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【ネタバレあり】『最愛』最終回で響いた「真相は、愛で消える」 犯人が至った愛の形

2021年12月18日 08:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『最愛』(c)TBS

「真相は、愛で消える」


 そうポスターに掲げられていた本作のコピーが、ずしりと重く響く。金曜ドラマ『最愛』(TBS系)がついに完結した。


※以下、ネタバレを含みます。


【写真】『最愛』最終話で描かれた真犯人のエピソードカット


 梨央(吉高由里子)を取り巻く連続殺人事件の犯人は、加瀬(井浦新)だった。だが、たしかに加瀬は罪を犯した人ではあるが、その罪を重ねても守りたかったものを思えば、“犯人”という一言で片付けるにはあまりにも心が苦しい。加瀬がしたことは正しいことではないが、間違っていたのだろうか。その結論を出すのは、簡単なことではない。


 梨央を愛するという意味では、事件を追う刑事・大輝(松下洸平)と加瀬は同志だった。その大輝がすべての真相にたどり着いてしまうのも、きっと必然だったのだろう。藤井(岡山天音)による誘導尋問のようなやりとりではっきりとしたはずだ。犯罪に手を染めることもいとわない、そのくらいの強い想いで梨央を守るとしたら、もはや自分以外には加瀬しかいないのだから。


 大輝も、そして視聴者も祈るような思いだったに違いない。「加瀬さんではありませんように」と。しかし、その願いもむなしく、橘しおり(田中みな実)の死亡推定時刻がズレたことをきっかけに事件に加瀬が関与していることが次々と繋がっていってしまう。加瀬を追いながら大輝は「なんで一線を踏み越えた? 踏み越えてまったら戻ってこられんやろ」と問いかける。


 きっと大輝にはわかっていたのだろう。加瀬はこのまま梨央と優の前から姿を消す。それは、彼が罪を逃れるためではなく、それさえも梨央を守るため。加瀬が捕まることは、すなわち梨央たちに罪悪感を植え付けることになる。せっかく認められた新薬にも、また好ましくない批判がつく。ならば、すべての因縁と共に自分が姿をくらまそう。それが、加瀬の至った愛の形だった。


「法律では守れないものがあるからです」。この言葉を、法律を盾に戦ってきた弁護士の加瀬から出たことに胸が痛む。一方で、どんなに許されない人をも法のもとで裁き、苦しんでいる人を助けたいと願った刑事の大輝が、この言葉を受け止めるやるせなさ。この社会は、あまりにも法律では救われないことが多い。そのことを、他の誰よりも知っていることが辛かった。


 だから、加瀬は梨央たちのもとから離れ、大輝も加瀬のことを話さないことを決めたのだ。加瀬にとって梨央たちのそばに二度と戻れないということは、警察に捕まるよりも、ある意味では極刑に処されるよりも辛いことだったに違いない。そして、その事実を知らせないということが大輝のできる梨央の笑顔を守る唯一の方法だから。


 対して、梨央も加瀬のしてきたこと、そして突然いなくなった理由について、薄々気がついている。その上で、新たなブラックボックスを抱えて生きていくことを選んだ。それが、結果的に加瀬を守ることにもつながるとわかっているからではないか。もちろん、大きな秘密を胸に生きていくことは簡単なことではない。


 後藤(及川光博)が、梨央の母・梓(薬師丸ひろ子)と面会し、寄付金詐欺に手を染めたのは自分であると告白するつもりだと伝えたときに、「秘密を抱えて生きる人生を受け入れるのは難しいです」と言っていたのを思い出す。その重みに耐えながら一生を過ごすというのは、並大抵の覚悟ではできない。


 後藤の場合は、その罪を認めることで、梓の背負おうとしていたものを一緒に持つことができるという“希望”があった。だが、加瀬、大輝、そして梨央がこれから抱えていく秘密には、明かすだけの希望が今のところ見つからない。


 「探さないで」「そのままにしておいて」。そう梓が、あの赤いペンの行方について語った言葉は、加瀬のことを言っていたように思う。梓はきっと不正に手を染めた後藤を黙認していたように、加瀬のこともわかっていたのだろう。それでも口をつぐみ続けてきた愛情にまた苦しくなるし、それだけ真田ファミリーは紛れもなく“家族”だったのだと痛感する。


 本来は、きっと誰もが一点の曇りもなく生きていきたいはずだ。でも、そうはいかない事態が訪れるのが、人生だ。そんな割り切れない世界を白黒つけようとうするのが、法律だ。ときには愛ゆえに、多くの人から「間違っている」という道を選ばずにはいられない人もいる。それを何も知らない第三者が、どこまで「罪だ」と咎めることができるだろうか。


 愛すればこそ、人は自分自身の人生を放り投げてでも守ろうとする。ときには、最初から愛など知らないほうがよかったのではないかと思うほど、苦しい局面を迎えてしまうことも。そんな理不尽な世界に救いがあるとすれば、最後に加瀬が残した「人生最良のこの十六年間に感謝します」という言葉ではないだろうか。


〈君に夢中 人生狂わすタイプ ここが地獄でも天国 バカになるほど 君に夢中〉


 加瀬の決意を思うと、主題歌「君に夢中」の一節が頭の中を流れる。地獄のような日々さえも天国と思える。苦悩続きの日々が人生最良といえる。そんな人生を狂わされるほど夢中になれる人と出会えること、そしてその人を想って生きることそのものが、人が生きる醍醐味なのだと気づかせてくれるドラマだった。


 どこか合理主義で、何事も損得勘定で生きがちな現代に、これほど泥臭く愛を語る作品に出会えたことに感謝したい。ラストまで先が読めない構成に、科学的なアプローチを取り入れた誠実な事件の究明、そしてキャラクター1人ひとりの背景に思い入れを感じさせる作り込み。このドラマそのものがエンタメを作り出すスタッフやキャストたちの“最愛”で作り上げられているのを感じた。


 そしてどんなラストでも受け入れると、心してラストまで見届けた視聴者の愛もまた、この作品を大いに盛り上げた。愛を貫くのはこんなにも苦しくて、そして幸せなことである。ここは、加瀬が新しい目標に向かっているのだと信じて、私たちもまた新たな愛を探す旅に出る覚悟を決めようではないか。


(佐藤結衣)