共学化の1年延期が決まり、「女子一期生」を目指していた女子中学生たちが受験先の変更を余儀なくされた。
仙台二高は1年遅れの2007年に共学化。県としても2010年に全県立高校の共学化を実現した。
冊子では、共学化が必要な理由の1つとしてジェンダー問題があげられている。
「子どもたちが育っていく過程で、ジェンダーの意識がごく自然に身につくことが重要と考え、高校の3年間の男女別学はその阻害要因となる」
実際にアンケート調査をしたところ、「共学校の男子生徒に比べ、男子高の生徒は性別役割分業に肯定的傾向」という結果も出たという。
ただ、ジェンダーへの意識という点で言えば、共学化が本当に適しているのかという議論はありえる。共学校に通う女子のほうが、女子校に通う女子よりも「性別役割分業」について肯定的という見解もあるからだ。
女子校はすべてのことを女子が主体になって解決しないとならないが、共学校は男子に遠慮してしまったり、逆に男子に任せてしまったりということも起こりうる。
また、現実的な課題としては、共学化しても、本当に共学校として機能するかという論点もある。宮城県では共学化しても旧男子校は男子、旧女子校は女子の入学が多いことが報告されている。
特に懸念が多いのは女子校だ。男子校は運動部の活動も盛んで、校庭などの施設も広く設計されていることが多い。共学化しても施設の改修は一部で済む。しかし、女子校は真逆だ。設備の整備具合は受験生の志望動機にも影響する。
古い記事にはなるが、2001年9月23日の朝日新聞は、栃木県で共学化に向けた動きがあることを示す記事の中で、「元男子校は名門校として残るが、元女子校はその地位から転落しかねない」(同記事より)と、女子校側の抵抗があることを伝えている。
また、宮城県の旧女子校では、人数の少ない男子が萎縮しないようにとクラス分けに配慮した結果、女子だけの「ジョクラ」ができてしまうこともあるという。共学化の目的がジェンダーの問題なのだとしたら、目的は十分に達せられてないともいえる。共学化はゴールではないということだ。
北関東3県については、難関大への進学者が多い男子校が公立のトップ校扱いされることが多いようで、弁護士ドットコムニュースには、栃木県の現役教師から「どんなに成績が良くても、女子がトップ校を受験できないのは差別ではないか」との意見が寄せられた(https://www.bengo4.com/c_18/n_13942/)。
一方で、海外では男女別学に脚光が当たってる。たとえば、アメリカでは2000年代に公立学校での男女別学が認められるようになり、別学化する初等・中等学校が現れた。別学のほうが成績が上がりやすい可能性を示唆する研究もあるのだという。
「多様性」というキーワードひとつとっても、男女別学や共学が共存しているほうが多様であるという見方もあれば、別学に高偏差値校が多いことからすれば、受験生の「選択肢」としては多様ではないとの見方もある。
地元には「伝統」を大事にしたいという声も多く、仮に共学化に向かうとしても、宮城県がそうだったように全県的な議論は避けられなさそうだ。