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森口将之のカーデザイン解体新書 第51回 スバル「WRX S4」のフェンダーはSUV風? 実はスポーツカーの象徴だった!

2021年12月14日 07:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
7年ぶりのモデルチェンジで新型になったスバルのスポーツセダン「WRX S4」は、SUVを思わせるフェンダーなど、デザインも見どころが多い。どのような考えで形を考えていったのか。プロトタイプ試乗会でデザイナーに聞いた。


○4年前のコンセプトカーが出発点



新型WRX S4のデザインをまとめたのは、商品企画本部 デザイン部の源田哲朗氏だ。先代レヴォーグも手がけた方で、そのときにも話を聞いたことがある。



同氏によれば、新型のスタイリングにはルーツがあるとのこと。スバルが2017年の東京モーターショーに参考出品したコンセプトカー「VIZIVパフォーマンスコンセプト」だ。たしかに、写真を見比べると似ている。


源田氏によると、VIZIVパフォーマンスコンセプトは「スバルのデザインフィロソフィーである『DYNAMIC×SOLID』を、車種ごとの個性を大胆に際立たせていく『BOLDER』に進化させていく中で製作」したとのこと。モーターショーでは大好評で、「市販車として出してくれ」という多くの声が寄せられたという。



新型WRX S4のデザインで話題になっている、SUV風にも見えるブラックの前後のフェンダーアーチは、実はVIZIVスポーツコンセプトのときから存在していた。


たしかにこうしたフェンダー処理を現代的な感覚で見ると、「SUVっぽい」という感想になるかもしれない。しかし1960~70年代には、スポーツタイプに装着されるのがむしろ一般的だった。高性能化に備えて太いタイヤを履くためで、日産自動車の「スカイライン2000GT-R」や「フェアレディ240ZG」のように、ボディカラーではなくブラックやグレーに塗られた車種もあった。


新型WRX S4も先代に比べ、トレッド(左右タイヤの間の距離)を前後とも30mm広げている。フェンダーアーチはこれをカバーするためでもあり、全幅も先代WRX S4や同じクラスのワゴンである現行「レヴォーグ」に比べ、やはり30mm広い。



同じ車種のモデルチェンジでトレッドがここまで変わるのは珍しいが、コーナーでの踏ん張り感は確実にアップしているので、個人的にこのディテールには納得している。


○単なる飾りにはしないスバルのこだわり



しかも、このフェンダーアーチを含めたブラックのボディパーツには、スバルらしく機能も込められている。「ブラックの樹脂部分にはヘキサゴン模様を入れていますが、これはただの柄ではなく、空力面での安定性を高めるという機能を持たせたテクスチャーなのです」というのが源田氏の解説だ。


ヘキサゴン(六角形)は「スバル」というブランドネームに由来している。おうし座のプレアデス星団でとりわけ明るく輝く六連星を、日本では昔から「昴」(すばる)と呼ぶ。「スバル」は、同社の前身である富士重工業が6社の合併で誕生した経緯を踏まえたネーミングだ。



なので、スバルのロゴマークには六連星が描かれているし、グリルもヘキサゴンだ。新型WRX S4ではそのブランドイメージを、空力的な機能を盛り込んだうえで、ブラックパーツにも反映させたのである。



フェンダーの頂点の部分に、やや前下がりの直線が入っていることも特徴だ。この直線は前傾姿勢を強調するとともに、低く見せる(SUVっぽく見せない)という役目も担っているという。これもVIZIVパフォーマンスコンセプトから受け継いだものだ。

次に全体のプロポーションに目を向けると、まず真横から見たシルエットでは、前輪とキャビンが近く、後輪はキャビンから逆に離れ気味の、いわゆる「キャビンフォワード」であることに気づく。これは、水平対向エンジンを前輪の前に縦置きした、現在の市販車ではスバルだけが採用する独自のパッケージングのためだ。先代WRXも同様のフォルムだった。


その中で新型は、現行「インプレッサ」から導入を始めた新世代プラットフォームをレヴォーグに続いて採用し、ホイールベースを25mm伸ばした。ボディサイズは全長4,670mm、全幅1,825mm、全高1,465mmで、先代より75mm長く、30mm幅広く、10mm低い。



最近はマツダ各車がそうであるように、前輪とキャビンを近づけることができる前輪駆動車であっても、あえて間隔を開けることで、後輪駆動車に近いプロポーションを獲得している例が見られる。



この点について源田氏は、「もちろんトレンドはチェックはしていますが、重きは置いていません」と説明。とはいえ、古く見えるような造形はやらないよう心がけていると語っていた。

○スバルなのにブルーじゃない? イメージカラー決定の理由



フロントまわりは現行レヴォーグに似ており、ヘキサゴングリルの両端のエッジが伸びてヘッドランプに食い込む彫りの深い造形だ。ただし、新型WRX S4ではバンパーの下側をすべてブラックパーツとしているので、容易に見分けがつく。



リアは同じスバルのスポーツカー「BRZ」に似たコンビランプが目につくが、もちろん別物だ。源田氏によれば、マグマのような表現を目指したそうで、あえてランダムにLEDを並べつつ、法規もクリアしているという。


リアフェンダーの張り出しが先代より目立つことも特徴だ。先代では逆に、フロントフェンダーの踏ん張り感のほうが印象的だったが、エネルギーやパフォーマンスを表現するためには、リアを強調したほうがいいと考えたそうだ。



ボディカラーではオレンジをイメージカラーに起用した。WRX S4といえばブルーを思い浮かべる人が多い中で、異例の決断だ。



「ソーラーオレンジ・パールという名前の新色で、『XV』にあったオレンジとは違います。太陽をイメージして、エネルギーを表現しました。新型を印象づける色だと思っています。あわせてソリッドの赤と白も用意しました。白はややグレーがかった、スポーツモデルっぽい色を目指しました」(源田氏)


インテリアはインパネ中央の巨大な縦長ディスプレイなど、レヴォーグとの共通部分が多いが、カラーコーディネートは独自のものだ。スポーツセダンではあるが、落ち着きも感じる空間だった。



「インテリアはドライビングの楽しさと、スバルならではの安心安全を両立させることを目指しました。興奮させつつ邪魔はしない空間を心がけています。そのために赤いステッチの入れ方などを吟味しました」


シートやドアトリムなどに使われる赤についても、鮮やかさは抑え、ボルドー風にしたとのこと。スバルのスポーツモデルとしての期待はもちろん理解している一方、北米では富裕層が通勤などの普段使いに使うシーンも多いことから、仕立てに配慮したそうだ。



そういわれてみるとエクステリアも、デザインコンセプトの「アグレッシブ」をブラックパーツで表現したおかげで、ボディのキャラクターラインは少なくなり、先代より落ち着いて見えるようになった。いまや希少な国産スポーツセダンということで、国内でもユーザー層を広げていくかもしれない。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)