高知競馬の人気ジョッキー・別府真衣さんが11月、調教師試験に合格した。11月末でジョッキーを引退し、12月1日付けで調教師となった。調教師としての活動は、本名の「宮川」を使用するという。調教師としてのスタートを切ったばかりの宮川真衣さんに、調教師を目指したきっかけや今後の夢を聞いた(取材・文:箕輪 健伸)。
ジョッキーは辞めても馬の仕事は辞めたくない
宮川さんは、調教師を目指した経緯を次のように語る。
「数年前から、自分の思い描くレースができなくなってきたと感じていました。ずっと悩んでいた中で、2019年7月に一度、思い切ってジョッキーを休業。2020年には騎乗を再開しましたが、なかなか感覚は戻らなかったですね。それでジョッキーはもう限界かなと引退を意識しました」
「ただ、ジョッキーは辞めるにしても、馬の仕事は絶対に辞めたくない。調教師に挑戦することは自然な流れでした」
宮川さんは、同じ高知競馬に所属する宮川実騎手と2018年に結婚した。調教師を目指すことについては、夫にも相談したという。
「夫は、私のやりたいことを理解し、応援してくれる人で、調教師になりたいと夫に相談したときも、『挑戦したいのなら頑張れ、応援するよ』と言ってもらえました」
もう一人、調教師になりたいと相談した人がいた。宮川さんの実父で、競馬の師匠でもある別府真司調教師だ。
「父はとても喜んでくれました。自分と同じ道を選んでくれたという思いもあるでしょうが、一番大きかったのは『やっとジョッキーを辞めてくれる』という気持ちじゃないですかね(笑)。ジョッキーという仕事は、やっぱりケガがつきもので、心配だったんでしょうね。ここ数年は特に、『ジョッキーはいつまでやるの?』『辞めないの?』とよく聞かれていました」
目標は地方交流重賞
引退レースの騎乗
調教師としての今後の夢は、「もちろん強い馬を作ることです」と話す。
「地方交流重賞で活躍できる馬を育てることが大目標です。そのためには、いろいろな知識や経験を身に付ける必要があります。現在、高知競馬場には馬房に空きがなく、開業は馬房が空き次第となりますが、この期間をチャンスととらえて、いろいろな厩舎に勉強に行かせてもらう予定です」
地方交流重賞とは、中央競馬、地方競馬の垣根を超えて出場できるビッグレースのこと。地方競馬所属の多くのホースマンにとって、各地で行われるダービーとともに大きな目標となるレースだ。
また、調教師は、厩舎の経営者でもある。彼女にも、目指していく理想の厩舎像がある。
「働く人が働きやすい厩舎、働いているすべての人が幸せでいられる厩舎を目指します。最近、競馬業界で働きたい女性も増えていますので、ゆくゆくはそういった女性たちの受け皿になれたら最高ですね」
JRAで女性調教師が誕生する可能性は
父、夫との3ショット
なお、地方競馬の女性調教師は、宮川さんで6人目だ。今年7月に名古屋競馬で沖田明子さんが調教師になっており、1年に2人の女性調教師が生まれている。地方競馬関係者は「今後、ますます増えていくのでは」と語る。となると、気になるのはJRA(日本中央競馬会)だ。JRAでは、女性ジョッキーはいるものの、いまだ女性調教師は誕生していない。
競馬専門CSチャンネル「グリーンチャンネル」の解説者で競馬評論家の古谷剛彦さんは「数年のうちにJRAでも女性調教師が誕生する可能性はあります」と話す。
「JRAでこれまで女性調教師がいなかったのは、単純に競馬関係者に女性が少なかったことが理由です。女性ジョッキーの数が増え、女性厩務員も年々多くなっています。その中から調教師を目指す人が出てくることも十分考えられるでしょう」