2021年12月16日 09:41 リアルサウンド
■2021年コミック・ベスト10(若林理央)
1位 『僕たちのリアリティショー』ふみふみこ(講談社)
2位 『ミワさんなりすます』青木U平(小学館)
3位 『あだち勉物語~あだち充を漫画家にした男~』ありま猛、監修:あだち充(小学館)
4位 『幻怪地帯』伊藤潤二(朝日新聞出版)
5位 『九条の大罪』真鍋昌平(小学館)
6位 『ひとりで生きるはままならぬ』津野みぞ子(オーバーラップ)
7位 『DEATH NOTE短編集』 小畑健、原著:大場つぐみ(集英社)
8位 『ひとくい家族』福満しげゆき(双葉社)
9位 『当然してなきゃだめですか?』シモダアサミ(祥伝社)
10位 『僕らが恋をしたのは』オノ・ナツメ(講談社)
関連:ランクインした作品たち
コロナ禍の閉塞感を打ち破るかのように、2021年は漫画関係の話題に事欠かなかった。『進撃の巨人』の連載終了、『劇場版 鬼滅の刃』の大ヒット……人気長編漫画のニュースが続いた。一方で、多彩な漫画が続々と誕生したことも忘れてはならない。
2021年1月から12月に第1巻発売された新作の中で、漫画というエンターテイメントの可能性を改めて感じた漫画を挙げた。
■『僕たちのリアリティショー』
私の中で1位にランクインしたのは、心の機微を描くことに長けた漫画家・ふみふみこの最新作『僕たちのリアリティショー』だ。
軸となるのは恋愛リアリティショーに出演している新人女優いちかと、いちかの幼なじみの青年・柳だ。
柳は淡々とした作業を好む地味な青年だが、繊細ないちかに誰よりも寄り添える存在である。例えば序盤、いちかの突然の死を知ったとき、彼は自ら命を断ったいちかに対し「ごめんね」と自分を責める。
その後、時は半年前に遡り、柳といちかの体が入れ替わったところから物語は展開する。体が柳になっても、いちかの生き辛さはいちかだけのもので、柳はそれを理解したうえで「死なせたくない」と願う。
死にたいと言う人に「死ぬな」と呼びかけるのは簡単だ。だが、それは本当に相手の身になって放たれた言葉なのだろうか。柳は死に至るまでの心の苦しみを想像したうえでいちかに「生きていてほしい」と思う。
「死ぬな」と「生きていてほしい」には大きな違いがある。本作は自らの苦しみ、身近な人の苦しみに思いを馳せながら読むことができる名作なのだ。
■『ミワさんなりすます』
『ミワさんなりすます』を読んだとき、どのジャンルにも縛られない自由と新しさを感じた。本作の主人公はアラサーの女性ミワ。彼女は行き違いから「激推し」の俳優・八海のなりすまし家政婦になる。
読者は、いつミワの正体がばれるのかひやひやしたり、八海が自信のないミワを肯定するくだりにときめいたりしながらページをめくる。それだけではなく、本作には笑いの要素も詰め込まれている。
サスペンスか恋愛ものかギャグか……。
『ミワさんなりすます』の物語の軸はぶれることがない。それなのに本作を読むと、多様なジャンルのエンターテイメント作品が持つ魅力がまるごと味わえる。
■『あだち勉物語』
コメディタッチでギャンブル依存を描いた90年代の隠れた名作『連ちゃんパパ』。インターネット公開により話題になったのは去年のことだが、実はありま猛は心あたたまる作品も多数発表している漫画家だ。『歓迎たけや旅館』(リイド社)や『きっといつかは幸福寺』(秋田書店)など、画力と物語性、どちらをとってもスキルがずば抜けていて読み応えがある。
今年、巨匠・あだち充の兄でもある漫画家・あだち勉を主人公にした実録青春物語『あだち勉物語 ~あだち充を漫画家にした男~』がありま猛によって発表された。
ありま猛が10代で漫画家を目指していた頃、師匠になったのが、今は亡きあだち勉なのだ。本作はあだち充も監修に入っている。
作品からは「あだち勉」というひとりの人物への深い洞察力が感じ取れる。あだち勉を取り巻く漫画家や編集者も個性豊かに描かれ、ありま猛の才能にも驚かされる作品だ。
■暗い世の中でも漫画には可能性が満ちていた
自分が感銘を受けた今年の漫画を振り返ると、2021年は以前から他作品で評価を得ている漫画家が、新しい切り口の作品を発表し、漫画の可能性を切り開いてくれた年でもあったと感じた。
「漫画の表現はどこまでがOKでどこからがアウトか」ということが叫ばれて久しいが、個人的な意見としては、漫画家たちには漫画という表現媒体を介して「表現の自由」を私たち読者に感じさせてほしい。きっとそこから、漫画界の新たな流れも生まれるはずだ。
2022年も、自分の価値観を変えてくれるような、多種多様な漫画が誕生することを心待ちにしている。