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味方良介、『教場』以降の2022年もさらに飛躍? エンタメ界における重要性

2021年12月28日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

味方良介『熱海殺人事件 ラストレジェンド ~旋律のダブルスタンバイ~』

 コロナ禍によって、不安定な日々が続く世の中。いまだエンターテインメント業界も楽観視できない状況にあるが、それでも、映画、ドラマ、演劇にと、この2021年も多くの俳優から大きな感動を与えてもらった。特に印象に残っているのが、味方良介である。2020年に続いて“大きな飛躍”を見せ、エンタメ界における彼の存在の重要性を感じた。


【写真】『教場』注目の生徒役俳優・味方良介


 味方といえば、2020年の正月に2夜連続で放送されたドラマ『教場』(フジテレビ系)でその存在を認識したという方が非常に多いのではないかと思う。稀代のエンターテイナー・木村拓哉を主演に迎えた同作は、教場(警察学校における「クラス」)を舞台に、木村が鬼教官に扮し、映画やドラマなど主に映像のフィールドで“主役級”として活躍する若手俳優たちが生徒役に名を連ねた。ここに、ドラマ初出演の味方が参戦したのである。かねてより味方の活動を追いかけてきた人々にとっては、たいへん胸が熱くなるものだったことだろう。


 しかも、彼が演じた都築耀太は生徒役の中でも目立つ人物だった。なぜなら都築は、警察学校にいながら警察を憎み、自ら孤立し、何かと教官に盾突く存在。木村と激しくぶつかり合う、“味方の主役シーン”といえる瞬間も用意されていた。すでに映像の世界で広く知られる人気者たちの中で肩を並べたことや、都築という大役を任されたこと、そして本作が“フジテレビ開局60周年特別企画”として製作された作品だということもあり、この味方の起用には、製作陣の彼に対する期待度の高さがうかがえたものである。


 その後は、『ふろがーる!』(テレビ東京系)にゲスト出演し、『妖怪シェアハウス』(テレビ朝日系)で連続ドラマに初のレギュラー出演。一風変わったラブコメディである後者では、恋愛に絡む役どころを演じ注目を集めたことが記憶に新しい。コロナ禍の到来によって苦しい思いもしたはずだが、俳優としての新境地開拓となった一年なのではないだろうか。そうして味方の2021年は、『教場II』によって幕を開けた。前作ですでに都築は警察学校を卒業していたため出番は少なかったものの、演じるキャラクターも成長しているのが明確に見て取れたものだし、TVモニター越しに見る味方本人も、変わったように見えた。これは気のせいではないだろう。この1年間に映像での仕事が一気に増え、それは2021年も続いた。


 『ドリームチーム』(NHK総合)や『理想のオトコ』(テレビ東京系)などの連ドラにレギュラー出演し、『刑事7人』(テレビ朝日系)や『相棒』(テレビ朝日系)といった人気シリーズものにゲストとして登場。Amazon Originalドラマ『ホットママ』にまで活躍の場を広げた。もちろん、演劇での味方の躍動ぶりは言わずもがな。これまでずっと演劇のフィールドで芸を磨き上げてきたとあって、やはり味方の“真価”を堪能するならば舞台だと個人的には思う。


 今年はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』もあったが、演劇ファンにとって非常に重要な作品となったのが『熱海殺人事件 ラストレジェンド ~旋律のダブルスタンバイ~』なのではないだろうか。味方良介といえば、『熱海殺人事件』。彼が同作の主人公・木村伝兵衛を演じるのはこれが4度目のことで、しかも本公演は、多くの演劇人がこの演目に挑んできたメッカ・紀伊國屋ホールの改修前の最終公演。これがどれだけ名誉なことか。この機会に味方が舞台に立つことに、演劇界の彼に対する期待度の高さがうかがえるというものだ。


 本作のお決まりである「白鳥の湖」が爆音で流れる中で緞帳が上がり、舞台上でがなり立てる味方良介=木村伝兵衛を目にした瞬間、思わず涙が溢れた。日本全国で上演され続ける作品の“お決まり”のシーンとあって、正直ここで勝敗が決まりそうにも思う。味方による4度目の木村伝兵衛は間違いなかった! 彼の見事な体幹から繰り出される動きの一つひとつは風をも巻き起こすようであり、野太い声は客席後方にまで鋭く突き刺さる。物語や演出に対してだけでなく、彼の演じる姿そのものに涙してしまったのは筆者だけではないはずだ。


 そんな味方は、二兎社による新作『鴎外の怪談』で舞台に立っているところだ(諸事情により現在は中断中。公式サイトを参照されたい)。劇作家・永井愛の代表作の一つである本作の物語は、文学者にして官僚という社会的な立場にある森鴎外と周囲の者たちと、「大逆事件」の関係を描いたもの。味方は永井荷風に扮している。先輩俳優たちとのストレートプレイに興じる姿は、ミュージカル作品や、つかこうへい作品のときとはまた違う彼の一面が垣間見えて頼もしいし、基礎力の高さが明らかになっていると思う。白眉なのがクライマックスでの演技。鴎外らは社会の動きに抗えず、荷風はすっかり変わってしまう。言葉は江戸っ子調に変わり、江戸文化の探求に身を捧げることを誓うのだ。シーンとしてはおかしみのあるものだが、この急変ぶりこそが、社会の動きに抗えなかった“哀しみ”を体現していたように思う。


 本作は2022年より上演の再開が見込まれているため、多くの方に目撃していただきたいものである。本作に続いて、来年の味方はどのような存在になっていくのだろうか。朝ドラや大河ドラマなどの国民的ドラマに出演すれば、映像のフィールドでも一気にトップに躍り出ること必至だろう。映画出演も期待。そして何より2022年も、味方良介が座長の『熱海殺人事件』が観たいものだ!


※『鴎外の怪談』の「鴎」は正式には旧字体。


(折田侑駿)