2021年12月20日 13:11 弁護士ドットコム
職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知って欲しい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。
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連載の第7回は「有給休暇が使えない」です。有給を使おうとしたら、会社に渋られたり欠勤扱いにされたりした人もいるかもしれません。
ですが、たとえ会社がなんと言おうと「一定の要件を満たした労働者は、法律上当然に有休を取得できるようになります」と笠置弁護士は話します。
会社と従業員の紛争の中で、年次有給休暇(有休)をめぐるトラブルというのは後を絶ちません。
例えば、会社がもともと休日と指定している日なのに、有休を使ったことにさせられたり、有休を使ったら欠勤扱いとされてしまい、手当や賞与の一部が支給されなくなってしまうといった相談が寄せられます。ひどい会社では、「うちの会社には有休なんてないから」と社長や役員が公言しているような会社もあるようです。
このようなトラブルが起きる原因として、企業側が有休のことを、「頑張っている社員だけが特別に取れるもの」だとか、「病気などの特別な場合に仕方なく与えなければいけないもの」などと誤解しているケースが大変多いように思われます。
労基法の中で有休取得が保障されている趣旨は、労働者が心身のリフレッシュを図ったり、自己啓発の機会を持つことで、より健康的に生き生きと働けるようにするためです。
本来はノーワーク・ノーペイ(働かなければ賃金が支払われない)が原則ですが、休んだら給料を減らされてしまうということでは労働者が自主的に休むことを期待できません。だからこそ、休んでも賃金が保障されるという制度を、法律で作り、各企業に義務付けているのです。
そのため、一定の要件(6カ月以上勤務し全労働日の8割以上出勤したこと)を満たした労働者は、法律上当然に有休を取得できるようになります。
このような趣旨で作られた制度ですから、有休を使用する際に、理由は問われません。有休はどのような理由であっても、自由に利用することができます。
会社によっては、有休申請書に「利用目的」を書かせ、目的によっては有休の利用を認めないといった運用をしているところもあるようですが、このような措置をとることは許されません。
裁判で問題になった事例では、会社側が年休日数を勝手に少なく変更したり、社内のルールとして冠婚葬祭や病気のときにしか有休が使えないようにしたりすることは違法であると判断され、裁判所が損害賠償請求を認容したというケースがあります。
従業員が有休を取りたい旨申請したことに対し、会社は一定の場合に拒否をすることができますが(時季変更権と言います)、有休が労働者にとって重要な権利であることに鑑み、その従業員にその期間休まれてしまうと、会社側が代替要員の確保等の予防措置を尽くしてもなお会社の事業が回らなくなってしまう可能性が生じるといった、よほどの例外的な事情がない限り、会社側が有休申請を拒否することはできません。
私が経験した中では、単に業務が差し支えるからと説明されるのみで、もともとギリギリの人員体制で業務を回しており、会社側が代替要員の確保等の予防措置を全く尽くしていないという事例が散見されます。これでは、有休申請を違法に妨害していると言わざるを得ません。
さらに巧妙な手段として、年休取得日を欠勤日として取り扱い、賞与や昇給、手当に不利益が出るように賃金制度を設定することで、年休を取得しにくくさせるという制度を採用している会社もあるようです。
しかし、労基法附則136条では、「使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない」と定められていますから、有休を取ったことを理由に賞与や昇給に差をつけることは違法であると考えられます。
実際に、裁判所で昇給や賞与の不支給や減額が争われた事例も存在します。ただ、手当に関しては、不利益となる金額が小さい場合、違法ではないと判断された事例もあるようです。
これから年末年始のシーズンを迎え、有休を利用される方も多くいらっしゃると思いますが、有休が使えない・申請できないという場合はかなり例外的なのだということを念頭に置いていただきながら、素晴らしい休暇を過ごしていただければと思います。
(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」では、笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)
【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「労働相談実践マニュアルVer.7」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/