トップへ

『ドクターX』積極的な姿勢が高視聴率の秘訣? コロナ禍もネタにする貪欲さ

2021年12月16日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ドクターX~外科医・大門未知子~』(c)テレビ朝日

 2年ぶりの第7シリーズとなった『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系、以下『ドクターX』)が最終回を迎える。これまでのシリーズと比べて視聴率低下が報じられることもあったが、視聴率はエンディングに向けて尻上がりに上昇中。ファンの満足度もおおむね高いように見える。


【写真】『ドクターX』で再び注目された要潤


 度肝を抜かれたのは、第1話で新型コロナウイルスの話題をガッツリ取り入れてきたことだ。田口トモロヲによるナレーションはこのように語っている。


「2021年、百年に一度のパンデミックの嵐が吹き荒れ、世界中で医療崩壊が起きる中、日本の白い巨塔は火事場の馬鹿力を発揮し、しぶとく持ちこたえていた」


 大門未知子(米倉涼子)がPCR検査で陽性と診断されるショッキングなオープニングから始まり、登場人物がマスクを着用しているのは当たり前。「マイクロ飛沫」「エアロゾル」「リモート会議」「クラスター」「バブル方式」「不要不急」などの言葉が飛び交い、大学病院内では看護師たちが何カ月も帰宅できずに働き続けているという疲弊しきった状態。新キャラの蜂須賀内科部長(野村萬斎)が大学病院で力を持ったのもパンデミックが原因だった。


 このままのペースでコロナ禍での大門の活躍を描くのかと思いきや、第1話から第2話まで物語上の時間が一気に3カ月飛ぶという荒業を見せて、コロナ禍の描写はやや落ち着きを見せる。しかし、その後も現在の状況をベースに時事ネタが次々と投入されていった。


 コロナ禍の中、蛭間外科分院長(西田敏行)が銀座のクラブに「視察」と称して出かけるのは、緊急事態宣言下で銀座のクラブを「訪問」して自民党を離党した松本純元国家公安委員長(今年11月に復党)らのことを彷彿とさせるし、言っていることの調子はいいが、「言ってることがペラペラなんだよ!」と大門未知子に罵倒される榎本環境大臣(徳重聡)は小泉進次郎前大臣そっくりだった(個人の感想です)。


 時事ネタは『ドクターX』の得意技だ。2017年のシーズン5では、当時旋風を巻き起こしていた小池百合子東京都知事を彷彿とさせる女性院長・志村(大地真央)が登場したし、第4シリーズには舛添要一前東京都知事を思い起こさせるセコい国会議員(西岡徳馬)が登場した。第3シリーズでは原守(鈴木浩介)が、“号泣議員”こと野々村竜太郎元兵庫県議の記者会見のモノマネを披露してみせた。後で見返すと古く感じてしまいがちな時事ネタでも、恐れず貪欲に取り入れていくのが『ドクターX』の真骨頂である。


 第7シリーズの時事ネタの特徴は、パロディー的なものにとどまらなかったことだ。第4話には、ステイホーム中に医療従事者を歌の配信で励ましていたミュージカルスター・四季唯花(凰稀かなめ)が登場し、彼女の心意気に応える形で大門未知子が難手術を行った。第7話には医療系インフルエンサーとして知名度を得た森本光(田中圭)が再登場するが、「不要不急の来院自粛」を動画で呼びかけて、ファンの女性(根岸季衣)のがん発覚を遅らせるという事態を招いてしまった。


 大門自身もコロナ禍がピークに達していたニューヨークの医療現場で「戦場だった」「あんなに患者が死ぬのを見たことないわ」と振り返るほどの苛烈な経験をしてきており、口実を作って現場から逃げ出した興梠(要潤)を軽蔑する一方、感染症の医療現場に真摯に取り組んできた一木蛍(岡田将生)や蜂須賀に敬意を払っていた。


 もともと時事ネタが得意だったことに加え、コロナ禍という医療ドラマにとって極めて重要な時事ネタに真正面から取り組んだのが『ドクターX』ということになる。同クールの医療ドラマ『ラジエーションハウスII~放射線科の診断レポート』(フジテレビ系)が原作ものであることからコロナ禍に触れなかったことと好対照である(そのこと自体に優劣があるわけではない)。


 内山聖子エグゼクティブプロデューサーは『ドクターX』に時事ネタを取り入れることについて、かつてこのように語っていた。「今の時代に視聴者の皆さんが反応することと同じことに、登場人物たちも反応している。大門未知子や他の先生たちもみんな、視聴者の皆さんと同じ時代を生きている」「それぞれの年の『ドクターX』になればいいなと思っています。テレビドラマは基本的には時代と添い寝するぐらいの感じで作るので、常に今を意識しています」(※参考)。


 大門未知子が無敵になりすぎたことで、やや対立構造が弱まってしまった感のある第7シリーズだったが、インパクトのある新キャラ、ナースXこと那須田灯(松下奈緒)を登場させたりするなどの手を打った上、時事ネタをガッツリと入れることでテンションを維持したように見える。


 なによりも大門未知子をはじめとする登場人物たちが、我々と同じ時代を生きていると思わせてくれたことが人気につながったのだと考えられる。テレビドラマはいつだって時代を映すもの。近い将来、『ドクターX』の第7シリーズを見ながら「ああ、あのときは大変だったな」と思い返すときが来るはずだ。


※参考
脚本冴える「ドクターX」なぜ時事ネタ 命テーマもユーモア大事― スポニチ Sponichi Annex 芸能https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2016/12/01/kiji/K20161201013822860.html


(大山くまお)