新型コロナの新規感染者が低く抑えられている中で、再び「旅行」にも注目が集まりつつある。来年1月にはGoToキャンペーンの再開も検討されているそうだ。こんなご時世なので先は見通せないが、久々の旅行で選択肢に入れたいのが「フェリーの旅」である。
新航路も登場しサービスも充実中
近年、交通網の発達やLCCの登場で、フェリー航路は減少の一途を辿っていた。そんな中で
今年7月に久々の新規航路として開設されたのが「東京九州フェリー」。
横須賀~北九州間を約21時間で結ぶ航路である。これまで東京?九州間には徳島を経由する「オーシャン東九フェリー」の航路があった。
こちらは二泊三日の長距離航路だったのに対して「東京九州フェリー」は一泊で東京?九州間を移動できる高速な航路となっている。船旅はしたいが、そんなに長い休みは取れないという人にはオススメしたい航路である。
筆者が船旅をオススメするのは、なによりも「寝ていれば到着する」という呑気さ、心地よさである。フェリーだと、広い食堂で食事もできるし、風呂にも入れる。この点だけでもリラックス度合いが全然違う。
似たような利点があった夜行列車は、近年次々と廃止になってきた。
朝早くから狭い飛行機の座席にギュウギュウに詰め込まれて移動するよりも心地よい。
飛行機は移動時間こそ短いものの、座席は狭いし、シートベルトは必要だし、ホッとするタイミングがなく忙しない。個人的なことだが先日、地方出張で飛行機を利用したのだが、離陸した途端に隣の席の人がシュウマイ弁当を食べ始めた。早朝の狭い機内で、ヘビーな匂いを嗅がされた時には「すいません、降ります」と言いたくなった。降りられないけど。
荷物の間に詰め込まれているような快感
フェリー旅が非日常的なのは、自分が「荷物のついでに運ばれている」という感覚もあるからだろう。とりわけ、その感覚が強いのは大阪?北九州を結ぶ「名門大洋フェリー」だ。混み合うシーズンを除けば旅客はごく一部、ほとんどは荷物を満載したトラック客である。
ゆえに、食堂は渋い。夕食はバイキングになっているがメインのほとんどは揚げ物。以前乗った際には揚げ物のほかは刺身コーナーに山のようなカツオのたたきだけが……。客もほぼ作業着姿で、カツオをつまみに一杯やっているという光景が広がっていた。
そんなフェリー旅だから、やはり選ぶ船室は最安の二等に限る。雑魚寝しつつ、たまたま居合わせた人と会話を楽しみながら旅をするのだ。
ところが、である。
コロナ禍でこの二等の旅も過去のものになりつつある。前述の「東京九州フェリー」は最下等の「ツーリストS」もベッドタイプ。「名門大洋フェリー」も、このたび導入される新造船も同様のタイプになっている。
固い絨毯のしかれた客室で雑魚寝しながらの船旅も幻となってしまいそうだ。
雑魚寝で思い出すのは、かつての関釜フェリー。国際航路のこれは現在は部屋を区切ってある程度国籍別に割り振るようにしているが、かつては瀬戸内海あたりのフェリーにありそうな壁もほとんどない雑魚寝スタイルだった。
いかにもな行商のおばちゃんが乗り合わせた学生に「この荷物を持って入国してくれ」と頼んだりしていた。関税をごまかしたかったのだろう。他人の荷物を預かるのは海外旅行の禁忌だが、あの航路でみんなやっていたのは、なんだったんだろう。あえて繰り返すが、他人の荷物には何が入っているかわからない。入国時に預かるのは絶対ダメだ。
さて、さすがに、そんな呑気すぎるノリは過去のものだろうが、船旅の「のんびりさ」はまだ残っている。このご時世、「あえて時間のかかる船旅」というのも、かえって貴重でいいのではないだろうか。