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三浦春馬さんが遺した作品と演技 『ブレイブ』『太陽の子』未来に繋ぐべき功績を振り返る

2021年12月31日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

三浦春馬さん『映画 太陽の子』(c)ELEVEN ARTS Studios / 「太陽の⼦」フィルムパートナーズ

 コロナ禍によって、不安定な日々が続く世の中。いまだエンターテインメント業界も楽観視できない状況にあるが、それでも、映画、ドラマ、演劇にと、この2021年も多くの俳優から大きな感動を与えてもらった。特に印象に残っているのが、三浦春馬さんの存在である。彼の作品に一つでも触れた方であれば異論はないのではないかと思う。俳優として、そのような演技を彼は遺したのだ。


【写真】ドラマ『カネ恋』での三浦春馬さん


 2021年に封切られた三浦さんの出演作は、『ブレイブ -群青戦記-』と『太陽の子』の二作のみ。しかし、2020年の末に『天外者』が公開されている。地域によっては年をまたいで公開されたところもあるだろうし、鑑賞するタイミングが今年だった方もいるのであろうから、まずはこの作品に触れるところからはじめたい。それに本作は、彼について語るうえで絶対に欠かすことのできない映画でもあるのだ。


 『天外者』とは、2020年の夏に亡くなった三浦さんの最後の主演映画である。現在の大阪商工会議所や造幣局の創設などの“大阪経済の礎”を築き、「天外者(鹿児島の方言で“すさまじい才能の持ち主”の意)」と称された偉人・五代友厚の生涯を描いた時代劇だ。五代とは、後世を生きる者たちが希望を持つことができる国にするため、その身を挺した人物。本作は時代劇とはいえ、よりドラマに比重が置かれた歴史劇であり、俳優同士の掛け合いが重要になるものだ。しかしもちろん、五代が刀を抜くこともある。この際にスクリーン越しに伝わってきた三浦さんの放つ気迫に、思わず息を止めてしまったことをはっきりと覚えている。彼は刀を手にした立ち姿だけで、自分の演じる役がどのような意志を持っているのかを表現できた俳優だ。五代が人々の夢のために闘う姿は、生涯のほとんどを俳優として第一線で闘い続けた三浦さん自身と重なるものだった。純然たる主演映画であったと思う。


 『ブレイブ -群青戦記-』は、海外に活動拠点を移した新田真剣佑の初の単独主演作だ。とあるスポーツ強豪校が、まるごと「“桶狭間の戦い”直前」にタイムスリップしてしまい、“高校生アスリートVS戦国武将”という奇想天外なストーリーが展開する。主演の新田が演じたのは弓道部所属のアスリートであるものの、自信が持てないでいる男子生徒。一方、三浦さんが演じたのは、松平元康(後の徳川家康)であり、主人公たちを導いていく存在だった。元康は知的で明朗快活。そのうえ、剣の腕も一流だ。こちらは『天外者』と対照的で、アクションが売りの作品でもある。三浦さんは演劇の場でもその高い身体能力を披露してきたが、本作でもその力を遺憾なく発揮。太刀筋の一つひとつに、彼の全身から溢れ出るポジティブなエネルギーが宿っているように感じた。この映画は元康が次代を担う者たちへとバトンを繋ぐ物語でもあり、新田と三浦さんとの実際の関係と重なり合い、得も言われぬ感情に陥ったものだ。


 そして、夏に公開されたのが『映画 太陽の子』。これは2020年夏に放送された、国際共同制作特集ドラマ『太陽の子』(NHK総合)の劇場版で、太平洋戦争下における“日本の原爆開発”を物語の軸とし、激動の時代に翻弄されながら生きる若者たちの姿を描いたもの。主演の柳楽優弥が原爆開発に没頭する若き研究者・修に扮し、建物疎開によって家を失いながらも未来を見据えることをやめない幼なじみ・世津役に有村架純が、そして三浦さんは、修の弟で、肺の療養のため一時帰郷した陸軍の士官・裕之を演じた。


 本作はこの三者の“青春”を描いたものでもあるが、やはり観ていて非常に苦しい映画だった。特に、三浦さんが時おり浮かべる悲痛な表情には、胸に痛みを感じないわけにはいかなかった。久しぶりに再会した家族や世津の前では明るく振る舞うのだが、どうにも無理をしているようにも感じる。彼は前線での壮絶な戦いが脳裏から離れることがなく、常に苦しんでいたのだ。激動の時代において3人はそれぞれ立場が異なり、裕之の本音はなかなか掴めないものだったが、三浦さんはそれらしいセリフに頼らずに、ここに裕之の本音を垣間見せていたように思う。


 『天外者』『ブレイブ -群青戦記-』『太陽の子』には、“現代劇ではない”ということのほかに、一つの共通点がある。それは、未来に、次代に、後世に、想いをつなぎ、メッセージを投げかけている点だ。私たちはこれらの作品から何を感じ、何を語らねばならないのか。三浦春馬さんの演技は若くして、すでに名人の域に達していたと思う。この2021年だけでなく、これからもずっと、私たちの心に残り続ける。そう確信させる作品と演技を、彼は遺したのだ。


(折田侑駿)