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ライターが選ぶ「2021年コミックBEST10」立花もも編 このマンガを読んでこなかった自分が恥ずかしい!

2021年12月21日 11:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『ハコヅメ~交番女子の逆襲~(19)』泰三子

■2021年コミックBEST10(立花もも)


1位 『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』泰三子(講談社)
2位 『来世は他人がいい』小西明日翔 (講談社)
3位 『Deep Water<深淵>』清水玲子 (白泉社)
4位 『阿・吽』おかざき真里/監修・協力:阿吽社(小学館)
5位 『私にできるすべてのこと』池辺葵(文藝春秋)
6位 『空挺ドラゴンズ』桑原太矩(講談社)
7位 『世にも奇妙なスーパーマーケット』嶽まいこ(講談社)
8位 『たーたん』西炯子(小学館)
9位 『北北西に曇と往け』入江亜季(KADOKAWA)
10位   『ジーンブライド』高野ひと深(祥伝社)
番外編『魔法使いの娘』那州雪絵(新書館)


関連:ランクインした作品たち


■ドラマ化で興味を持った『ハコヅメ』


 2021年の超個人的なマンガBEST10。セレクト理由は、「何度読んでも飽きないどころかおもしろさを再発見し続けるエンタメ」。つまり今年、何度もくりかえし読んでいる作品である。どれも2021年中に新刊が出た作品であり、『このマンガがすごい!2022年度版』で上位10位にランクインした作品は除いている。


 1位は『ハコヅメ』。19巻も刊行されている作品を今さらどうしたとは言わないでほしい。今年ドラマ化されたのをきっかけに興味をもった、ミーハーな人間なのだ。読んでみて驚いた。19巻も続いていながら、中だるみするところが一つもない。かといって、緊張感が続いて読むのが疲れるということもない。常に、今読んでいる巻がいちばんおもしろいし、一刻も早く続きが読みたくなってしまうのである。その魅力についてはレビューにも書いたのでご興味があればお読みいただきたいが、正直言って全然語り足りていない。登場人物の一人ひとりがどれほどリアルな人格をもって描かれているか、コマの一つひとつにどれほど無駄がなくて、すべて未来への伏線となっているか。「警察官の実際を知られておもしろい」という以上に、人間ドラマの描かれように圧倒されている。こんなすごいマンガを今まで読んでこなかった自分が恥ずかしい。その衝撃も含めて、今年のベスト1である。


 『来世は他人がいい』は、いまさら紹介するまでもなく、来年あたり『このマンガがすごい』で1位を獲るんじゃないかと予想しているが、こんなに萌えるマンガには久しぶりに出会ったので2位に選んだ。関西最大の極道一家に育った女子高生・吉乃と、やはり関東最大の極道一家に育った男子高生・深山霧島。祖父同士の意向で婚約することになった二人のラブコメ。二人ともが容赦なく暴力的で、ネジがぶっ飛んでいるところがイイ。毎回、予想をはるかに超える吉乃のキレっぷりに、霧島と一緒に惚れ惚れし、夢中になってしまう。


 3位『DEEP WATER<深淵>』は、『秘密』シリーズで知られる清水玲子が14年ぶりに発表した完全新作。とある事件がきっかけで極度の潔癖症となってしまった刑事の高比良は、誰もが見惚れる美青年であり、ハンデを背負ってでも捜査一課が手放したがらないほど優秀な頭脳の持ち主だ。『秘密』の主人公・薪と通じるところがあるが、違うのは薪と違って彼には、救いとなるパートナーが存在しないことである。人間の弱さや暗部をえぐりだすような事件を通じて、高比良はどこにたどりつくのか。続刊が待ち遠しい。


 4位『阿・吽』も今更ではあるが、完結を記念して。仏の教えを追究し、真理を求め続ける空海と最澄の長い旅路を描いた本作。人はなぜ苦しみながらも生き続けねばならぬのか。どうすれば救われることができるのか。読みながら自己と対話せずにはいられない、哲学的な作品であるがゆえに、一読しただけではとても理解が及ばないが、読むたび迷いに光をあてて導かれるような心地もする。現代の経典ともいえる作品。


 5位は『私にできるすべてのこと』。ヒト型AIが大量生産されて20年、世界中で廃棄する流れが強まるなかで、喫茶店で働く少女を通じて、AIとの交流を描いた作品。奇しくも、同時期に刊行されたカズオ・イシグロ『クララとお日さま』と似たモチーフを扱っているが、着地点は同作とまた違う、池辺葵らしい柔らかな希望に溢れている。ちなみに現在連載中の『ブランチライン』もおすすめ(『このマンガ~』にランクインしている)。


 6位は『空挺ドラゴンズ』。私がノベライズを執筆していることもあり、身内贔屓になるだろうかと悩んだが、おもしろいものはおもしろい。上空を泳ぐ龍を捕って、食べて、生きる龍捕りと呼ばれる人々を描いた群像劇。だんだんとキャラクターの過去にも踏み込みはじめるなか、待望のヴァナベル編は胸アツでしかなかった。


 7位『世にも奇妙なスーパーマーケット』は、心にモヤモヤを抱えた人だけが訪れることのできる店が舞台。一粒食べただけでひらめきが舞い降りるお菓子や、囁くだけで恋愛感情が結晶化して手放すことができる瓶など、モヤモヤを解消する不思議なアイテムを店長がセレクトしてくれる。一話完結型で大きな躍動はないが、じわじわと染み入り、癖になる。


 8位は、血の繋がらない娘を育てる父親の苦悩を描きだす『たーたん』。恋愛経験ゼロなのに、殺人犯となったかつての同級生から赤ん坊を預かった主人公。母親のことを知りたがる年頃の娘を前に、いつ真実を話すか葛藤し続けているのだが、実の父親が出所して二人の周辺をうろつきはじめ、波乱に次ぐ波乱の展開に、一緒にはらはらさせられる。互いを誰より想い合う、ゆえにすれ違う、たーたん(お父さん)と娘の幸せを願わずにいられない。


 9位『北北西に曇と往け』の主人公は、アイスランドで探偵業を営む17歳の少年・慧。愛車と会話することが出来たり、ふしぎな力をもつ彼は、持ち込まれた厄介事を解決しつつ、行方不明の弟を探している。弟は果たして、本当に殺人犯なのか? 謎の行方も気になりつつ、アイスランドの壮大な情景描写に見惚れ、旅をしているような気分も味わえる。


 10位『ジーンブライド』。『私の少年』の高野ひと深が、現代社会における女性の生きづらさを描きだすフェミニズムマンガ……と思いきや、1巻のラストで怒涛のSF展開を見せつける、今もっとも先が読めない作品のひとつ。共感と圧倒。その二つを軸に物語はどんな飛躍を見せるのか。感想を言うにはあまりに情報が少なすぎるので、めちゃくちゃおもしろいけど、10位に。


 ちなみに番外編として推したいのが『魔法使いの娘』。2019年に完結した作品だが、LINEマンガでの連載をきっかけに知り、全巻一気買いしてしまった。陰陽師の父をもつ初音という少女が、怪異にまつわる事件を通じて、己の出生の秘密を知っていく本作。オカルティックなエピソードも抜群におもしろいのだが、個人的に、最強のラブコメを読んでしまったと見悶えている。こちらもあわせて、読んでみてほしい。