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『最愛』のラストは企画段階から決まっていた? 新井順子Pが語るサスペンスドラマの苦難

2021年12月17日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『最愛』(c)TBS

 先の読めない展開で話題を集めている金曜ドラマ『最愛』(TBS系)が、12月17日に最終回を迎える。主人公の梨央(吉高由里子)を取り巻く15年前から現在へとつながる連続殺人事件。その真相を追う梨央の初恋の人であり刑事の大輝(松下洸平)との純愛。親子、姉弟、血のつながらない家族……それぞれの“最愛”が絡み合った先に行き着く結末とは!?


【写真】『最愛』最終話の最新カット8点到着


 すぐにでも観たい楽しみと、真実を知ってしまう怖さと、これで見納めになってしまう寂しさと。複雑な思いを抱えている視聴者も少なくないのではないか。そんな最終回直前のタイミングで、新井順子プロデューサーがインタビューに登場。視聴者への“ラストP’sヒント”とも言えるクライマックスの見どころ、愛情たっぷりの制作現場の秘話、そしてまだ見ぬ次回作への意欲について語ってくれた。(佐藤結衣)


■企画段階から決まっていたラスト


――謎が謎を呼ぶストーリーに、視聴者の中には“考察班”も多数出現して新井さんからの“P’sヒント”にも注目が集まっていました。出す側としての心境はいかがでしたか?


新井順子(以下、新井):ヒントを出すのって本当に難しいんですよね。伝えたいことはあっても、まだ伝えちゃいけないこともあるし。それにあまりにバレバレだと、それはそれで面白くなくなっちゃうし……。でも、視聴者のみなさんがSNSやYouTube動画などで盛り上がっているのをちょこちょこチェックさせてもらっていました。基本的には好きなように楽しんでいただけたらと思っているんですが、こちらが意図していない形で伝わってしまっている誤解のようなものは解いていかないとなって。


――例えば、どのような形で?


新井:「達雄さん(光石研)が自殺なんじゃ?」「いや殺されたんだ!」という見方をされている声があったので、“これはちゃんと病死だったんだと伝えなくちゃ”と思いまして。ひっそり本編のダイジェストにセリフを追加して“そこは深読みしても何もありませんよ”って気づいてもらえるようにしました。どんな考察も否定しないでいきたかったんですが、1つだけ明確に「それはない!」って言わせてもらった意見があって。「梨央と加瀬さん(井浦新)が実は親子だ」っていう声には「加瀬さんのこと何歳だと思ってんの!」ってツッコませてもらいました(笑)。


――(笑)。その井浦さんがインタビュー時に、加瀬を演じる上で「“加瀬らしさ”の枠にとらわれないようにチャレンジした部分もあった」とおっしゃっていましたが、新井さんから見て印象的なシーンはありましたか?


新井:現場で見ていて「あ、加瀬さんそういう言い方するんだ」みたいなことは多々ありましたね。特に印象的だったのは「1人で行くなって言ったよね?」「勝手になんで会うかなぁ」みたいな感じで梨央を叱ったときの距離感の絶妙さ。かと思えば、第6話では弁護士としてビシッと決めていましたし。加瀬さんが“ただいい人”みたいにならないように、いろいろな表情があることを見せてくれたなって思いました。


――『最愛』をはじめ新井さんの手掛けてこられた作品は、登場人物のキャラクターがステレオタイプではなく、その作り込みが物語を生々しくしているのかなと感じています。そしてキャストのみなさんも、そこに挑む楽しさを見出しているように思えるのですが。


新井:ドラマを作る上で、人間模様を描かずして何を描くんだという思いはありますね。キャラクター1人ひとりに積み上げてきた人生があるわけじゃないですか。その背景を描くことで、人間模様がより見えてくるというのは、自然とやろうとしているところだと思います。ドラマを観ていて、「え、なんでこの人こんなこと言うの?」とか「第1話で言ってたことと第5話で言ってたこと違くない?」ってなると、気持ちが悪いじゃないですか。その人がこのセリフを言う必然的な理由が見えてこないと納得できない。私自身が視聴者目線でそう思うから、作るときにもその感覚は譲れなくて。『最愛』に関しては15年繋がっている物語なので、“15年前のあれが今のこれに繋がっている”みたいに、より細かいところまで紐付けて考えていかなければならなかったところはありますね。


――視聴者のみなさんが気になっているラストについては、企画の段階から決まっていたのでしょうか? それとも撮りながら調整されていったのでしょうか?


新井:「犯人、この人でした」までしか企画書の段階では書いていませんでした。なので、どう終わるかは作りながら悩んだところではあります。「あの人が犯人で、こういう心情だった」みたいなところも決まっていたんですが、それをどう見せていこうかと。


――ちなみにキャストのみなさんはラストの台本を受け取るまで結末を知らないとお聞きしました。


新井:それぞれに反応がありましたね。最初、そのシーンには関係ない人の最終話の台本は真っ白のページにして配ろうかなと思ってたくらい(笑)。


――では、最終回のP’sヒントは……?


新井:「それぞれの最愛はなんだったのか」ということしか言えない(笑)。ヒントになってないですかね? それ以上は何を言ってもネタバレにしかならないので、もう「観てください」としか!


■笑いの絶えない現場のギャップ


――物語と並行して、キャストの方々が写真を撮り合ったりスタッフのみなさんを紹介したりと、SNSを通じて『最愛』チームの一体感も話題になっていました。


新井:ピリピリした本編と素で戯れるSNSとのギャップがいいんですかね? サスペンスだと「今週こういうことがあります」とは言えないから、「現場でこうでした」「こんなスタッフがいます」とかを出すしかなかったっていうのもありますけど(笑)。


――和気あいあいとしたチームを作り上げるために意識したことはありますか?


新井:どうなんでしょう? でも私と塚原あゆ子監督がノリツッコミしたり、すごくシリアスなシーンを撮っているのにNGが出た瞬間「やってまった~!」って笑いが起きたり、たしかにサスペンスとは思えない現場ですね。主演の吉高さんが本当に現場を明るくしてくれるので、チーム全員もいい空気感で仕事ができているんだと思います。


――今回、優を演じた高橋文哉さんにも注目が集まりましたね。


新井:優の役はオーディションとかではなく、“売れる匂い”というか“いい気がする”という直感で決めました。ただ、今回の優はかなり難しい役でもありましたし、塚原監督が手掛けた『夢中さ、きみに』(MBS)にも出ていたので、監督にも相談して。あとは、吉高さんと横顔とかちょっと似ていますし。


――そうですね、透明感のある雰囲気も。


新井:梨央が優をギュッとしたり頭をポンポンするようなシーンも多かったので、そうしたバランスの良さも大切にしました。ラブの愛しさではなく、「この子のためだったら何でも頑張れる」みたいな姉弟としての愛しさが出るように。ある意味、可能性にかけたキャスティングだったところもありましたが、優の役を通じて格段に成長してくれたなと思いました。監督からの指導や吉高さん、松下さんの芝居を受けて、どんどん吸収している感じがします。


■次に作りたいドラマは?


――第7話で梨央と大輝の手が触れ合って、そのままキスしそうだったのに笑い合って終わったあのシーンは、どのように生まれたのでしょうか?


新井:あそこは最初キスしようかなと思っていたんですよ。実際にプロットではそう書いてもらっていたんですけど、読んでいるうちになんか違うなと思って。「やっぱりしなくていいです!」と(笑)。ただ、見つめ合うだけもおかしいので、第1話でお守りを渡して「早く言いなよ~」とか言ってた梨央と大輝に、戻ったようにしたかったので「じゃあ、笑い合おうか」という形になりました。


――近づいたり離れざるをえなかったり、一進一退する2人の関係性に切なさを感じました。


新井:当初から、ロミオとジュリエットみたいな切なさはこだわったところでした。第6話までは刑事と容疑者の禁断感を出して、大輝が異動したことで第7話で近づき、そのあとまた2人を引き裂く……みたいなことは決めていました。


――切なさを際立たせるために、力が入ったシーンはありますか?


新井:第6話で、行こうとする梨央を大輝が引き止めて抱き寄せるシーンは、私が松下さんに「こうやってくれ」と実演して見せました。たしか、私が大ちゃんになって、松下くんが梨央になったのかな(笑)? でも、やっぱり2人から自然とにじみ出るカップル感がいいですよね。2人とも左利きだし、実際に仲がいいし、「結婚しちゃいなよ」みたいなコメントが寄せられるのも、ちゃんと2人で空気感を作られているからだろうなと思います。


――もともと『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)で吉高さんのシリアスな表情を見て『最愛』に繋がったというお話がありましたが、今回『最愛』を撮る中で「次はこういう作品を作りたい」というイメージは湧きましたか?


新井:吉高さんと松下さんで幸せな話がやりたいですね(笑)。サスペンスじゃなくて、ハラハラしない明るいラブコメディ。やっぱり重たいものを作った後は、軽いものを作りたい反動が来るので。台本は主人公の気持ちになって作っていくので、『最愛』は胸が苦しくなりましたから。サスペンスは大変です!


――サスペンスの最も大変なところはどういったところでしょうか?


新井:いかに飽きさせず見続けてもらうところですね。今まで、湊かなえさん原作のサスペンスを3本やってきて、いろいろな反省点がありました。なので、『最愛』では構成的にかなり攻めたところがあって。第2話で動画の中身を見せちゃうとか、第5話である意味最終回みたいなことをやってみるとか。秘密を引っ張って後にもっていくほど「もういいや」みたいに脱落していっちゃうじゃないですか。だから1つわかったけど、そこからもう1段階、さらにもう1段階、そうした先に本当に真実があるのか? ……と、興味を持ち続けてもらえるように作っていくのがとても難しかったですね。


――そうして作り上げた『最愛』の最終回直前、今のお気持ちは?


新井:いやー、まもなくゴールするなと。1人で企画を考えた時期から2年ぐらいやってきたので。あとは、オンエアした後の反応が怖い(笑)。かなり挑戦した最終回なので、どんなリアクションが返ってくるのかドキドキしていますけど、そういう“最愛”もあるのかなという最終回にしてみました。「うわー!」「あー!」と叫びたくなる結末だと思うので、ぜひ最後まで楽しんでください。


(取材・文=佐藤結衣)