2021年12月31日 07:51 弁護士ドットコム
2021年も新型コロナウイルス感染拡大は飲食業界に暗い影を落とした。緊急事態宣言による時短命令に応じる店もある一方で、グローバルダイニング(東京・港区)など、営業を続ける店も出てきた。
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そんな中、東京都は時短命令に応じない7事業者32店舗に対し、3月に「時短営業命令」を発令。これに対し、グローバルダイニング社は時短命令は違法だとして、都を相手取り、損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
原告代理人の倉持麟太郎弁護士は、国や都の対応について「要請を中心とした法的義務なきお願いをベースに、市民社会に責任を丸投げしている」と厳しく批判する。
グローバルダイニング訴訟は2022年3月にも結審する予定だ。原告・グローバルダイニングおよび被告・東京都の主張など、ここまでの裁判の経過や注目点を確認する。(編集部・若柳拓志)
2021年1月7日、感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令され、飲食店を中心に時短の「要請」が出された。さらに、2月13日施行の新型インフルエンザ等対策特別措置法(改正特措法)で時短・休業などの「命令」ができるようになった。
これを受けて、東京都は翌月3月、時短要請に応じなかった7事業者32店舗に対し、2回目の緊急事態宣言が終わる3月21日までの3~4日間、「時短営業命令」を発令した。
この命令に黙っていなかったのが、都から命令を受けた32店舗のうち26店舗を運営するグローバルダイニング社だ。
命令自体には応じつつも、命令期間終了直後の3月22日に、時短命令は違法だとして、都を相手取り、損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
その後、感染拡大が止まない中、各地で時短命令が相次いで出され、沖縄県でも飲食店を経営する企業が時短命令を違法だとする提訴があった。
原告側は、今回の裁判について、損害賠償請求が主な目的ではないとして、請求額は104円(1店舗1円×26店舗×4日間)と設定。
時短命令の違憲性・違法性を問うとともに、法的な根拠や科学的な根拠があいまいなまま飲食店営業を一律に制限することの是非、過剰な規制や改正特措法の違憲性について問題提起する場だと位置付けている。
具体的には、(1)時短命令は、時短要請に応じないことを発信していたグローバルダイニングを狙い撃ちしたもので、平等原則に反し、表現の自由及び営業の自由を侵害する、(2)同時短命令は特措法上の要件を満たしていない、(3)飲食店が主要な感染経路であるという明確な根拠もなく営業を一律に制限できる特措法の規定は、営業の自由を侵害しており違憲、などと主張している。
これに対し、都は全面的に争う姿勢をみせ、(1)狙い撃ちや見せしめの目的を否定し、(2)時短命令は特措法上の要件を満たしていることは明らかと主張。さらに、(3)特措法などの法令の規定は違憲との主張に対しては、「憲法適合性を審査すべき義務がない」と反論するなど、請求棄却を求めている。
グローバルダイニングに対して時短命令が出されたのは、緊急事態宣言が期限を迎える3日前というタイミングだった。
都は、感染状況からして時短命令を出す必要がある状況だったなどと主張。さらに、グローバルダイニングが時短命令の対象となった経緯・理由については、要請に応じず営業を継続する旨を発信しており、大手企業としての社会的影響力の強さから他の飲食店等の20時以降の営業継続を誘発するおそれがあるとして、最も優先性が高いものと判断したとしている。
これに対し、原告側は、病床使用率など客観的な指標から緊急事態とはいえないこと、特措法の要件である「特に必要がある」ことを満たさない違法な目的をもって発出された命令であると主張。専門家による意見書も提出するなどして、命令の違法性を訴えている。
特に目を引いたのが、京大・藤井聡教授(都市社会工学)による意見書だ。
藤井教授は、「グローバルダイニングへの時短命令の効果」について、時短命令に従った4日間(3月18日~21日)の来客数を前週の来客数と比較し、統計上の数値等を用いて、客数減少がどれだけ新規感染防止につながったかを分析。結論として、時短命令で抑止できた新規感染は「4日間で約0.081人」と算出した。
この分析方法や算出された数値をどう評価するかは裁判所にゆだねられるが、市民生活へのダメージをも伴うコロナ対策の有効性が常に議論される中、数値化を試みることの意義は小さくないだろう。
また、原告側は、緊急事態かどうかの判断や緊急事態措置をおこなうプロセスなどを明らかにしたいとして、小池百合子東京都知事や政府コロナ対策分科会の尾身茂会長、東京都コロナ対策審議会の猪口正孝会長、西村康稔前コロナ対策担当大臣などの証人申請をおこなった。
国内および都のコロナ対策を主導する当事者らの意見を直接問いただす機会にもなりえたが、東京地裁は、客観的事実に関してはすでに出ている証拠等で足りるとの理由で、上記証人について採用しないと判断。原告側の証人として、長谷川耕造グローバルダイニング社長と藤井教授を採用するにとどめた。
原告側の弁護団によると、次回期日の2月7日に長谷川社長と藤井教授の証人尋問をおこない、3月14日には結審する予定となっている。
原告側の弁護団長をつとめる倉持麟太郎弁護士は、2020年からのコロナ禍について、「日本社会の“真の姿”が見えた2年間」と語る。
「“政府”は終局的な責任をとらない要請を中心とした法的義務なきお願いをベースに我々の行動変容を調達し、責任を丸投げされた市民社会は、視聴率に依存する無責任なマスメディアによる煽りによって、同調圧力と相互監視を強め、萎縮した社会はいまだに元の姿に戻っていません」(倉持弁護士)
“立法府”に対しても、「もはや存在意義も疑わしい」とし、「緊急事態等に対する国会の承認や専門家の答責性の担保を放棄した」と厳しく批判する。
倉持弁護士は、三権のうち残された“司法”に「賭けたい」という。
「今まで消極的といわれた“司法=裁判所”に、今回の訴訟を通じて賭けた想いです。『空気、超法規、世間体』に支配された日本社会の実態に風穴を開けるとすれば、法の支配しかありません。私は、この訴訟を通じて、そんな“蟻の一穴”に賭けたいと思っています」(同)