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『最愛』大輝にとっての一番重要な真実がそこに “事件”が描かれた第1話を熟考する

2021年12月16日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『最愛』(c)TBS

 衝撃の言葉に耳を疑った。『最愛』(TBS系)第9話で藤井(岡山天音)が大輝(松下洸平)に放ったのは「15年前、あの台風の夜。本当は事件の現場におりましたよね?」という問いだった。


【写真】向かい合う梨央(吉高由里子)と大輝(松下洸平)


 最終話を目前に、大どんでん返しを予感させるこの言葉に視聴者も騒然。事件を追う立場であった大輝にまで疑惑の目が注がれる。これまで一途に最愛の相手を慕い続け、梨央(吉高由里子)と優(高橋文哉)を支えてきた大輝だけに、犯人であってほしくないという願いが心を渦巻く。今回は、そんな大輝の疑惑を少しでも晴らすべく、第1話で中心に描かれたあの夜の出来事を振り返りたいと思う。


 “15年前の台風の夜”とは、大学院生の渡辺康介(朝井大智)が殺され埋められた“9月21日夜から9月22日未明”のことだ。その晩、姉を庇った幼い朝宮優(柊木陽太)にペグで腹部を刺された康介は死亡し、遺体は達雄(光石研)によって山中に埋められた。藤井の言葉が本当なら、必然的に大輝もこの事件に関わっていることになるだろう。


 では当時、大輝は何をしていたのだろうか。“9月21日”の大輝は、陸上部の打ち上げに参加せずに達雄の車で姉の結婚式に出席するために駅に向かっていた。次に行動が明らかになるのは“9月23日”で、推薦試験を終了した梨央の携帯に大輝から写真付きのメールが届いたことから、大輝がこの日、姉の結婚式に参列したことが伺える。


 続いて、車で駅へ向かってから結婚式参列までの空白の時間を考えてみたい。大輝が仮に“9月21日”の夜に駅から引き返し、何らかの形で事件に関わっていたとしたらどうだろうか。大量の血や泥がついた衣服のままでは寮に帰ることも、大阪に出ることも不可能だろう。達雄が泥だらけで帰ってきたのは、直前に梨央が目覚まし時計で確認した時間で朝方の4時12分以降であることがわかる。大輝が達雄を手伝っていたとしたら、ふたりが遺体を埋め終わったこの時間には辺りは徐々に明るくなりはじめ、大量の泥や血痕を付けたままウロウロするには難しい時間帯だろう。達雄は家の洗濯機や風呂を使って証拠を洗い流すことができたが、大輝は寮で集団生活をしている以上、証拠を隠滅するのは難しいのではないかと感じる。


 さらにふたりの大切なお守りにも言及したい。元々は梨央が陸上部の受験生たちに贈った白いお守りだが、大輝は梨央の受験前に合格を祈願して自分の分を梨央に持たせている。梨央は“9月21日”の晩にズボンのポケットからそのお守りを取り出し、中にあるノートの切れ端を見つけることに。そこには大輝が自ら書いた「必勝合格! 百戦百勝!」の文字が記されていた。このお守りはその後15年の時を経て白骨死体とともに発見されるが、なぜそこにあったのかは分かっていない。達雄が康介の遺体と衣服を別々の場所に埋めたことは既に明らかになっていることから、もし康介がお守りを盗んで所持していたのなら衣服の方から発見されるべきだったろう。梨央がお守りを持っていたことを知る達雄と大輝が誤って遺体の場所に落とすということも考え難い。なぜならこのふたりは疑いの目が梨央に向くようなことには細心の注意を払う人物だからだ。


 いずれにせよ、大輝の影を一番色濃く感じられるのが自筆のメッセージ付きのお守りの存在だ。だとしたらこのお守りは、あるべくしてそこから発見されたと考えられるのではないだろうか。つまり「大輝の書いた字だと気づいていた何者かが、大輝に濡れ衣を着せるために紛れ込ませた」と考えることもできるだろう。お守りを紛れ込ませた人物の特定には言及しないが、藤井もまた大輝の字を知っているうちのひとりであるからこそ、冒頭の発言に繋がったのではないか。当時、陸上部のエースとして活躍していた大輝は、目立たない存在ではなかったはずだ。加えて梨央と特別に親しかったことは多くの人が気付いていた。大輝を妬む人物がいても不思議ではないゆえ、大輝はそんな人物にはめられてしまったのではないだろうかと推測する。


 大輝が梨央を「最愛の人」として大切にしてきたことこそが、本作において一番重要な“真実”だ。これまで胸を締め付けられるような思いでふたりを見守ってきた私たちの元にも、大輝と梨央の深い絆はしっかりと届いている。加えて私たちは、大輝が梨央を愛していることと同じくらい、彼がまっすぐな人物であることも心得ている。事件に加担することや、事件のことを知ったまま黙って警察官という職務につける男ではないのだ。正義を突き進む熱い男だという側面も見てきたからこそ、視聴者が大輝を信じる気持ちも大きいだろうと感じる。今、望むのは、かつてのように太陽の下で大輝と梨央、そして優が笑顔を向けあう姿が見られることだ。そうでないと、最終話までに丁寧に描かれてきた大輝の人となりを信じてきた私たちの行き場のない気持ちが消化できない。これだけ魅力的に、愛と正義を貫く男性に罪を背負わせるなんて受け入れたくないのだ。


 しかし、始まった物語には必ず終わりがある。事件の真相を解き明かすことはもちろん、ラストで描かれる梨央と大輝に、かつてのような明るく幸福に満ちた未来が訪れていることを願ってやまない。


(Nana Numoto)