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ビームになぎ倒されるビルはまさかの人力破壊!自主怪獣映画撮影の裏側

2021年12月13日 12:01  おたくま経済新聞

おたくま経済新聞

ビームになぎ倒されるビルはまさかの人力破壊!自主怪獣映画撮影の裏側

 アマチュアの自主制作映画は予算面などの制限から、プロの商業映画とは違った形で撮影しているケースが多くあります。特撮についても同様ですが、最近はCGである程度代用できることも。そんな中、とある自主制作の怪獣映画で、怪獣がビルを破壊するシーンにCGを使わず、ミニチュアを人力で壊すアナログな撮影風景が公開されました。


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 大学で映画を学んでいる佐藤高成さんは、仲間と一緒に怪獣映画「海鳴りのとき」を自主制作し、監督を務めました。本作は2021年11月の第4回熱海怪獣映画祭で開催された「第18回全国自主怪獣映画選手権 熱海大会2021」に出品され、見事に優勝。主催者の田口清隆監督(2012年以降のウルトラシリーズや「魔進戦隊キラメイジャー」など)からも激賞されたといいます。


 自主怪獣映画「海鳴りのとき」の舞台は海が見える街。高校時代に仲の良かった女性・汐里を突然失った心の傷を抱え、塞ぎ込んだまま生きる主人公の瀬尾昭人を中心にしてストーリーが展開します。


 汐里が死んでしまったように、いずれ自分たちにも「世界の終わり」が来ると感じる昭人。彼の心を映したのか、ある日突然怪獣が現れ、街をなぎ倒していきます。


 怪獣はビームを放ち、ビルを破壊します。この破壊され、崩れ落ちていくビルはどのように撮影されたのだろうか……ということが、壇上の田口監督から述べられたとのこと。その種明かしを、監督した佐藤さん自らがTwitterに動画で投稿しました。


 CGで作り上げたのかと思いきや、佐藤さんが示した撮影風景は、昔ながらのグリーンバック(クロマキー)撮影。ミニチュアのビルをグリーンの全身タイツを着たスタッフが、同じくグリーンの木刀のようなバットで「えい!」とばかりに物理的に破壊していたのでした。


 クロマキー撮影では、グリーンの部分を透過レイヤーとし、その部分に別の映像を合成します。このため、グリーンタイツマンもグリーンバットも出来上がりの映像には映らず、横から何かの力で切り裂かれ、壊れるビルだけが画面に残るという仕掛け。


 監督した佐藤さんにうかがうと、特撮シーンは怪獣が出現するシーンのみフルCGとし、そのほかはダンボールやスチレンボードなどで作ったミニチュアや着ぐるみを使って撮影して、素材を画面上で合成する「デジタル合成」を使用したとのこと。フルCGは見かけ以上に、仕上がりまで結構時間がかかりますものね。


 合成カットは1か月かけて撮影したそうで「授業でも習うモノではなかったので、プロの特撮作品をコマ送りで再生して研究しつつ独学で勉強しました」と、先達の作品を隅々まで見て、自分たちに適した撮影法を見つけていったようです。


 ビームでビルが破壊されるカットは、スチレンボードなどで作ったミニチュアをバットで物理的に破壊し、実景のカットとデジタル合成しつつ、CGで作成したビームなどの効果をプラスしたもの。撮影風景では、画面の左から右へバットが動いてビルを破壊していますが、本編では左右反転して使用されています。


 バットで破壊することにした理由について、佐藤さんは「プロの現場だとビル破壊の演出の際は、火薬を使った爆発を行うのですが、素人が火気を扱うことはできないので、どうにか勢いのある破壊表現はできないか、と考えた結果がこれでした」と語ってくれました。


 プロの撮影現場では、取扱資格を有するスタッフが火工品(小さな爆竹のようなもの)をミニチュアに仕込んで爆発させ、高速度撮影してスローモーションにすることで、粉々に破壊される様子を表現しています。苦肉の策とはいえ、バットでなぎ倒すのもビームの破壊力をよく見せているように感じますね。


 もちろん、ミニチュアの代替品を用意して何度も撮影し、良いカットを選ぶという余裕はないので、バットでの破壊は一発勝負。「懸念はビルが根本から吹っ飛んでしまうことでしたが、狙い通りの階層部がきれいに壊れてくれました」と佐藤さん。メイキング映像にはミニチュアが倒れないよう、箱馬の下で押さえているスタッフの姿も映っていますね。


 予算や技術の足りないところは、アイデアと工夫で乗り切るというのが自主制作映画の醍醐味。ミニチュアのビルをグリーンタイツマンで破壊するというのも、迫力を見せる良いアイデアだったと思います。


 映画の話に戻ると、なんとか生き残った昭人は、どこへともなく去っていく怪獣を見送りながら、汐里の残した言葉を噛みしめ、生きていくことを誓うという前向きな結末を迎えています。佐藤さん監督の「海鳴りのとき」は、YouTubeで全編が公開されています。



<記事化協力>
佐藤高成さん(@deletoku)


(咲村珠樹)