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『あつまれ どうぶつの森』ver. 2.0に感じた、任天堂の「遊ばれ続ける」ための巧みな戦略

2021年12月31日 12:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『あつまれ どうぶつの森』より、新たにオープンした「喫茶ハトの巣」(C) 2020 Nintendo

 『あつまれ どうぶつの森』のクリスマスイベントが終了し、カウントダウンイベントが始まろうとしている。今年の11月には「ver. 2.0」の大型アップデート(※1)が行われたことは記憶に新しい同タイトルだが、それとほぼ同時に「『あつまれ どうぶつの森』を9,999時間以上遊んだユーザーが現れる」というニュースも話題になった。


【画像】もはや別ゲー。超大型アップデートを果たした『あつ森』の現在


 10月には『スマブラSP』の追加DLCが約3年をかけてついに完結したことも話題となるなど、オンラインのアップデートを通した、長期間にわたる拡張コンテンツ開発を前提としたプレイスタイルは一般的になっている。


 このように「継続して」一つの作品をプレイし続けられるのは大作ゲームの魅力だが、よく考えてみれば一つのコンテンツに数百・数千時間もかけるのは特殊なことだ。映画であれば1作およそ2時間で完結するのだから。


 じっさい『あつ森』は長い期間遊ばれている一方で、一部ではあるが「すぐ飽きる」という声もあるにはある。その気持ちも、わからなくはない。


 たしかに「島クリエイター(※2)」の実装までは「できることが増えていく」感は強かったものの、それ以降はひたすらに島を豊かにすることだけを強いられ、正直「果てしな」さすぎて途方に暮れることもあるかもしれない。


 この「果てしなさ」を感じるのは、ちょうど「島クリエイター」を一通りプレイしつくした後から「プレイヤーの達成度」が見えにくくなるのが原因の一つだろう。たとえばRPGであればレベルが上がるように、オンラインの対戦ゲームであればランクが上がるように、「達成度」を定量化・可視化することでプレイヤーを没入させる手法はあらゆるゲームで使われてきた。またその手法はライフログやマーケティングなど日常のあらゆる場面にまで侵食してもいる。いわゆる「ゲーミフィケーション」である。


 こうした達成度の可視化による没入という点ではたしかに『あつ森』は飽きやすいのかもしれない。


 もっとも、そもそもそういった要素をこのゲームに期待するべきではないだろう。


 『あつ森』をプレイし続けるのは、何かを「達成」したことが「報酬」として得られるからなのだろうか。『あつ森』のゲーム内での目的をあえて定めるならば、「島を豊かにすること」であり、その他の「島クリエイター」やどうぶつたちとの会話、家具集めなどはその「手段」となるが、同作のプレイヤーは「島を豊かにするために、最適な攻略手段を逆算してプレイするぞ!」というモチベーションで遊んでいるのだろうか。


 そうではなく、単に仮想空間内のどうぶつたちとの戯れや主人公(むらびと)の挙動にかわいらしさを感じることそのものが快楽だからだろう。どうぶつたちとのコミュニケーションや素材集めといった手段はいつのまにか自己目的化し、本来の目的であったはずの「島を豊かにする」ということを文字通り「ゲームクリアのための目的」であると強く意識するようなプレイは(たとえばアクションゲームをプレイするときに比べれば)ほぼないはずだ。


 こうした手段と目的の取り違えを誘う(ことでハマらせる)工夫は、「作業ゲー」に陥らないためにあらゆるゲームが行ってきたことであり(※3)、とりわけ「キャラクター」を介在させることはその常套手段だ。たとえば単なるボールと的が描画されていただけのシューティングゲームから『スペースインベーダー』が誕生したように、あるいは「音声合成ソフト」が初音ミクとなったように、ある目的を達成するための「作業」であったはずの行動にキャラクターが介在することで、それとの戯れが自己目的化されるということを、あらゆる作品が実現させてきた。


 このことを踏まえて今回の『あつ森』のアップデート内容をみてみよう。50以上の膨大な機能が追加されたたなかで特に注目に値するのは、喫茶店「ハトの巣」(※4)が実装されたことと、アプデと同日にamiibo(※5)カードの第5弾が発売されたことに伴い、今作で初登場した新住民を含めたすべてのシリーズキャラクターをゲーム内に呼び出せるようになったことだ。


 これまでもamiiboを使いシリーズの人気キャラを島内に呼び込むことは可能だったが、今作で初登場したキャラクターのamiiboは販売されていなかった。特にジャック(ネコ)やちゃちゃまる(ヒツジ)といった人気キャラクターが島に訪れてくれるかどうかは完全に運次第だったので、彼らと出会うまでひたすら粘り続ける、いわゆる「厳選」にのめり込んだプレイヤーも少なくない。またジャスティンやレックスといった住民ではないシステムキャラクターのamiiboが追加されたことに加え、ししょー(ウーパールーパー)など今作には登場しない過去シリーズの人気キャラのamiiboにも対応したことで、いつでも彼らをゲーム内に呼び出せるようにもなった。


 こうして「キャラクターとの戯れ」の魅力が増すとともに、全キャラクターを(amiiboがそろえば)いつでも呼び出せるようになったことで『“あつまれ”どうぶつの森』というある種の「タイトル回収」まで実現した今回のアップデートは必見だ。


 そしてamiiboの遊び方の幅が広がったことにはさらに別の意義がある。そもそもamiiboのようにフィギュアとビデオゲームをクロスオーバーさせるかたちで楽しむジャンルは欧米圏では「Toys to life」と呼ばれ一般に定着していたが、日本ではamiibo以前にそうした市場はあまり確立されていなかった。そこで国内にも「Toys to life」の娯楽を普及させようと目論んだのが故・岩田聡元任天堂取締役社長である(※6)。


 岩田は「カード型の『amiibo』も今後販売するというお話をしましたが、これはカード型にすることで納期を短くしたり、コストを下げたりすることによって、「『amiibo』の遊びというのをまた違う方向に広げられないか」と考えてのことで」(※7)とも述べていたが、カード型のamiiboはまさに「どうぶつの森」シリーズで展開されているジャンルである。


 「amiiboの遊び」が「違う方向」に広がることは、そのゲームの魅力を拡張するとともに、岩田聡の戦略を継承することでもあったのだ。「キャラクターとの戯れ」と「Toys to life」の精神を同時に実現させ、それが継続プレイのきっかけを作っている、というのがver. 2.0のアップデートにおける“すごさ”の正体なのかもしれない。(徳田要太)


[1] 16体の新住民を含む51の新機能が追加され、もはや「別ゲー」レベルのボリュームだと話題になった。
[2] 今作から追加された新機能で、舞台である無人島の地形やインフラを好きなように作り替えることができる。
[3] 井上明人×水口哲也「ゲームとゲーミフィケーションのあいだで:〈人間と情報〉の関係はいかに更新されてきたか」(第二次惑星開発委員会「特集:21世紀の「原理」──ソーシャルメディア・ゲーミフィケーション・拡張現実」『PLANETS vol.8』 2012)
[4] ハトを模した人気キャラクター「マスター」の経営するき喫茶店で、シリーズおなじみの施設。
[5] 任天堂キャラクターをフィギュア化/カード化した商品で、ハード本体にかざすことでそのキャラクターをゲーム内に登場させ遊ぶことができる。
[6]「2015年2月17日(火)2015年3月期 第3四半期決算説明会 – 質疑応答」
[7] 前掲