2021年シーズンで6年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。高速市街地サーキットを舞台に初めて開催されたサウジアラビアGPでは、狭いレイアウトなだけに、F1、併催のFIA-F2で大きなアクシデントが発生。ハースもニキータ・マゼピンが避けようのない状況でマシンに大きなダメージを負い、小松エンジニアもレイアウトに改善が必要だと考えているという。
コラム第20回は、前編・後編の2本立てでお届け。前編となる今回は、第21戦サウジアラビアGPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。
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2021年F1第21戦サウジアラビアGP
#9 ニキータ・マゼピン 予選20番手/決勝リタイア
#47 ミック・シューマッハー 予選19番手/決勝リタイア
シーズン終盤の2連戦、まずは初開催のサウジアラビアです。ジェッダ・ストリート・サーキットに関していうと、高速ストリートコースを作りたいというコンセプトだったと聞いていますが、ちょっと改善が必要だという印象です。コース幅が狭く、ランオフアリアがあまりないので危険ですし、何かあれば赤旗の確立も高くなります。
木曜に歩いた時にはとにかくコースが汚かったのですが、これは走行前までにかなり改善されていました。走り出しのグリップは低めでしたが、これも思ったよりはよかったです。コース幅やレイアウト的にも慣れるのに時間がかかるサーキットだと思ったので、FP1では周回数を重ねることを重視。セットアップもまずはアンダーステア方向にして、ドライバーが安定して走れるようにしました。
FP2ではソフトタイヤをうまく機能させられず、ドライバー・チームによってはミディアムタイヤの方が速かった場合もありましたが、うちのクルマはソフトでも問題なかったですね。特に使いづらいという印象は持ちませんでしたし、温まり方も問題ありませんでした。
ただ予選ではアウトラップの渋滞が酷かったので、それによる影響はありましたが、これはタイヤの問題というよりはサーキットレイアウトによるところが大きいです。ピレリが持ち込んだC2、C3、C4という選択は妥当だと思います。もう一段硬いC1、C2、C3では路面のグリップを考慮すると硬すぎるでしょうね。
予選を振り返ると、ウチはタイヤの温まりに問題がなかったので、予選Q1では1ラップ(1アタック)のランを3回やりました。アウトラップの渋滞などがあったので、結構ギリギリのタイミングになりましたが、ウチにとっては正解だったと思います。ミックは走るたびに速くなっていきましたし、最後のランを開始する際に前が詰まっていましたが、焦ることなく落ち着いて最後のラップをスタートすることができました。セッション終了6秒前というギリギリのタイミングでのアタックラップ開始になりましたが、同じような状況になったアメリカGPと比べても、ずっと落ち着いて対処できていて成長が見られました。この難しい状況のなかできちんと1周をまとめて、18番手のランス・ストロール(アストンマーティン)とコンマ1秒差というのは評価していいと思います。
ちなみに、予選中にミックが「DRSが遅れた」と言っていましたが、作動が遅れた理由は単純にミックのミスです。DRSを作動させてよい区間に入るとステアリングにあるライトがついて、これがドライバーに対するシグナルになります。このライトがついた瞬間にドライバーはステリング上にあるボタンを押してDRSを作動させます。この動作が今回は少し遅れてしまいました。
これによるタイムロスはほぼありませんでした。それよりも、最終コーナー出口でオーバーステアを出したことによるロスが痛かったです。タラればですが、これが無ければストロールのタイムを上回れたと思うので残念です。
レースでは1周目にニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)を抜いて、その後はジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)について行っていたのですが、9周目に高速シケインのターン22進入を攻めすぎてクラッシュしてしまいました。いいペースで走れていて、カタールに引き続きウイリアムズに勝てる可能性のあるレースをしていたので残念です。
一方のニキータは、特に金曜はこの高速市街地コースに手こずっていました。FP3では一段階改善されたので、予選でどこまでいけるかなと思っていたのですが、残念ながら最後のランをうまくスタートすることができませんでした。アウトラップ終盤の渋滞で、最終コーナーでは5台のクルマがアタックの準備をしていました。ここで前のクルマ(セバスチャン・ベッテル)に近づきすぎたうえに早すぎるタイミングで加速し始めてしまったので、ピットストレートでほぼベッテルと並ぶかという位置になってしまいアタックを中止せざるを得ませんでした。こういう駆け引きや準備はもっと落ち着いてやれるようになりたいですね。
レースではペースが上がらずミックやラティフィについていくことができませんでした。セーフティカーが出た際には他車と同じようにピットインしてはまったく前に出れないので、ステイアウトを選択。予想どおり赤旗になったのでこのタイミングでロス無しでタイヤ交換を済ませ、ウイリアムズの2台の前に出られました。これは狙いどおりです。
しかし再スタート時に2コーナー出口でシャルル・ルクレール(フェラーリ)とセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)が接触し、ペレスがスピン。これを避けながらラティフィがコースを横切った際にラッセルが急激にアクセルを戻して減速しました。ニキータには前の状況が見えないので、そのまま前にいたラッセルに突っ込んでしまいました。ニキータは避けようがなかったです。
ニキータを含むこの複数台のアクシデントもそうですが、サウジアラビアでは併催のFIA-F2でも大きなアクシデントがありました。冒頭でも書きましたが、このレイアウトでは危険ですし、狭すぎると思います。ターン2出口から急激にコースが狭くなっていくのもよくないと思います。ブラインドコーナーが多いので、前で何か起こった場合に後ろからくるクルマはどうしても反応が遅れますし、壁に囲まれているのでどこにも逃げるところがありません。
またターン13のバンクも、どうせバンクを作るのならもっと大きなコーナーにしてもっとバンクをつけたほうがおもしろいですよね。特にザントフォールトのバンクを経験した後だと、あまりインパクトがないように感じました。来年の開催まで時間がありませんが、多重事故を避けるためにもぜひ安全面は改善してもらいたいです。