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皆で自由に歩き回れるVR・メタバースの世界 メディアアーティストが繰り広げるザ・ワールド

2021年12月21日 15:01  おたくま経済新聞

おたくま経済新聞

皆で自由に歩き回れるVR・メタバースの世界 メディアアーティストが繰り広げるザ・ワールド

 近年急速に発達している技術のひとつが、「メタバース」と呼ばれる3Dの仮想空間。従来のバーチャルと異なり、まるでリアル世界のように、アバターが様々なアクションを行える「ワールド」が特筆すべき点。


 その中で、メディアアーティストの坪倉輝明さん(以下、坪倉さん)は、累計アクセス数が500万回を超える「皆で自由に歩き回れるVR・メタバースの世界」を制作されています。


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「皆で自由に歩き回れるVR・メタバースの世界を作っています。公開ワールドの累計アクセス数は約570万回。メタバース クリエイター、メタバース関連銘柄ですよろしくお願い致します!」


 世界最大のVR(仮想現実)/メタバースのプラットフォーム「VRChat」で公開した作品(ワールド)を4点紹介した坪倉さん。それぞれ、「DANCHI – 団地」「Japanese Office – 坪倉仮想事務所」「坪倉仮想美術館 – Tsubokura Virtual Museum」「VERTEX: VRC Battle Royale」というタイトルの「空間」です。


 「DANCHI – 団地」は、「自分が見たい景色」を具現化したもの。


 「『夕暮れの団地や、住宅街近くの河川敷を友人と帰宅した』といった子供の頃からの思い出がベースです。山側には高速道路が通っていて、夜になるとオレンジの電灯や車のライトがキレイで……そんな懐かしさを感じられるような、『ノスタルジックな世界を造りたい!』と思って制作しました」


 「Japanese Office – 坪倉仮想事務所」は、今回紹介した中では最古の作品。2020年3月ごろに制作されています。


 実は坪倉さんの「本業」は、「現実とデジタルの境界線をあえて曖昧にした」メディアアート作品を制作している人物。作品は、企業のイベントや美術館などで展示されています。


 しかし、世界的にコロナウイルスが猛威を奮っていたのが2020年3月当時。多くの「リアルイベント」が中止になる中、坪倉さんも仕事(展示)が激減。


 一方、大きく増加したのが「自由時間」。それを生かし坪倉さんは、自身の3Dモデリングのスキルアップも兼ね、2017年から始めていた「メタバース」に本格的に関わることになったそうです。


 また、そのタイミングで注目されるようになったのが「テレワーク」。坪倉さん自身、フリーランスという立場で、在宅ワークで仕事を行っていることもあり、作品でもそれを反映させたとのこと。


 「常に自宅で仕事を行っているので、人と会うこともなく、外出も月に1回あるかどうかという程度でした。そこで、『VR空間でみんなで仕事(テレワーク)がしたい!』という気持ちが芽生え、制作にいたりました」


 またVR空間内では、アバターの身振り手振りに加え、他者の声の距離や方向も感じられ、口も声に連動して動くので、ビデオ会議より複数人の打ち合わせに向いています。


 さらに、自身の幼少期の思い出も取り入れたそうで、ワールドは『親の会社の事務所へ遊びに行かせてもらった時の記憶』がベース。


 「イメージは、『1990年代のオフィス』になります。事務所の他に、喫茶店や会議室も同居していますよ」


 「坪倉仮想美術館」は、ちょうど1年前の2020年12月に公開したワールド。先述の通り、コロナ禍で「リアル」で作品を紹介する機会を逸失した坪倉さんが、「それならバーチャルに創ろう」と逆輸入。


 そして最後の「VERTEX: VRC Battle Royale」は、現在鋭意製作中の最新作。上記3作と異なり、空間内でFPSゲームが遊べるワールドとのことで、VRゴーグルを装着して同じ空間にログインし、最大18人でマップ上で銃撃戦が行えるという仕様です。


 というわけで、自身のノスタルジーに仕事・遊びと、様々な角度からワールド作りをされている坪倉さん。つぶやきにもある通り、累計アクセス数は約570万回と高い評価を受けている作品です。


 しかしながら、坪倉さんの本業は「メディアアーティスト」。光と影を巧みに使用した作品は、国内外で高い評価を受け、総務省主催の「異能vation ジェネレーションアワード」では、2018年に作品「空想ジオラマ」が部門最優秀賞を受賞。


 また、編集部でも以前に紹介した「不可視彫像」でも、「VRクリエイティブアワード2017審査員特別賞」「Mashup Awards 2017 Interactive Design部門 優勝」を受賞されています。


 当時も筆者が執筆を担当したのですが、特に印象的だったのが、坪倉さんはコロナ禍を必ずしもピンチとはとらえていないという点でした。寧ろ「ピンチはチャンス」とばかりにメタバースに参入し、先鞭となる取り組みをされています。


 そもそも坪倉さんの場合、作品自体が「メタバース」と親和性が高く、金沢工業大学在籍時という早くからVRと関わってします。「時代が追い付いた」と表現した方が正しいのかもしれません。自身のインスピレーションをフルスロットルで伝えられる世界が、「メタバース」とも言えるのではないでしょうか。


 一方で、前回の取材時でも「リアルでも継続して活動していきたいです」という言葉もあった通り、今月(12月)4日から、滋賀県にある「佐川美術館」にて、リアル展示会イベント「魔法の美術館III」を2022年2月13日まで開催されています。


 新型コロナウイルスは、新たな変異種が猛威を振るい、依然として予断を許さない状況下にあります。この2年で、人々の生活は様々な点でデジタルに依存。今後さらなる技術発展があると想定されます。


 ただし、全てがデジタルになるとも考えにくくもあり、逆にリアルの重要性も見直されている側面もあります。そう考えると、「リアル」と「デジタル」双方でクリエイティブな表現を行える人間は大変な希少種。ひょっとしたら、「坪倉輝明」というメディアアーティストは、今後重要な担い手になるのかもしれません。





<記事化協力>
坪倉輝明@メディアアーティストさん(@kohack_v)


(向山純平)