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ガラも治安も、もう悪くない!? イメージ一変、尼崎がコロナ禍でも人気急上昇している背景

2021年12月25日 10:01  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
「ひったくりが多い」「ガラが悪い」「公害の街」など、何かとネガティブなイメージがつきまとってきた兵庫県尼崎市が近年、「本当に住みやすい街」「穴場の街」として大きな注目を集めている。


“関西の武蔵小杉”との呼び声もあり、2013年から始まった「あまらぶ」シティプロモーションの取り組みは、この10月に「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」という由緒ある広告賞も受賞した。



しかし、お笑い界のカリスマ的存在である「ダウンタウン」の出身地としても知られる尼崎の“ヤバさ”は、半ば全国的な常識。正直、関西に馴染みのないと尼崎のダーティーなイメージとの乖離にギャップも感じる。



今回は尼崎の取り組みなどを尼崎市役所広報課・藤川明美氏にうかがった。

○若い単身者が急増、もう治安は悪くない!?



2020年に「穴場だと思う街(駅)ランキング」に4つの街(駅)がランクインした尼崎市。住民を対象に毎年実施する市民アンケートでは平成30年以降、市に対するイメージや住みやすさをポジティブに評価する回答が5割を超えるようになり、同年から市の人口も増加に転じているという。



かつてはネガティブなイメージに自虐的だった市民も「尼崎も捨てたもんやない」と自覚しつつあるようだが、藤川氏は「尼崎のイメージが大きく向上したひとつのきっかけがJR尼崎駅周辺の再開発です。尼崎市の人口はこの2~3年増加していますが、転入者の中でも若い単身の方の割合が大きく伸びています」と語る。


もともと立地的に尼崎市は「大阪より大阪に近い」と言われるほど交通利便性・生活利便性が高い。大型商業施設が併設するJR「尼崎駅」から大阪駅までは新快速で約5分。病院など生活に直結した公共施設も市内に多く、西に隣接する西宮市などよりも家賃や物件価格は割安だ。



「空港も近く、大阪にも神戸にも好アクセスで京都も通勤・通学圏内です。昔は駐輪スペースが足りず、ごちゃごちゃした印象の街並みの駅前でしたが、再開発に伴って駅周辺に機械式の自転車駐輪場など自転車環境を整備しました」



坂が少ない尼崎の市民は老いも若きも日常の足として自転車をよく使う。過去には救急車など緊急車両の交通の妨げになるなど、放置自転車の問題が指摘されていたこともあったが、現在、駅前はすっきりとした景観になった。



道路や街灯などインフラ面の整備と同時に地道な防犯対策にも力を入れ、平成24年から令和元年までの7年間でひったくりは85.2%減少するなど治安も大きく向上した。



「平成24年から大学教授と共同で、ひったくりが発生した日時や場所などを分析し、警察と連携しながら市の担当者も青パトで重点的に防犯パトロールなどを行なってきました。市民パトロールの活動も実施しており、現在は約300人の市民や尼崎で働いている方々が隊員として参加していただいています」


○「公害の街」「オッチャンの楽園」が映える観光スポットに



街頭犯罪認知件数の約半数を占める自転車盗難被害の対策として、盗難多発エリアに警報機付きロック「Alar-mmy.(アラーミー)」を備えたダミー自転車を配置するなど、あらゆる手段で犯罪抑止を推し進めてきた尼崎市。



そうした取り組みが奏功し、近年は近畿圏内など市外からも遊びに来る人も増えているようで、街には新たな賑わいが生まれているという。

「尼崎は対外的にアピールできるような観光スポットがなかったんですが、尼崎城など気軽に遊べるスポットができ、観光PRもしやすくなりました。尼崎は江戸時代、尼崎藩の中心として栄えてきた歴史があり、大阪城を守る西の砦として機能していたのが尼崎城です。明治の廃藩置県で取り壊され、現在の尼崎城は尼崎にゆかりのある旧ミドリ電化(現・エディオン)創業者の安保詮氏が、約10億円の私財を投じて復元、市に寄贈されたもの。鉄筋コンクリート造りでアミューズメント施設のように子供も大人も楽しめます」


また、かつて公害の原因だった工場の価値を再発見する「工場夜景撮影ツアー」も実施。「自転車でも迫力ある阪神工業地帯の撮影スポットに行ける」と人気で、不法投棄が多かった武庫川の河川敷は、毎年5万人が訪れる西日本最大級のコスモス園「武庫川髭の渡しコスモス園」に生まれ変わった。



「尼崎には焼肉やラーメンなど安くて美味しいグルメも充実しています。代表的なご当地グルメが「尼崎あんかけチャンポン」です。工業がさかんな尼崎市は昔から工場へ出稼ぎなどで働く方が多かったため、ちゃんぽんに腹持ちの良いあんをかけたのが発祥とされています」



尼崎市に工場を構えるラムネ菓子の老舗卸会社「岸田商事」が製造・販売する「あまらむね」は、インスタ映えするカラフルな見た目で若者にも人気の尼崎土産となっているという。

○尼崎の最大の魅力は “人”



「戦前から阪神工業地帯の中心として栄えてきた尼崎は、昔からいろんな地域からさまざまな背景を持つ方がやって来ることで成り立ってきた街。私自身は尼崎で生まれ育ちましたが、多様な人を受け入れる気風が強く、多くの人が肩肘張らずに伸び伸びと暮らせる街だと思います」



上方落語界の人間国宝である故・桂米朝さんが長年在住していた尼崎は、現在も多くの芸人が住むお笑いの街でもある。漫才などのお笑いの要素を取り入れ、行政の課題や事業・制度などを伝える「元漫才師公務員のお笑い行政講座」を展開するなど、地域資源としてお笑いを活用する。



「平成28年からは尼崎市主催で、「尼崎落研選手権」を開催し、毎年10校ほどの大学の落語研究会が参加。尼崎に馴染みのない関東の大学生にも尼崎に足を運んでいただく機会になっています」



積極的に市民を巻き込んだ街づくりに注力している点も尼崎市の特徴だ。個人の経験やアイディアを共有し、各地域の課題解決を目指す「みんなの尼崎大学」には、これまでに約3万人が参加している。


「住人の方々に尼崎のことを好きになってもらえなければ、いくら外向けにPRしても意味がないですし、街や地域の課題は住民の方々の協力がなければ、地域の課題は絶対に解決できません。尼崎の最大の魅力はやっぱり“人”なんです」



累計約1,700件の市民講座が展開されてきた「みんなの尼崎大学」から始まったイベントの一例が、今年5回目の開催を迎えた「押しチャリンピック」なるコンテスト。



パンチの効いたオッチャンがガニ股でチャリに跨り、商店街を行く様はいかにもチャキチャキの尼っ子といった風情だが、危ない。



自転車マナー向上に悩む三和本通商店街の相談で誕生した「押しチャリンピック」では、ピンポン球を頭に載せて自転車を押す姿勢の美しさと、標準タイム「1分」との時間差を競う。



さすが笑いの帝王を生んだ街。自転車マナーの啓発イベントも一味違うが、なんでもネタにしてしまう姿勢こそ、尼崎という街のエネルギーの源になっているようだ。



「住民の方をはじめ尼崎に関わる多くの方々と街の課題にしっかり向き合う、そんな地道な活動が成果として現れつつあるのかなと思います。尼崎らしい魅力やおもしろみを感じていただけるような発信をして、人情味があって多様な要素を持つ尼崎のファンを増やしていきたいですね。それぞれの事情で尼崎から違う街に引っ越しても、引っ越し先で「尼崎に住んでいたよ」と胸を張って言ってもらえる街にしたいです。「大阪のほう」とかボヤかさずに……(笑)」(伊藤綾)