2021年12月20日 10:11 弁護士ドットコム
東京・歌舞伎町で路上飲みなどをしながら、たむろする「トー横キッズ」。コロナ禍における10代、20代の若者の生態として、メディアを賑わせただけでなく、最近は暴行死など、深刻な事件でも悪目立ちしている。古株メンバーの1人と現場を回り、今後を考えてみた。(ジャーナリスト・富岡悠希)
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12月中旬の週末の夜、マナブさん(20代・仮名)と新宿・歌舞伎町1丁目にあるドン・キホーテ前で待ち合わせた。時間は午後7時15分ごろ。「新宿東宝ビル」横を略した「トー横」には、歩いて3分ほどで着く。
マナブさんは、トー横に若者たちが集まりだした2018年ごろから、顔を出している古株だ。ツイッターでは、自撮り写真や映像をアップしている「自撮り界隈」というグループがある。その有力メンバーが、リアルで会う場所に使い始めたのが、若者が集うきっかけだったという。
ネットで知ったマナブさんも足を運ぶようになった。浪人生や大学生が中心で、当時は「ともかく面白い奴」が多かった。アルコール度数が高い「ストロング缶」のチューハイ類を飲みながら、夜を明かした。
以来3年間、距離を置く時期がありながらも、定期的に顔を出している。今は、週1回ほどのペースだ。
ゴジラのオブジェを抱く「新宿東宝ビル」に向け、歌舞伎町セントラルロードを北上する。新型コロナウイルスの感染者が落ち着ていて、さらに週末の夜のため、人通りは多い。
同ビル前に来ると右に曲がる。ビル西側から北に伸びる道路が、トー横キッズたちのたまり場の路上だ。
しかし、この日はその姿はゼロ。待ち合わせをしている男性やマナー無視で路上喫煙している男女がいるのみ。筆者が7月下旬に撮った写真には、20~30人がたむろしている姿が映る。その差は歴然だ。
キッズは夏の終わりごろから、この場所にたむろできなくなった。新宿区が民間の警備員を配置し、声掛けを強化したからだ。8月下旬、筆者が植え込み脇に腰かけていると、警備員から「複数人で座るのはダメ」と注意された。
今、若者たちが集う場所は、同ビル東側の「シネシティ広場」、略して「広場」になっている。
――マナブさんは、トー横キッズがこの路上にいられなくなったことをどう受け止めている?
広場よりも、元々いたこっちの路上のほうが居心地いいよね。やっぱりなじみだし。ストロング缶を手に入れるコンビニ店員さんと顔見知りだし。
路上にいた夏ごろまでを振り返ると、たしかに目立ち過ぎたうえに、人数も増えすぎたかな。未成年が飲酒していたし、薬物の大量摂取によるオーバードーズ(OD)で救急車で運ばれた奴もいた。
前から「悪いことやっているから、奴らなんて排除していい」となる動きは警戒してたんだ。結局、そうなっちゃった。
――キッズたちが、自分たちでどうにかすることはできなかった?
僕たちが最初に来るようになってから、3年が経っている。暇な大学生だったのが、就職して忙しくなっている。やりたいことを見つけて、そっちの道に進んだ仲間もいる。カリスマ性があって統率できる人がいなくなった。
中心メンバーだった古株はいなくなる。かたやツイッター、TikTokやInstagram経由で、トー横にあこがれる中高生たちがどんどん来る。中高生目当てに少し上の層も集まる。こうなると、どうにかするのは難しいよ。
この日は路上で騒いでいる大柄な女性がいた。ときに植え込みの壁に頭をぶつけるなど、危なっかしい。なじみのコンビニで、350mlのストロング缶チューハイを手にしたマナブさんは、そんな彼女を遠目で見守った。取り乱している最中は声をかけても効果がないため、様子をうかがう。
女性が落ち着いたタイミングの午後7時45分、マナブさんは広場への移動を始めた。路上を北上し、「新宿東宝ビル」の脇を回る。ほんの2分ほどで広場に着いた。
広場には、いくつかのグループが陣取っていた。奥側ではおそろいの洋服を着こみ、ダンスの練習中。飲み会が終わったあとや、何かのイベント前後に休んでいるような姿もあった。
合計すると100人以上にはなるだろうか。そんな中、同ビルに近い最も北側に10人ほどのグループがいた。
ピンクや茶色の髪の毛の下にのぞく顔は、明らかに若い。厚底スニーカーで、バッグに大きめの人形をぶら下げていた男の子もいた。身なりから察するに、このグループはトー横の路上から流れてきたようだ。
マナブさんはその中に右手をあげて飛び込むと話をはじめた。
――さっき話していたのは、路上から流れきたトー横キッズたち?
集団の位置付けとしては、そうなるのだろうけど、はっきりと言いにくいかな。あの中で夏ごろからいるのは、もう1、2人ぐらい。あとは、広場に移動してきてから加わった子ばっかり。
メンバーの年齢は、見ての通りに若いよ。中高生を含む10代前半から20代前半に入るかな。見ての通りに女の子の方が多くて7割ぐらい。
――出入り自由な分だけ、入れ替わりが激しいと。
今年の秋は、特にそうかな。僕も一時期、足を遠ざけていたし。理由は、暴力的なチンピラ風の輩(ヤカラ)が増えたから。
一緒に飲んで話をしていると、粋がってやたら力自慢をしてくる。そんな奴と一緒にいてもつまんないでしょう。
11月下旬に傷害致死の疑いで、男性4人が逮捕された事件があったよね。「トー横キッズ」だとニュースになっていたけど、その呼び方どうかな。ここの広場にたまってはいたけど、仲間のキッズと言えるかな。
――もともといたキッズたちは、どこに行った?
路上や広場では、民間の警備員による声掛けだけでなく、警察が入るようになっているよね。この前、12月4日夜から5日未明にかけて、一斉補導があったし。
関わりたくないから、もう来なくなっている。LINEとかで連絡を取り合って、別の場所で会っている。
――現在、気温は10度以下。路上と広場で1時間ほどいるだけで、筆者は寒くなってきた。あのグループは、さほど厚着していないようだけど。
未成年だからと言っても、体は冷えるし、ずっと居たら風邪をひいてしまうかもしれない。冬にたむろするのは、しんどい面はある。それでも出会いを求め、居場所を求めて来ている。
家も学校も、どうにもならない。だけれども、同じ境遇の子たちとここならば会える。その力は強い。
事件の結果か、暴力的な輩が少なくなった。少しずつ、秩序を戻している。僕はこの冬もふらっと酔って、軽く飲んで帰るようなことを続けるつもり。
――来年、キッズたちはどうなっているか?
考えられるのは、二つ。トラブルがなくなり、路上か広場でみんなが緩やかに集まって楽しめる場所になる。もう一つは、トラブルが減らず摘発が続き、また別のエリアに移動する。
僕としては、もちろん最初の方を歓迎する。歌舞伎町はにぎやかで、やっぱ楽しいから。
別の用事があるというマナブさんは、取材が終わると、足早に歌舞伎町をあとにした。「ありがとうございました」。本来は、筆者が取材のお礼を言うべきだが、その前に彼から声をかけられた。
事件やトラブル絡みで報じられることが多い「トー横キッズ」と聞くと、怖いイメージを抱くのではないか。しかし、マナブさんはその反対で、礼儀正しい好青年だ。筆者が彼と同じ年だったころを思い返しても、彼のほうが大人として振舞えているように思える。
来年、キッズたちはどうなっているか――。最後の質問に、マナブさんは「キッズは消える」とは答えなかった。人生で最も多感な年ごろの子たちがリアルでゆるく集まれる場は、それほどまでに待望されているのだろう。
現に若者たちのたまり場を意味する「界隈」は、大阪や名古屋などにもできているという。来年は、トー横キッズの行方を追うと共に、こうした「界隈」も取材していきたい。