2021年12月24日 10:11 弁護士ドットコム
毎朝子どもを保育園に送っている都内在住の会社員ケンタさん(40代)は、ある日玄関のところにある「落とし物コーナー」で気になる表示を見つけました。
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落とし物コーナーには保育園内で見つかった落とし物が集められており、タオルと靴下が2点だけ置かれていました。原則として持ち物にはすべて名前をつけておくルールになっているので、持ち主不明の落とし物は多くないようです。
気になったのは落とし物そのものではなく、コーナーの端にあった注意書きです。そこには「ここに置かれて30日が経過した落とし物については保育園で処分します」と書かれてました。
ケンタさんは、「誰のものかもわからない落とし物を保育園としてもいつまでも預かっていられないということなのだろう」と書かれた内容に理解を示す一方、「落とし物とはいえ、30日経ったら勝手に処分していいのかな」と疑問に思いました。
保育園などの施設内で見つかった落とし物はどのように管理されるべきものなのでしょうか。また、30日が経過した落とし物は勝手に処分しても問題ないのでしょうか。高島惇弁護士に聞きました。
——保育園などの施設内で見つかった落とし物について、施設側はどのように管理すればよいのでしょうか。
まず法律論として述べますと、仮に施設内で遺失物があった場合には、施設占有者として速やかに当該物件を遺失者に返還し、または警察署へ届け出る必要があります(遺失物法13条1項)。
この規定は、駅や遊園地など特定の施設では免除されるのですが、保育園や小学校の場合はかかる免除対象に含まれず、遺失物法に基づく法的義務が生じています。
そして、施設占有者は、遺失者に返還するなど行うまでの間、善良な管理者の注意をもって遺失物を取り扱わなければならないのです(同法15条)。
そのため、保育園内で見つかった落とし物についても遺失物法が適用される以上、物の管理など法に基づいて適切に対応する必要があり、少なくとも警察署へ届け出ることなく勝手に処分するのは違法の疑いがあるという結論になります。
——すべての落とし物に遺失物法上の法的義務があるとなると、施設側としては大きな負担となりそうです。
一方で、すべての遺失物を都度警察署へ届け出るのは現実的に難しい側面もあり、とりわけ保育園の場合、遺失者が在籍する児童またはその保護者である蓋然性はかなり高いものと思料します。
そして、仮に所有者が遺失物の所有権を任意で放棄した場合には、施設占有者として処分しても何ら問題ありません。
そこで、一定期間経過した遺失物については保育園で処分できる旨、各保護者との間であらためて合意を得たり、入園の際にそのような処分に同意する旨一律に書面を求めるのは比較的有効かもしれません。
仮に一律の同意が得られない場合は、警察署へ届出後通常3カ月を経過すれば施設占有者に所有権が帰属するため(同法37条1項)、警察署へ届け出て期間の経過を待つのがより確実な対応かと思います。
——あらかじめ処分できるよう対応しておくのも一案ということですね。
保育園や小学校における遺失物の取り扱いについては、厚生労働省などから特段通達もなされておらず、現場対応として意外に悩ましいものではないかと思います。
もっとも、「靴下だから」と安易に考えて同意なく処分してしまえば、保護者との間でトラブルが生じる可能性もありますので、迷った場合はとりあえず警察署へ届け出ることをお勧めいたします。
【取材協力弁護士】
高島 惇(たかしま・あつし)弁護士
退学処分、学校事故、いじめ、体罰など、学校内におけるトラブルを精力的に取り扱っており、「週刊ダイヤモンド」にて特集された「プロ推奨の辣腕弁護士たち」欄にて学校紛争問題が得意な弁護士として紹介されている。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp