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田幸和歌子の「2021年 年間ベストドラマTOP10」 “人と人を分断させない”様々な視点の秀作

2021年12月26日 08:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『俺の家の話』(c)TBSスパークル/TBS

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2021年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第8回の選者は、テレビドラマに詳しいライターの田幸和歌子。(編集部)


【写真】『俺の家の話』で花道を飾った長瀬智也


1.『俺の家の話』(TBS系)
2.『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)
3.『今ここにある危機とぼくの好感度について』(NHK総合)
4.『生きるとか死ぬとか父親とか』(テレビ東京系)
5.『その女、ジルバ』(東海テレビ・フジテレビ系)
6.『コントが始まる』(日本テレビ系)
7.『最愛』(TBS系)
8.『直ちゃんは小学三年生』(テレビ東京系)
9.『スナック キズツキ』(テレビ東京系)
10.『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』(日本テレビ系)


 コロナ禍2年目突入により、企画・脚本がよく練られた作品や、意欲的なチャレンジ作が豊富に揃った2021年。特に4月期の充実ぶりは、近年稀に見るほどだったと思う。おそらくコロナ禍でNetflixをはじめとした動画配信が一気に浸透したことから、ライバルが地上波民放他局でなく、配信に移行していることが“豊作”の要因だろう。


 人との交流が減り、不安や不満が蓄積され、経済格差が拡大し、「分断」がますます進む昨今。2021年のドラマの一つの特徴に、「人と人を分断させない」様々な視点を盛り込んだ秀作が多かったことを挙げたい。


 例えば、『その女、ジルバ』は、これまでドラマで光があたることのなかった、大多数の“持たざる人”、キャリアやスペシャリストじゃない40代の普通の単身女性たちを掬い上げた。しかも、「姥捨て」と揶揄される倉庫勤務に従事するアラフォー女性3人は、大手アパレル店員から年齢を重ねて倉庫に左遷された主人公・新(池脇千鶴)や、国立大出身のキャリアで倉庫に出向させられたみか(真飛聖)、最初から倉庫の社員として誇りを持って働くスミレ(江口のりこ)と、事情もスタンスも人それぞれ。異なる境遇の者同士が交流し、人生後半戦に希望を持って向かう姿には胸を打たれた。


 その一方で、いわゆる “持てる人”側を描いたように見えるのが、『大豆田とわ子と三人の元夫』『最愛』の華やかな“女社長”たちだ。その実、大豆田とわ子(松たか子)は過去3度の離婚歴があるが、恋に奔放なわけではなく、前社長に指名されて社長になったものの、立場が変わったことで他の社員たちと距離ができ、みんなが食べるカレーパンを自分も欲しいと言えずにいる。


『最愛』(c)TBS


 また、『最愛』の真田梨央は「世界を変える100人の30代」にも選ばれた実業家で、フリーライターの橘しおり(田中みな実)に一方的に嫉妬され、敵意を向けられるが、実は広い意味では、しおりと同じく暴行事件の被害者でもあり、その人生は決して幸せなものではなかった。


 つまり、人の幸不幸は、決して傍から他者が判断できるような単純なものではないということだ。


 そうした異なる境遇・立場・考え方の人の視点を描くことで、気づきを与えてくれるのは、『生きるとか死ぬとか父親とか』『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』『スナック キズツキ』も同様だろう。特に『スナック キズツキ』は「誰かをキズツケた人もまた、キズツイている」というキズツケ→キズツキのリレー方式で描かれ、視聴者自身も「当事者」であることに気づかされる作品となっていた。『直ちゃんは小学三年生』もまた、大人が小学生を演じることで、子どもの頃には理解できなかった様々な“家庭の事情”“大人の事情”が浮かび上がるブラックヒューマンコメディだった。


 そんな中、他に類を見ない名作として突出していたのが、『俺の家の話』。なにせテレビドラマ界に衝撃を与えたエポックメーキング的作品『池袋ウエストゲートパーク』(2000年/TBS系)から『タイガー&ドラゴン』(2005年/TBS系)、『うぬぼれ刑事』(2010年/TBS系)と、約20年にわたり紡がれてきた長瀬智也×宮藤官九郎脚本×磯山晶プロデュースというチームの集大成だ。


 しかも、描かれたのは、約20年の歴史の中でそれぞれ年齢を重ねてきたからこそたどり着いた老いや介護、死など、誰もがやがて迎える普遍的なテーマ。それを大仰ではなく、悲壮感でもなく、「日常」の中で思わずクスリとしてしまう悲喜劇として拾い上げる手腕。この作品を最後の主演ドラマとして芸能界を去る長瀬智也への贐であり、彼が引退した後もエンタメ界に生き続ける姿と、主人公・寿一の死後も続く「日常」とを重ね合わせた演出も見事だった。


 ちなみに、もう一つ2021年ドラマで注目したいのは、同時期にNHKで放送されたチャレンジングな作品3本『きれいのくに』『半径5メートル』『今ここにある危機とぼくの好感度について』が、順番に訓覇圭、勝田夏子、勝田夏子+訓覇圭の2名の制作統括による作品だということ。コロナ禍でNHKのクリエイティブの底力を見せつけられた感のある作品群だった。


(田幸和歌子)